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原田靖博の内外金融雑感


Uber(スマホを活用した個人間のタクシーサービス)に対する規制は是か非か

2015/10/6
 

フューチャーアーキテクト株式会社
取締役
 経済・金融研究所長
原田靖博

 第14回の本コラム(P2P LendingとBanking  2014年9月30日)で言及したUber(ウーバー)は、P2P(peer to peer、個人間)で、タクシーサービスを安価・迅速に提供できる仕組で、スマホの普及(いつでもどこでも利用可能)およびGPSの進歩(ピックアップ場所および行先の正確な把握)により、利用が拡大し、現在、世界60か国、340都市に展開している。
 しかし、日本および欧州では運輸当局の規制およびタクシー業者の反発によって、サービス内容を大幅に縮小したり(日本)、事業所への立入調査・関係者の拘束等(フランス)が行われるなど、必ずしも順調に拡大している訳ではない。
 これと同様の事情は、もう一つの有力なP2PサービスであるAirbnb(旅行者に対する宿泊スペースの提供)でも見られている。
 本稿では、以下の通り、Uber発展の状況を紹介するとともに、規制の是非に関しても検討を加えていくこととする。

1. Uberの事業展開と資金調達
2. Uberの日本における事業展開と運輸当局の規制
3. Uberの諸外国での事業展開と規制
4. P2Pタクシー業務に対する規制の是非

  1. Uberの事業展開と資金調達

    1. Uberのビジネスモデル
      @ タクシー利用者は、スマホ上でUberのアプリを使い、氏名、属性および支払に使用するクレジットカード情報を登録する。
      A ドライバーは、一定水準以上の車輛を準備し、運転免許情報、運転履歴、自動車保険情報、身許情報(犯罪履歴)等をアプリ上で登録する。
      B 利用料金は、需給の状況を反映して変動する。
      C タクシー降車後、利用者、ドライバーがお互いを評価する。
      D Uberは、ドライバーからタクシー料金の一定割合(10%程度)を利用者情報提供料として受取る。
      E Uberは、ドライバーの要請に応じて、自動車購入費用および保険料を融資する。

    2. Uber利用の流れと従来のタクシー対比優位な点
      @ 利用者は、スマホアプリで配車リクエストすると、GPS情報により、直近の空車ドライバーに乗車希望地等が伝達される。これにより、ドライバーは効率的に利用者を獲得できる。
      A 利用者は、ドライバーの評価情報等を参考にして利用者車輛を決定する。スマホ上に、ドライバー氏名、到着予定時刻が表示される。
      B 目的地を入力すると、ドライバーおよび利用者のスマホ上に経路が表示される。上記@Aはスマホ上で行われるため(迂回等により不当に料金を請求されることはなく)、翻訳機能を活用すれば、利用地の言語を理解できなくても利用可能。
      C 利用料金支払は、事前に登録したクレジットカードにより自動的に行われる。外国旅行客の場合には、空港等で現地通貨に両替することなく、タクシーの利用が可能となる。
      D 使用する車種により、UberX(小型車)、UberXL(中型車)、UberBLACK(大型車、ドライバーはリムジンサービスライセンス保有)、UberSUV(大型SUV)の4種類に分かれており、乗車料金もサイズに応じて高くなる。

    3. Uberの資金調達
      @ Uberは、2009年8月、Mr. Travis Kalanick(1976年生、UCLA卒)がサンフランシスコで起業し、現在に至るまで9回、累計100億ドル(約1兆2千億円)の資金調達を実施している。出資者には、ベンチマークキャピタル、グーグルベンチャー等のベンチャーキャピタルの他、フィデリティー、ブラックロック(資産運用会社)経由の年金基金あるいはモルガンスタンレー、ドイツ銀行、ゴールドマンサックス等の大手投資銀行も名前を連ねている。
       こうした資金は、米国および欧州諸国での事業拡大に使われている。さらに、本年に入って、中国の検索大手百度(Baidu)から12億ドル、インドのタタ財閥から1億ドルを調達している。
      A Uberは非上場ながら、その企業価値は本年9月時点で500億ドル(6兆円)と推定されている。これは、航空貨物輸送大手のFedex(同400億ドル)を上回る水準。
      B 米国には、Lyft、Sidecar等、Uber同様のサービスを提供する企業が数社あり、これらも活発な事業展開および資金調達を行っている。
       日本のIT企業では、楽天が本年3月Lyftに対して3億ドルを、ソフトバンクもSidecarに相当な規模(金額非公表)を出資済みと言われている。

