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第35回 国際法務その1: 国内法としての国際刑法と国際法としての国際刑法

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

アメリカ人ジャックが日本国内で殺人を犯せば、日本刑法第199条(注1)によって罰せられます。日本刑法第1条第1項が、「この法律(日本刑法)は、日本国内において罪を犯したすべての者(日本人か外国人かを問わず)に適用する」と定めているからです。さらに日本刑法第1条第2項は、「日本国外にある日本船舶または日本航空機内(注2)において罪を犯した者についても、前項と同様とする」と定めています。つまり、アメリカ人ジャックが日本航空機内で殺人を犯せば、その殺人が行われた当時、その日本航空機が外国の上空を飛んでいたとしても、日本刑法第199条によって罰せられる訳です。 それではアメリカ人ジャックが日本に向かう外国航空機内で殺人を犯し、その殺人が行われた当時、その外国航空機は外国の上空を飛んでいたとしたらどうでしょう。被害者が日本人であれば、日本刑法第199条によって罰せられます。日本刑法第3条の2が、「この法律は、日本国外において日本国民(被害者)に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者(外国人)に適用する」と定め、「第199条(殺人)の罪」を掲げているからです。ということは、被害者が日本人でなければ、日本刑法第199条の適用はない訳です。
日本人太郎が、日本国内または日本航空機内で殺人を犯せば、日本刑法第199条によって罰せられることは、アメリカ人ジャックの場合と同じです。 それでは日本人太郎が日本に向かう外国航空機内で殺人を犯し、その殺人が行われた当時、その外国航空機は外国の上空を飛んでいたとしたらどうでしょう。アメリカ人ジャックの場合には、被害者が日本人であるかどうかで結果は異なりますが、日本人太郎の場合は、被害者の国籍を問わず、日本刑法第199条によって罰せられます。日本刑法第3条が、「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民(加害者)に適用する」と定め、「第199条(殺人)の罪」を掲げているからです。
このように、日本刑法という国内法が、加害者の国籍、被害者の国籍、船舶または航空機の国籍、犯罪地が日本国内(日本船舶もしくは日本航空機内)または日本国外(外国または公海もしくは公空)であったか、などの国際的な要素・条件次第で、どのように適用されるか定めている規定を「国際刑法(規定)」と呼ぶことがあります。本来ならば「日本刑法(国内法)の国際的側面に関する規定」と呼ぶべきでしょう。いうまでもなく、この場合の「国際刑法」は、あくまでも「国内法」ですから、かつての「東京裁判
(注3)」、最近のオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(注4)による「ユーゴ裁判(注5)」またはカンボジアでの「ポルポト裁判(注6)」などで論じられる「国際法としての国際刑法」とは異なります。
このように同じく「国際刑法」と呼ばれているものには、「国内法としての国際刑法」と「国際法としての国際刑法」の2つがあることに注意すべきです。
次回の「国際法務その2」以下において、国際法務上の諸問題を色々な角度から検討しますが、その場合、「国際税法」、「国際会社法」、「国際民事訴訟法」など「国際・・・法」というものが、すべて「国内法としての税法」、「国内法としての会社法」、「国内法としての民事訴訟法」、その他の「国内法」の「国際的側面」を意味することに注意して下さい。


脚注
 
注1 日本刑法第199条「人を殺した者は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役に処する。」
 
注2 Wikipedia→国籍→自然人以外の国籍→船舶の国籍・航空機の国籍
 
注3 Wikipedia→極東国際軍事裁判
 
注4 Wikipedia→国際刑事裁判所
 
注5 Wikipedia→旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷
 
注6 Wikipedia→クメール・ルージュ
 
   

 


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