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大塚正民の考古学と考古学の広場

第83回:信託その4:信託と譲渡所得税(取得価額の引継ぎ)

2013/7/1

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

前々回(第81回)で述べましたように、信託の継続中は、信託財産である土地・建物の登記簿上の「所有者」は、あくまでも「信託の受託者」であるX信託株式会社となります。それでは「信託の受益者」である娘甲野花子はどうかというと、登記簿上の「所有者」ではなく、登記簿に附属する信託目録に「受益者」と表示されます。それでは、もしその信託の継続中に、受益者花子が「信託の受益者としての権利」つまり信託受益権をA株式会社に売却し、さらA株式会社がこの信託受益権をB株式会社に売却し、その信託の終了時には、受託者であるX信託株式会社から現在の受益者であるB株式会社に対しその土地・建物の登記簿上の所有者名義を移転したとしたらどうなるでしょうか?登録免許税の問題と不動産取得税の問題は、前回(第82回)で検討しましたので、ここでは、この信託受益権の売買による譲渡所得の問題を検討しましょう。
信託財産である土地・建物の信託受益権が売買されることは、通常の場合、その土地・建物の現物が売買されることと「経済的には」同じです。つまり、信託受益権の売買によって、「信託の受益者」が花子→A 株式会社→B株式会社と変更することは、現物の売買によって、「現物の所有者」が花子→A 株式会社→B株式会社と変更することと「経済的には」同じです。そこで所得税の場合は、信託受益権の売買と現物の売買を全く同じに取扱います。所得税の場合だけではなく、贈与税の場合にも、信託受益権の贈与と現物の贈与とを全く同じに取扱うことも、すでに(第80回)で検討した通りです。(ただし、登録免許税と不動産取得税の場合は、現在のところ、異なった取り扱いとなっていることは、前回(第82回)で検討しました。)ですから、「信託の委託者」太郎が「信託の受託者」X株式会社に対して太郎が所有している土地・建物の所有者名義を移転し、X株式会社は、この土地・建物を第三者に賃貸し、賃貸料収入から必要経費(X株式会社の報酬を含む。)を差し引いた利益の全額を「信託の受益者」花子に分配することにしたものの、その「信託の受益者」花子が自分の信託受益権をA株式会社に売却し、さらA株式会社がこの信託受益権をB株式会社に売却し、その信託の終了時には、受託者であるX信託株式会社から現在の受益者であるB株式会社に対しその土地・建物の登記簿上の所有者名義を移転したという一見複雑な信託取引は、「経済的には」つぎのような簡単な現物取引と同じことになります。@現物の贈与によって、所有者が太郎から花子に変る。A現物の売買によって、所有者が花子からA 株式会社に変る。B現物の売買によって、所有者がA株式会社からB株式会社に変る。かりにこの土地・建物の価額を金10億円とすれば、贈与税の基準となる価額も売買の基準となる価額も、通常は、金10億円となるでしょう。つまり、花子は、@太郎からの贈与に関して、「受贈者」として金10億円を基準として贈与税を算定し、さらにAA株式会社との売買に関して、「売主」として金10億円を基準として譲渡所得を算定することになります。ここで注意すべきことは、花子が「売主」として金10億円を基準として譲渡所得を算定する場合に、所得税法60条による「取得価額の引継ぎ」の適用を受けることです。つまり、「受贈者」花子が譲渡所得を算定する上で「取得価額」として譲渡価額から差引く金額は「贈与者である太郎」の「取得価額」であることです。かりに太郎の取得価額が1億円であったとすれば、花子の譲渡所得は9億円(10億円マイナス1億円)となる訳です注1。花子がすでに支払った贈与税は全く無視されます。

 

脚注
 
注1

所得税法59条1項:居住者〔花子〕が次に掲げる事由〔贈与〕により取得した・・・資産〔信託受益権〕を譲渡した場合における・・・譲渡所得の金額・・・の金額の計算については、その者〔花子〕が〔太郎の取得価額を引き継いで〕引き続きこれを所有していたものとみなす。・・・ 1.〔太郎から花子への〕贈与

   
   
   
   
   
   


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更新日:2013/06/29