  2. Uberの日本における事業展開と運輸当局の規制

    1. Uberの業務展開
      @ Uberは、2015年2月5日から、福岡市において「株式会社 産学連携機構九州(2000年九州大学が設立したTLO)」とパートナーシップを組み、研究機関等に渋滞データの提供を行う実証プログラムのかたちで、サービス提供を開始した。
       実証実験の性格上、利用者に対して無償でサービスを提供し、ドライバーには情報提供料の名目で実費を補填することとしていた。
      A これに対し、2015年3月2日、国土交通省は「2006年9月29日付同省自動車交通局旅客課長通達」に反する「白タク営業」に該当するとして、中止を求める行政指導を行ったとされている。
      Uber Japanでは、この行政指導を受け、3月5日福岡市での実証実験を終了した。
      B Uber Japanでは、現在、東京都心において「UberBLACK」(ハイヤー業務)および「UberX」(タクシー業務)を既存業者(「エムケイタクシー」と言われている)と提携するかたちで提供中。
       料金についても、現行のハイヤー・タクシー料金に準拠しており、Uber Japanに料金面での魅力はない。日本交通等は、スマホを活用したハイヤー・タクシー予約システムを提供しており、Uberはこれらと大差ないサービスを提供するに止まっている。

    2. 運輸当局の規制
      @ 上記国土交通省旅客課長通達は、道路運送法78条で規定する「NPO法人等が社会福祉活動等を行ううえで必要な運送を行う場合に無許可で有償運送が認められる範囲について」考え方を整理したものである。国土交通省は、これを機械的に適用して、Uber Japanの福岡プロジェクトを同条で認める有償運送の対象外と認定し、道路運送法第4条で要求している国土交通大臣の許可を得ていないため、「白タク営業」と判断したものと思われる。
      A この国土交通省の判断は、二重の意味で大きな問題を内包していると言わざるを得ない。
      一つは、Uber Japanの福岡プロジェクトが道路運送法78条で想定する“有償運送”の範囲外であることを認識していながら、同条関連の旅客課長通達を援用して「白タク営業」と判断している点である。
       二つ目としては、Uberの行おうとする業務を多面的に分析すれば、道路運送法第1条に規定する「道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進を図る」ことに適合する可能性が高いにもかかわらず、そうした検討を全く行っていないことも問題である。
       検討を進めて行けば、Uber業務が同法の目的を達成するために必要な「情報の取次ぎ事業」であることが明らかになるはずであり、同法2条3号に規定する「旅客自動車運送事業」には該当しないとの結論になる。必要があれば直ちに、道路運送法を改正し、Uber事業を同法のなかに適切に位置付けるべきである。こうしたプロセスを経ないで、Uber事業者について否定的な結論を導き出したことは、ITの急速な進歩とその役割を全く認識していない時代錯誤の行政である。あるいはタクシー業者およびその背後にある利権政治家の圧力を惧れたのであれば、日本国憲法15条2項の「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」の規定に背違するものと言わざるを得ない。

  3. Uberの諸外国での事業展開と規制

    1. 米国
      @ Uber利用可能都市
       Uberのホームページによると、2015年9月末現在米国では、ニューヨーク、ボストン、シカゴ、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、ワシントンDC等の主要都市を含む169都市でUberサービスが利用可能としている。
      A Uber事業の正当性
       Uberは、起業時から利用可能な自動車・ドライバーと自動車で移動を希望する者をインターネットで結びつけるdigital serviceであり、自動車を有償で提供する運送会社ではないと主張した。加えて、移動サービス利用者の安全を確保するために、ドライバーからは身許証明、犯罪歴・自動車事故履歴の提出を受け選別を行うとともに、十分な金額の自動車保険を掛けることを求めていると説明。
       また、インターネットに繋がったスマホを活用することにより、必要とされる場所に必要な自動車を迅速に配車することが可能であり、サービスの利用者の待ち時間の短縮およびドライバーの無駄な客待ち時間の解消が実現するとUberサービスの効率性の高さを訴えている。
      B 既存タクシー業者の抵抗の排除
       こうしたUberの主張にもかかわらず、仕事が奪われることを懸念するタクシー業者は、強力な反対運動を展開し、Uber事業自体を阻止することは出来なかった(禁止する根拠法令が存在しないため)が、その増加幅を一定限度に止めることに成功した。
      これに対し、Uber創業者Kalanickは、豊富な自己資金を活用し、ドライバーに資金を融資し良質な車輛を多数準備することにより、利用者の拡大を図った(2011年の時点で200万人以上を確保)。
       また、オバマ大統領の選挙参謀であったプルーフ氏をUberの取締役として迎え入れ、デ・ブラジオ ニューヨーク市長、クオモ ニューヨーク州知事(いずれも民主党)に対して強力な働き掛けを展開した。
       元々、ニューヨーク市のタクシー台数は13,600台と人口に比して少なかった(この結果、タクシー免許は2014年には1台当り965千ドル〔約1億1千万円〕で売買されていた)ことから、Uber増車は低所得者に対しても安価で良質の移動サービスを提供し、雇用も増大させるとの主張は、十分説得力を備えることとなった。
       こうした事情を踏まえ、本年7月22日ニューヨーク市のデ・ブラジオ市長は、Uberの上限を撤廃するとの決定を下した。
      C Uberのドライバーは被傭者か独立事業者か
       カリフォルニア州労働監督官は、2015年6月、Uberドライバーは勤怠・運転成績に応じて、Uberから報奨金を貰っていることを根拠に、Uberの被傭者(employee)と見なすべきであるとの判断を下した。この結果、Uberは社会保険料・疾病休暇等の追加コストを負担する惧れが出て来た。Uberは、ドライバーは勤務時間・勤務場所を自由に決めることができる点を根拠に独立事業者であると主張し、労働監督官の決定は納得できないとして裁判所に提訴した。

