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大塚正民の考古学と考古学の広場

第44回 国際法務その10: 租税法その4−相続税法(後半)

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

前回(第43回)では、対外的取引(活動)と対内的取引(活動)について検討しましたが、今回は、対外的取引(活動)でも対内的取引(活動)でもない取引(活動)として、次の4つ追加事例(その5からその8まで)を考えて見ましょう。

4つの追加事例 相続または贈与によって財産を取得した人の国籍および住所 相続または贈与の対象となった財産の所在場所
事例その5:外国での国内取引その1 外国人で外国に住所あり。
(日本に住所なし。)
外国:たとえば、ニューヨークの住人であるアメリカ人ジャックがニューヨークにある土地の贈与を受けた。
事例その6:外国での国内取引その2 日本人で外国に住所あり。
(日本に住所なし。)
日本:たとえば、ニューヨークの住人である日本人花子がニューヨークにある土地を相続した。
事例その7:日本での国内取引その1 日本人で日本に住所あり。 外国:たとえば、東京の住人である日本人太郎が東京にある土地の贈与を受けた。
事例その8:日本での国内取引その2 外国人で日本に住所あり。 日本:たとえば、東京の住人であるアメリカ人ベテイが東京にある土地を相続した。

これら4つの追加事例の場合、まず事例その7とその8は、日本での国内取引ですから、「相続税法の国内的側面」の典型的な事例として、日本の相続税または贈与税が問題となる事例です。相続税であれば相続税法第1条の3第1号および同法第2条第1項注1)、贈与税であれば相続税法第1条の4第1号および同法第2条の2第1項注2)が根拠です。次に事例その5ですが、「外国に居住する外国人が外国に所在する財産を相続または贈与によって取得する事例」は、そもそも「日本法としての相続税法」が関知するものではなく、日本の相続税または贈与税の課税対象になりません。問題なのは事例その6です。「外国に居住する日本人が外国に所在する財産を相続または贈与によって取得する事例」は、平成15年の税制改正までは、事例その5と同じく、日本の相続税または贈与税の課税対象になっていませんでした。ところが平成15年の税制改正によって、事例その6は、原則課税、例外非課税となりました。その関係を表にしますと、次のようになります。

相続または贈与によって財産を取得した人の国籍 相続または贈与の対象となった財産の所在場所 相続または贈与によって財産を取得した日本人の住所 相続または贈与によって財産を移転した人の住所
事例その6:原則その1・課税 日本人 外国 外国での住所の期間が5年以下。 日本
事例その6:原則その2・課税 日本人 外国 外国での住所の期間が5年以下。 外国での住所の期間が5年以下。
事例その6:例外・非課税 日本人 外国 外国での住所の期間が5年超。 外国での住所の期間が5年超。

事例その6:原則その1・課税の具体的設例としては、次のような事例が考えられます。たとえば、5年以下の期間ニューヨークの住人である日本人花子がニューヨークにある土地で日本に住所を有する父が所有する土地を相続した。根拠は相続税法第1条の3第2号および第2条第2項注3)です。
事例その6:原則その2・課税の具体的設例としては、次のような事例が考えられます。たとえば、5年以下の期間ニューヨークの住人である日本人花子がニューヨークにある土地で5年以下の期間ニューヨークの住人である夫が所有する土地の贈与を受けた。根拠は相続税法第1条の4第2号および第2条の2第2項
注4)です。
事例その6:例外・非課税の具体的設例としては、次のような事例が考えられます。たとえば、5年超の期間ニューヨークの住人である日本人二郎がニューヨークにある土地で5年超の期間ニューヨークの住人である妻が所有する土地の贈与を受けた。根拠は相続税法第1条の4第2号のカッコ書き
注5)です。
繰り返しになりますが、この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際に適用される法律の半分だけしか取扱っていないのです。たとえば、上記の事例その6の具体的設例の場合、問題の土地がニューヨークに所在する以上、アメリカの「遺産税」または「贈与税」の検討が不可欠です。つまり、「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際には、もう半分である相手国の法律(たとえばアメリカの国内法)を必ず検討する必要があることを忘れないで下さい。
 

脚注
 
注1 相続税法第1条の3第1号は、(外国人であろうと日本人であろうと)日本に住所を有している者が相続によって財産を取得した場合には相続税を納める義務があると規定し、同法第2条第1項は、この第1条の3第1号の規定に該当する者は、相続によって取得した財産の所在場所のいかんを問わず、全世界に所在する財産を相続税の課税対象とすると規定しています。つまり、日本に所在する相続財産は当然に課税対象となる訳です。
 
注2 相続税法第1条の4第1号は、(外国人であろうと日本人であろうと)日本に住所を有している者が贈与によって財産を取得した場合には贈与税を納める義務があると規定し、同法第2条の2第1項は、この第1条の4第1号の規定に該当する者は、贈与によって取得した財産の所在場所のいかんを問わず、全世界に所在する財産を贈与税の課税対象とすると規定しています。つまり、日本に所在する贈与財産は当然に課税対象となる訳です。
 
注3 相続税法第1条の3第2号は、日本人で日本に住所を有していない者が相続によって財産を取得した場合には相続税を納める義務があると規定し、同法第2条第1項は、この第1条の3第2号の規定に該当する者は、相続によって取得した財産の所在場所のいかんを問わず、全世界に所在する財産を相続税の課税対象とすると規定しています。つまり、外国に所在する相続財産も課税対象となる訳です。ただし、第1条の3第2号は、カッコ書きで、「相続人」または「被相続人」が「相続の開始前5年以内のいずれかの時において日本に住所を有していたことがある場合に限る」と規定し、両者が共に「5年超の期間日本に住所を有していなかった場合」を適用除外としています。
 
注4 相続税法第1条の4第2号は、日本人で日本に住所を有していない者が贈与によって財産を取得した場合には贈与税を納める義務があると規定し、同法第2条の2第1項は、この第1条の4第2号の規定に該当する者は、贈与によって取得した財産の所在場所のいかんを問わず、全世界に所在する財産を贈与税の課税対象とすると規定しています。つまり、外国に所在する贈与財産も課税対象となる訳です。ただし、第1条の4第2号も、カッコ書きで、「受贈者」または「贈与者」が「当該贈与前5年以内のいずれかの時において日本に住所を有していたことがある場合に限る」と規定し、両者が共に「5年超の期間日本に住所を有していなかった場合」を適用除外としています。
 
注5 上記の注4において述べましたように、贈与税については、相続税法第1条の4第2号が、カッコ書きで、「受贈者」または「贈与者」が「当該贈与前5年以内のいずれかの時において日本に住所を有していたことがある場合に限る」と規定し、両者が共に「5年超の期間日本に住所を有していなかった場合」を適用除外としています。相続税については、上記の注3において述べましたように、相続税法第1条の3第2号が、カッコ書きで、「相続人」または「被相続人」が「相続の開始前5年以内のいずれかの時において日本に住所を有していたことがある場合に限る」と規定し、両者が共に「5年超の期間日本に住所を有していなかった場合」を適用除外としています。
 
   

 


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更新日:2012/10/30