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大塚正民の考古学と考古学の広場

第55回 国際法務その21: 国際訴訟制度その5:第8の主要な問題点としての外国判決の承認・執行

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

 
問題点(日本語) 英語での表現 どういう問題か
外国判決の承認・執行 Recognition and Enforcement of Foreign Judgment ある国の裁判所による判決を他の国が承認・執行できるか

 
第8の主要な問題としての外国判決の承認・執行

大阪地方裁判所平成3年(1991年)3月25日判決(注1)は、アメリカのミネソタ州の連邦地方裁判所による判決を日本において執行することは許されない、としました。事件の経過は、以下の通りです。

事件の経過

@ 原告(控訴人)Xは、アメリカのミネソタ州法人で、被告(被控訴人)Yは、日本の株式会社です。
A YはXに対して継続的にナイロン皮膜を売り渡していましたが、昭和62年(1987年)になって、Xは、Yから買い受けたナイロン皮膜に瑕疵があった、と主張して、Yに対する損害賠償請求の訴えをアメリカのミネソタ州の連邦地方裁判所に提起しました。
B Yは、弁護士に依頼することなく、Y本人だけの名義で、つぎのような「妨訴抗弁」を提出した上で、この訴訟に欠席しました。この「妨訴抗弁」というのは、「XとYとの間においては、本件商取引により生じた紛争の解決は、日本において、日本商事仲裁協会(注2)の規則に則り、仲裁に付して解決する旨の仲裁契約があったから、訴訟によって紛争解決を求めることはできない。」というものです。
C ところがミネソタ州の連邦地方裁判所は、ミネソタ州は「弁護士強制制度」を採用しているからとの理由で、Y本人だけの名義による「妨訴抗弁」を無視した上で、昭和63年(1988年)4月19日、「YはXに対し250,721ドル47セントを支払え。」という判決を下し、この判決は確定しました。
D そしてXは、「アメリカ合衆国ミネソタ州地方裁判所が昭和63年4月19日原告被告間の損害賠償請求事件につき言い渡した別紙記載の判決に基づいて原告が被告に対し強制執行をすることを許可する。」という「執行判決」を日本の裁判所に求めたのです。
E 第1審である大阪地方裁判所は、平成3年(1991年)3月25日、「旧民事訴訟法200条1号(注3)の要件が具備されていない。」との理由で、原告の請求を棄却しました。
F この第1審判決に対し、原告は控訴しましたが、第2審である大阪高等裁判所は、平成4年(1992年)2月25日、第1審と同じく「旧民事訴訟法200条1号の要件が具備されていない。」との理由で、控訴を棄却し、第1審判決を維持しました。控訴人(原告)は、上告しなかったらしく、この訴訟事件は確定しました。

外国裁判所判決の執行判決

民事執行法22条は「強制執行は債務名義により行う。」と定めています。つまり、強制執行のためには「債務名義」という一種の強制執行の許可状が必要なのです。民事執行法22条は、10種類の「債務名義」を掲げていますが、最も一般的な「債務名義」は、同条1号が定める、日本の裁判所の「確定判決」です。さらに同条6号は、日本の裁判所の「確定した執行判決のある外国裁判所の判決」も「債務名義」であると定めています。
民事執行法24条3項は、「執行判決を求める訴えは、・・・外国裁判所の判決が、・・・民事訴訟法118条各号(注4)に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない。」と定めています。
「旧民事訴訟法200条1号の要件が具備されていない。」とは、「現行の新民事訴訟法118条1号の要件が具備されていない。」ということです。「現行の新民事訴訟法118条1号」は、「外国裁判所の裁判権が認められること。」と定めています。第51回(国際法務その17:国際訴訟制度その1:8つの主要な問題点:第1の主要な問題点としての司法管轄権)で問題としたのは、「日本の裁判所の司法管轄権(注5)」でしたが、ここで問題となっているのは、「外国裁判所の司法管轄権(注6)」なのです。つまり、ミネソタ州の連邦地方裁判所は「被告に対して自国であるアメリカの裁判所の司法管轄権」を認めたのですが、日本の裁判所は「被告に対して外国であるアメリカの裁判所の司法管轄権」を認めなかった訳です。
 

脚注
 
注1 判例タイムス783号252頁。なお、この第1審である大阪地方裁判所の判決に対して、敗訴した原告は控訴しましたが、第2審である大阪高等裁判所は、控訴を棄却して、第1審判決を維持しました(判例タイムス783号248頁)。原告(控訴人)は、上告しなかったらしく、これら第1審判決および第2審判決は確定しています。
 
注2 英文名称が、The Japan Commercial Arbitration Association (JCAA)。日本名称は、2009年4月1日からは「一般社団法人日本商事仲裁協会」、それ以前の2003年1月1日からは「社団法人日本商事仲裁協会」、それ以前は「社団法人国際商事仲裁協会」でした。
 
注3 民事訴訟法は、(ここで問題にしている事件が確定した平成4年の後である)平成8年に全面改正されました。ただし、改正前の旧民事訴訟法200条1号は、内容は変更されていません。単に条文の番号が変更されただけで、改正後の現行の民事訴訟法118条1号となっています。
 
注4 ここで問題にしている事件に対して適用されたのは、旧民事訴訟法なので、条文の番号は118条ではなく200条となっています。
 
注5 日本の裁判所が有する司法管轄権を「直接的一般管轄権」と呼ぶことがあります。
 
注6 外国の裁判所が有する(と日本の裁判所が認める)司法管轄権を「間接的一般管轄権」と呼ぶことがあります。
 
   
   
   
質疑応答
 
Q55-1: もし日本企業Yが、その後、米国内に資産を持ったり、米国企業との取引により米国内で利益を出した時などは、Xは米国で強制執行を求める事ができるのでしょうか?
 
A55-1: Yの財産が米国内に所在する限り、Xは米国内で強制執行を求める事ができます。なお、Yが他の米国企業と取引をした場合、「その米国企業に対する売掛金」は原則として米国所在の財産ですから、その売掛金に対して強制執行を求める事も出来ます。
 
   


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更新日:2012/10/30