    2. EU諸国
      @ 多くのEU諸国では、Uber事業は現状禁止
       フランス・ドイツ・イタリア・スペイン・オランダ・ベルギー等EU主要国では、UberX(安価なタクシー形態のUber事業)は裁判所の決定によって、禁止されている。
      パリでは、本年7月Uber Serviceの自動車がタクシー業者に襲われ、炎上する騒動が起きている。同地所在のUber欧州本部は、監督当局の家宅捜査を受け2名の最高幹部が逮捕・拘禁された。
       また、オランダではUber事業所に3度に亘って当局の捜査が入り、45万ユーロ(約60百万円)の罰金支払命令が出ている。
       イギリスでは、Uber事業自体は禁止されていないが、ドライバーはスマホで呼び出しがあっても5分間は待たなければいけないうえ、スマホ画面の地図上に空き自動車の所在地を表示することが禁止されるとの制限が付けられている。この結果、Uber同様の業務を展開する2社(Hailo、Kabbee)が廃業している。
      A 欧州最高裁判所は、今秋Uber事業について決定
       欧州最高裁判所(The European Court of Justice)は近くUber事業をdigital service会社とみるべきか、transport companyと考えるべきかに関して、最終決定を下すと見られている。
       欧州委員会も、欧州最高裁の決定を待つ間に、Uberを欧州レベルで如何に規制すべきかについて検討を開始した。

    3. インド・中国
      @ インド
       インドでは、スマホ利用の自動車手配業務は、Uberおよび地場大手のOlaによってムンバイを中心に展開されている。Uberは、インドでの業務に10億ドルを投資する計画を有しており、Ola社の買収も検討していると伝えられている。
      UberおよびOlaは、インドの規制に従い無線タクシーの免許を得ている。
       しかしながら、既存のタクシー業者は両社の業務の完全停止を求めて、タクシー車輛で道路をブロックするなど激しい抗議活動を続けている。
      A 中国
       Uberは、中国市場で事業拡大を狙っており、地場業者Didi Kuaidi(本年初、Didi DacheとKuaidi Dacheが合併して誕生、時価総額150億ドル〔1兆8千億円〕)と競争を展開している。
       中国では、Uber事業は運輸当局の許可が必要とされているが、実際に摘発検挙される業者は中小零細に限られており、Uber、Didi Kuaidiとも何ら制約なしで業務を遂行していると聞く。

  4. P2Pタクシー業務に対する規制の是非

    1. 基本的な認識
       Uberが提供しているP2Pタクシー業務は、既存の同業務と比較して、安全・安心・安価なうえ無駄な空車待ちも少なく資源配分上もロスが少ない、格段に優れた仕組である。今後のIT技術の進歩により、現状対比さらなる質的改善も期待できよう。
      既存のタクシー業務についても、今後ITの活用により改良が見込まれるが、所詮センター集中処理であり、徹底した分散処理システムであるUberとは根本的に異なり、業務処理の効率・品質において両者の間には大きなギャップがあることを認識すべきである。
      したがって、既存のタクシー業者の生き残りを優先して、Uber事業を否定・禁止することは大きな誤りである。
       真面目にやっているタクシー業者に何の落度もないのに何故没落させるのかの問いに対しては、「それが社会の進歩というものである」との答えに尽きる。
       誤解を避けるために言っておくが、Uberの発展によっても顧客をその指示に基づきA地点からB地点に移動させる業務、したがってドライバーは存続し、消えて無くなるべきは寡占のうえに胡坐をかき、1台当り965千ドル(〔1億1千万円〕ニューヨーク市)、240千ユーロ(〔3千万円〕パリ市)という高額のタクシー権利料の恩恵を享受しているタクシー会社である。

    2. 我国の対応
       本件に対する我国の対応で気になることは、国土交通省がUber事業の利害・得失を真正面から議論していない点である。
       カルテル体質が強く、Uberに対して激しい拒絶反応を示している欧州においても、P2Pタクシー業務の是非に関しては、欧州最高裁判所まで巻き込んで幅広い観点から議論をしている。
      「臭い物には蓋」ではなく、「臭い物ほど徹底的に解明」すべきである。

       蛇足になるが、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会には、現在Uberが普及しているアメリカ・中国・インド等から多数の来訪者が見込まれる。彼らはUberに慣れているため、東京においても言語の制約がなく(Uber社が適切に対応すれば、ドライバーのスマホは日本語で出発地・目的地が表示され、乗客のスマホには英語・中国語等で表示)、支払も容易なUberの利用を強く望むであろう。
       国交省としては、Uberに頼ることなく、膨大な来訪客を満足させるだけの各種言語・地理に熟達したタクシードライバーを準備する成算が立っているのであろうか。


以上

 

 

 

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更新日:2015/10/08