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内部告発者法(その5): アメリカの内部告発者保護法

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

ここまではアメリカと日本における「内部告発奨励法」の歴史を見てきましたが、次に「内部告発者保護法」の歴史を見ることにしましょう。今回はアメリカの内部告発者保護法の歴史を見て、次回は日本の内部告発者保護法の歴史を見ることにします。
アメリカには50の州があり、その他にもいくつかの準州・連邦領・信託統治領などがありますので、「アメリカでは」とは一概に言えませんが、少なくともニューヨーク州などの主要な州では、雇用契約は雇用主(会社)からでも被用者(会社員)からでもいつでも何らの理由なしに解約できる 、という伝統的な法理 (the “employment at will doctrine”) があります。したがって雇用主には解雇の自由がある、というのが原則です。しかし、この原則には3つの例外があるとされています。1つは、雇用期間の定めがある場合です。2つは、特約がある場合です。労働組合員であれば労働組合と使用者との間の労働協約に「使用者は正当な理由がなければ労働者を解雇してはならない」という特約が盛り込まれるのが通常なので、この労働協約上の特約が雇用契約上の特約になります注1 。3つは、特別の解雇制限法律が存在する場合です。「内部告発者保護法」は、まさにこのような解雇制限法律なのです。「内部告発者保護法」とは、雇用主の不正を内部告発する被用者を雇用主の報復(たとえば、解雇・降級・停職・脅迫・嫌がらせ・差別待遇など)から保護することを目的とする法律を指します。雇用主の不正を内部告発する被用者をwhistleblowerということから、「内部告発者保護法」をwhistleblower protection statutesと呼びます。Whistleblowerとは、口笛を吹いて他人に注意を喚起する人、という意味です。アメリカの連邦法である1935年NLRA (The National Labor Relations Act of 1935) のSection 158(a)(4)は、次回で触れる予定の日本の労働組合法7条4号の源となった規定ですが、労働者が連邦労働関係局 (National Labor Relations Board) に対し使用者が不当労働行為 (unfair labor practice)を行った旨の申立てをしたこと、あるいは、労働者が連邦労働関係局での手続において証言したことなどを理由として、その労働者を解雇したり、その他不利益な取扱いをすることを禁じています。このSection158(a)(4)が、連邦レベルでの最初のwhistleblower protection statuteでした 注2。その後に多くのwhistleblower protection statutesが連邦レベルのみならず州レベルでも制定されています注3 。たとえば、連邦レベルでは、Whistleblower Protection Act of 1989 注4とかThe 2002 Sarbanes-Oxley Act 注5などを含む60以上の内部告発者保護法がありますし注6 、州レベルでも、ニューヨーク州の労働法Section 215と Section 740とか公務員法Section 75-bなどを含む多くの内部告発者保護法があります。

 

 

脚注
 
注1 労働協約にこのような特約がない場合、裁判所は、特約の存在をなかなか認めない傾向がある、とのことです。たとえば、ニューヨーク州の場合、Murphy v. American Home Products Corp., 461 N.Y.S. 2d 232 (Ct. App. 1983); Sabetay v. Sterling Dwg, Inc., 514 N.Y.S. 2d 209 (Ct. App. 1987)などを参照。
 
注2 1935年のNLRAの制定後は、労働組合が結成されると、使用者との団体交渉による労働協約において、広く「使用者は正当な理由がなければ労働者を解雇してはならない」という特約が盛り込まれるようになった、とのことです。
 
注3 http://whistleblowerlaws.comは便利なサイトです。Guttman(ワシントン特別区・ニューヨーク州), Lugbil(オハイオ州),Susskind(フロリダ州)という3名のアメリカ弁護士が運営するサイトで、連邦レベルの内部告発者保護法の一覧表が掲げられています。
 
注4 奥山俊宏、内部告発の力、現代人文社(2004年4月)、128頁以下(◎ホイツスルブロワー保護法◎);宮本一子、内部告発の時代、花伝社(2002年5月)、65頁以下(保護法は「ダンボールでできた盾」か)
 
注5 奥山俊宏、内部告発の力、現代人文社(2004年4月)、152頁以下(◎職業安全衛生法から企業会計改革法まで◎)
 
注6 上記注3のhttp://whistleblowerlaws.comのサイトのThe Law: An Overview ( http://whistleblowerlaws.com/law.htm )に“Click here to view a list of those statutes”とある箇所をクリックすると連邦レベルでの内部告発者保護法の一覧表が出てきます。 
 


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