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大塚正民の考古学と考古学の広場

 
相続と税金その3:
値下がりしている資産を相続した場合(日本)

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

第11回(贈与と税金その3)と第12回(贈与と税金その4)は、値下がりしている資産を贈与した場合の税金についての日米比較でしたが、今回(第19回)と次回(第20回)は、値下がりしている資産を相続した場合の税金についての日米比較です。父太郎が生前に金2,000萬円で購入し、今では時価が100萬円に値下がりしているゴルフクラブの会員権を息子一郎が相続し、その直後に、息子一郎はこれを第三者に100萬円で売却しました。この場合、相続税と所得税が問題になります。相続された会員権の時価相当分100萬円についての相続税と、購入してから売却するまでの期間中に生じた会員権の値下がり分1,900萬円についての所得税上の損失です。まず相続された会員権の時価相当分100萬円は相続税の対象になります。ただし、息子一郎が実際に相続税を支払わなければならないかどうかは、この他に相続した財産があるかどうか、あるとすれば相続税の基礎控除額(5,000萬円プラス1,000萬円カケル相続人の数)を超えるかどうかによります(注1) 。もし全相続財産の価額が6,000萬円以下であれば、たとえ息子一郎だけが相続人であっても基礎控除額(5,000萬円プラス1,000萬円カケル1=6,000萬円)以下ですから相続税はかかりません。次に1,900萬円の損失は息子一郎の他の所得から控除しますから、約700萬円の所得税の減少となります。第11回(贈与と税金その3)で述べましたように、息子一郎は父太郎の取得価額2,000萬円を引継ぐからです。つまり、「取得価額の引継ぎ」という制度は、父太郎が所有者であった期間の「値上がり分(増加益)」を息子一郎が引き継ぐ効果だけではなく、父太郎が所有者であった期間の「値下がり分(含み損)」も引継ぐ効果があるのです。第11回(贈与と税金その3)で検討した最高裁の判決も、このような効果を当然とした上での判示となっています(注2)。このように日本では、贈与の場合も相続の場合も、また、増加益が生じている場合も含み損が生じている場合も、すべて「取得価額の引継ぎ」ということで一貫しています。ところがアメリカでは、贈与で増加益の生じている場合には「取得価額の引継ぎ」となりますが、贈与で含み損が生じている場合には「取得価額の引継ぎ」とはならず、「時価が新しい取得価額」となり、「含み損」の引継ぎが認められないことは、第12回(贈与と税金その4)で述べた通りです。さらにアメリカでは、相続で増加益の生じている場合にも「時価が新しい取得価額」となり、「増加益」が完全に非課税となることは第18回(相続と税金その2)で述べた通りです。それでは相続で含み損の生じている場合にアメリカではどうなるでしょうか。これが次回の(相続と税金その4)のテーマです。


 

脚注
 
注1 相続税法第15条第1項。
 
注2 平成17年2月1日最高裁判所第三小法廷判決。なお「ミスターWho」の少数異見、最高裁公認の節税策「含み損」という贈り物、週刊東洋経済2005年4/30・5/7合併特大号27頁。
 

(敬称略)


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更新日:2012/10/30