上場会社の場合には、見かけを良くしようとする粉飾決算が問題になります。前回(第24回)でも述べましたように、上場会社の粉飾決算は、金融商品取引法上も会社法上も刑事罰の対象となっています。非上場会社の粉飾決算は、原則として、金融商品取引法上の刑事罰の対象とはなりませんし、理論的には、会社法上の刑事罰の対象にはなるでしょうが、実際には、余り問題になっていないようです。逆に、非上場会社の場合には、見かけを悪くしようとする逆粉飾決算が問題になることが多いようです。このような逆粉飾決算は、主として、納税額を減らすこと(脱税)を目的としますから、税務当局の調査によって発覚することが多いのです。ところが、非上場会社の場合でも、見かけを良くしようとする粉飾決算が行われることがあります。たとえば、官公庁や公営企業などと取引を行う場合、入札参加の資格として、一定の財務条件を満たすことが必要となります。そこで、次のようなやり方でワザと粉飾決算を利用する会社があったようです。
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見かけを良くしようとする粉飾決算を行い、そのような決算書に基づき、いったんは過大税額を申告・納付する。 |
A |
このような過大申告・納付を行った上で、税務当局の受領印のある申告書・納付書のコピーを官公庁や公営企業に提出して、入札参加の資格を取得する。 |
B |
入札参加の資格を取得した直後に、税務当局に対し、先の申告は「粉飾決算」に基づく過大申告であったからという理由で、「更正の請求」を行う。 |
C |
税務当局は、先の申告が「粉飾決算」に基づく過大申告であったことを確認すれば、「真実の決算」に基づく適正納税額を超える過大税額を減額(減額更正)し、その減額分を直ちに還付する。 |
D |
かくて、この会社は、入札参加の資格を取得し、しかも、過大税額は直ちに還付して貰える。 |
実際にこのようなやり方をした会社がどれくらいあったかは不明ですが、さすがの税務当局も看過できない現状だったようです。そこで、昭和41年度の法人税法の改正により、上記のCの取扱いが変更され、次のような取扱いになりました(法人税法第70条)(注1)。
a. |
税務当局は、先の申告が「粉飾決算」に基づく過大申告であったことを確認すれば、「真実の決算」に基づく適正納税額を超える過大税額を減額更正するが、その減額分を直ちには還付しない。 |
b |
この直ちには還付しない減額分は、将来5年間の適正税額の前払いとして取り扱う。すなわち、将来5年間に納付すべき適正税額から順次差し引く。 |
c. |
ただし、税務当局が、先の申告が「粉飾決算」に基づく過大申告であったことを確認するためには、単に、先の申告が「粉飾決算」に基づく過大申告であったことが証明されただけでは十分でなく、納税者側が「真実の決算」に基づく「真実の申告書」を正式に提出することが条件となる。 |
脚注
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注1 |
金子宏、租税法 第十三版(平成20年5月)、327頁「税額を過大に申告・納付し、それに対し減額更正がなされた場合は、差額は過誤納金として納税者に還付または未納の税額に充当されるのが原則である。しかし、昭和40年代以降、粉飾決算の例が多く見られたので、税制面からこれを抑制するため、過大な申告・納付が仮装経理に基づくものである場合には、減額更正による過誤納金は直ちには還付せず、更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度の法人税額から順次控除することとしたのが、この規定[法人税法第70条]である。5年が経過してもなお残額がある場合は、その時点でその全額を還付すべきであろう。」
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