知財問屋 片岡秀太郎商店  会員登録(無料)
  chizai-tank.com お問い合わせ
HOME 右脳インタビュー 法考古学と税考古学の広場 孫崎享のPower Briefing 原田靖博の内外金融雑感 特設コーナー about us  
 

大塚正民の考古学と考古学の広場

第81回:信託その2:信託と登録免許税(国税)

2013/5/1

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

前回(第80回)で述べましたように、日本の贈与税の観点からすれば、「信託」は「直接の贈与」と効果が同じです。つまり、父親甲野太郎が娘甲野花子に対して太郎が所有している土地・建物を直接に贈与した場合と、太郎がX信託株式会社との間で「信託契約」を結び、この「信託契約」によれば、「委託者」太郎は「受託者」X信託株式会社に対して太郎が所有している土地・建物の所有者名義を移転し、X信託株式会社は、この土地・建物を第三者に賃貸し、賃貸料収入から必要経費(X信託株式会社の報酬を含む。)を差し引いた利益の全額を「受益者」花子に分配することにした場合と、日本の贈与税の観点からすれば、違いがありません。いずれの場合も、この土地・建物の価格を基準として、花子には日本の贈与税が課せられます。
ところが、これが土地登記簿と建物登記簿の所有者名義の変更登記手続となると、つぎのような違いが不動産登記簿上注1に出てきます。

  登記の目的 登記の原因 登記事項
「直接の贈与」の場合 所有権移転 贈与 甲野花子(新所有者)
「信託」の場合 @所有権移転
A信託
信託 @ X信託株式会社(新所有者)
A 信託目録注2

そして登記に際して納付する登録免許税についても、つぎのような違いが出てきます。直接の贈与の場合は、「贈与」を原因とする「所有権移転」の登記は、登録免許税は不動産の価格の1,000分の20注3ですが、信託の場合は、@「信託」を原因とする「所有権移転」の登記は登録免許税は非課税となり注4、A「信託」の登記は、登録免許税が不動産価格の1,000分の4注5です。この信託が終了して、「受託者」X信託株式会社から「受益者」甲野花子にさらに所有者名義の変更が行われますと、つぎのような登記手続が必要になります。

  登記の目的 登記の原因 登記事項
「信託」の場合 @所有権移転
A信託登記抹消
信託財産引継 @甲野花子(新所有者)
A信託目録

そして@「信託財産引継」を原因とする「所有権移転」の登記は、登録免許税は不動産の価格の1,000分の20注6ですが、A「信託登記抹消」の登記の登録免許税は不動産の個数1個につき1,000円です注7。つまり、登録免許税に関してつぎのような違いが生じます。すなわち、太郎から花子へ所有権移転が、直接の贈与の場合は、太郎から花子への「贈与」を原因とする「所有権移転」の登記として登録免許税は不動産の価格の1,000分の20となりますが、太郎からX信託株式会社そして花子へと所有権移転が、信託を介して行われる場合には、最初の太郎からX信託株式会社への所有権移転に関しては、「信託」を原因とする「所有権移転」の登記は登録免許税が非課税ですから、「信託」の登記だけが、登録免許税の課税対象となり(不動産価格の1,000分の4)、つぎのX信託株式会社から花子への所有権移転に関しては、「信託財産引継」を原因とする「所有権移転」の登記は、太郎から花子への「贈与」を原因とする「所有権移転」の登記と同じと見なされ、登録免許税が不動産の価格の1,000分の20となり、「信託登記」の抹消登記の登録免許税は不動産の個数1個につき1,000円となり、結局、登録免許税は合計で不動産の価格の1,000分の4(太郎からX信託株式会社)プラス不動産の価格の1,000分の20(X信託株式会社から花子)プラス不動産の個数1個につき1,000円(信託登記の抹消登記)となります。以上をまとめると、つぎのようになります。

  登記の目的 登記の原因 登録免許税
「直接の贈与」の場合 所有権移転 贈与 不動産の価格の100分の20
「信託」の場合 @所有権移転
B信託
B所有権移転
C信託の抹消
信託の設定
 
信託の終了
 
非課税
不動産の価格の1,000分の4
不動産の価格の100分の20
不動産の個数1個につき1,000円


 

脚注
 
注1

不動産登記法第2条第1号は、「不動産」とは「土地または建物をいう。」と定義しています。「不動産登記」、つまり、「不動産の表示および不動産に関する権利を公示するための登記」とは、土地については「土地登記簿」に、建物については「建物登記簿」に、それぞれ所定事項(たとえば所有者名義の変更)を記載することです。

注2

不動産登記法第97条第1項は、委託者、受託者、受益者、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了の事由などの事項を「信託の登記の登記事項」として列挙し、同条第3項は、このような「信託の登記の登記事項」を明らかにするため、「信託目録」を作成することを規定しています。しかも、同法第98条第1項は、信託の登記の申請は信託財産の所有者名義の変更登記の申請と「同時にしなければならない。」と規定しています。つまり、信託の場合には、@所有権移転の登記とA信託の登記とが「常に同時になされ」、その信託の詳しい内容は「信託目録」に記載されることになっているのです。 

注3

登録免許税法の別表第1、一、(二)、ハ〔不動産の所有権の移転の登記:その他の原因による移転の登記〕不動産の価額(課税標準)1000の20(税率)。 

注4

登録免許税法第7条第1項第1号。「信託による財産権の移転の登記または登録でつぎの各号のいずれかに該当するものについては、登録免許税を課さない。・・・1. 委託者から受託者に信託のために財産を移す場合における財産権の移転の登記または登録」。 

注5

登録免許税法の別表第1、一、(十)、イ〔信託の登記:所有権の信託の登記〕不動産の価額(課税標準)1000の4(税率)。ただし、租税特別措置法第72条により、土地についての税率が1000分の3に軽減されています。 

注6

登録免許税法の別表第1、一、(十五)〔登記の抹消:不動産の個数1個につき1,000円〕。 

注7

登録免許税法の別表第1、一、(二)、ハ〔不動産の所有権の移転の登記:その他の原因による移転の登記〕不動産の価額(課税標準)1000の20(税率)。

   
   
   
   
   
   


大塚正民弁護士へのご質問は、こちらからお願い致します。  <質問する

  質問コーナー(FAQ)
  

ご質問は、編集部の判断によって、プライバシー等十分配慮した上で、一部修正・加筆後、サイトへ掲載させて戴く場合がございますので、予めご了承ください。

本メールの交換はすべて編集部を介して行われます。

すべてのメールには、お返事できない場合もございます。ご了承下さい。

 

 

 

chizai-tank.com

  © 2006 知財問屋 片岡秀太郎商店

更新日:2013/04/30