前々回(第80回)で述べましたように、日本の(国税である)贈与税の観点からすれば、「信託」は「直接の贈与」と効果が同じです。つまり、日本の贈与税は、土地・建物の信託の受益者をその土地・建物の贈与の受贈者と見なすのです。ところが、前回(第81回)で述べましたように、信託の場合には、その土地・建物の登記簿上の所有者名義が、信託の設定時に、まず設定者である父親甲野太郎からが受託者であるX信託株式会社に移転し、その信託の終了時に、受託者であるX信託株式会社から受益者である娘甲野花子に移転しますから、登記に際して納付する(国税である)登録免許税については違いが出てきます。
同じような違いは、(地方税である)不動産取得税についても生じます。すなわち、太郎から花子へ所有権移転が、直接の贈与の場合は、太郎から花子への「贈与」を原因とする「所有権移転」として花子に対して不動産取得税が課されます注1。ところが、信託を介して行われる場合、つまり、その土地・建物の登記簿上の所有者名義が、信託の設定時に、まず設定者である太郎からが受託者であるX信託株式会社に移転し、その信託の終了時に、受託者であるX信託株式会社から受益者である花子に移転する場合には、最初の太郎からX信託株式会社への所有権移転は「形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税」に該当することとなり、X信託株式会社には不動産取得税が課されませんが注2
、その信託の終了時に、X信託株式会社から花子への所有権移転は「課税」となり、花子に対して不動産取得税が課されます注3。
ところが、前回(第81回)で述べましたように、信託の場合には、その土地・建物の登記簿上の所有者名義が、その信託の終了時に、受託者であるX信託株式会社から受益者である花子に移転するまでは、つまり、その信託が継続中は、花子は信託目録に「受益者」と表示されます。もし、花子が「受益者としての権利」、つまり信託受益権をA株式会社に売却し、さらA株式会社がこの信託受益権をB株式会社に売却し、その信託の終了時には、受託者であるX信託株式会社から現在の受益者であるB株式会社に対しその土地・建物の登記簿上の所有者名義が移転したとしたらどうなるでしょうか?主要な問題が3つあります。まず、信託受益権の売買による譲渡所得の問題がありますが、この問題は次回(第83回)で検討します。登記上の問題としては、信託目録の受益者の表示が、花子からA株式会社に、さらにA株式会社からB株式会社に、それぞれ変更されますが、「受益者の変更」の登録免許税はいずれも不動産1個につき1,000円です注4。ただし、信託終了時に受託者であるX信託株式会社から現在の受益者であるB株式会社に対しその土地・建物の登記簿上の所有者名義が移転したとき(いわゆる信託不動産の現物化注5の場合)には、登録免許税は不動産の価格の1000分の20となります。不動産取得税の問題としては、「信託受益権」の取得は「信託財産としての不動産」の取得ではないとして、課税の対象とはなりません。ただし、信託終了時に受託者であるX信託株式会社から現在の受益者であるB株式会社に対しその土地・建物の登記簿上の所有者名義が移転したとき(いわゆる信託不動産の現物化の場合)には、不動産取得税の課税対象となります注6。