前回(第56回)では、国際訴訟制度との比較において国際仲裁制度の特徴を見ました。今回からは、国際仲裁制度の実例のいくつかを見ることにしましょう。
これまでの伝統的な型の仲裁であれば、申立人Xと相手方Yがそれぞれ自分に有利な主張をし、双方からそのような主張を聴いた仲裁人Aが、「裁定」という判断を下し、そのAの判断にXとYが従う、ということになります。たとえば、Xは「YはXに1,000という金額を支払うべきだ。」と主張し、Yは「YはXに100という金額を支払うことで十分だ。」と反論し、最終的にAは「YはXに500という金額を支払うべし。」という裁定を下す、という訳です。
ところが最近になってベースボール・アービトレーション(BaseballArbitration
野球仲裁)という型の仲裁が盛んになって来ました。野球仲裁と呼ばれるのは、もともと、アメリカの野球界で、「選手の報酬の金額」が、このような型の「仲裁」で決定されることが多かったからです。この「野球仲裁」においては、かりに「選手側が1,000」と主張し、「球団側が100」と反論した場合、「仲裁人」は、「1,000」か「100」かのいずれか「より合理的な金額」を選択しなければならず、中間、たとえば、「自分が合理的だと考える500」という「裁定」を下すことが出来ないのです。したがって、仲裁人自身は「500が合理的な金額」であると考えても、当事者たちの「最終申出金額」のいずれかを「より合理的な金額」として選択しなければならず、結局において、「1,000」と「100」とでは、仲裁人が「自分が合理的だと考える500」に「より近い100」を選択することになり、裁定額は「100」となる訳です。趣旨は同じですが、形式的には異なった「野球仲裁」のもう1つの型として、つぎのようなやり方もあります。つまり、「選手側の最終金額1,000」も「球団側の最終金額100」も、とりあえず「仲裁人には秘密にしておいて」、仲裁人は「自分が合理的だと考える500」という「暫定裁定」を下し、この暫定裁定金額500に「より近い100」が最終裁定金額となるやり方です。このような「野球仲裁」型の仲裁は、次第に「仲裁一般」に拡大されつつあります。なぜかというと、これまでの伝統的な型の仲裁では、互いに当事者たちが「一方的な金額」を主張し、仲裁人が「それらの中間金額」を選択する傾向があったので、当事者たちは「はじめからサバを読んだ金額」を主張するか傾向があったからだ、と言われています。「野球仲裁」型の仲裁であれば、当事者たちは「一方的な金額」ではなく、「仲裁人がより合理的だと考えるであろう金額」を主張するようになる、という訳です。
編集部による注
野球仲裁という項目をネットで検索する場合
Baseball
Arbitrationの日本語訳は「野球仲裁」の他に「野球式仲裁」「ベースボール仲裁」等が用いられています。ネットで検索する場合、"ベースボール仲裁"或いは"野球式仲裁"と""で囲いワンワードとして検索すると便利です。