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大塚正民の考古学と考古学の広場

第87回 信託その8:信託と税務(日米比較その3)

2013/11/1

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 


前回(第86回)で述べましたように、日本では「受益者が存しない信託」の場合の「贈与税の納税義務者」を新たに作り出すという課税方法を政府側が考案し、また、アメリカでは「将来権のみを有する受益者」をたくみに「現在権(present interest)を有する受益者」に変更するという節税方法を納税者側が考案しました。
今回は、日本の政府側が考案した新たな「贈与税の納税義務者」としての「法人課税信託の受託者」を見ることにしましょう。「受益者が存しない信託」の場合の新たな「贈与税の納税義務者」は「その信託の受託者」である「受託法人」とされました。「その信託の受託者」が「法人」であれば「受託法人」と呼ばれることは当然ですが、「その信託の受託者」が「個人」であっても、その「個人」を「法人」とみなし「受託法人」とすることにしたのです。注意しなければならないことは、この「受託法人」は、「贈与税」のみならず、「法人税」の納税義務者にもなります。さらに「委託者」に「所得税」を課税する扱いともなっています。
「委託者甲」が「受益者が存しない信託注1」を設定して、甲がかつて100万円で取得し、現在は5,000万円相当の価値のある土地を「受託者乙注2」に移転し、「受託者乙」はこの土地を第三者に賃貸して毎年500万円の「課税所得(=収益マイナス費用)」を得た上で、税引き後の信託の純利益をボランティア活動支援に充てることを目的にしたとします。
まず「この目的信託を設定した時」つまり、委託者甲が土地の名義を受託者乙に移転した時点で、受託者乙は土地の時価5,000万円相当の贈与を受けたものとして「贈与税の納税義務者」になります。その根拠は、「所得税法第6条の3第1項本文」が、「受託法人・・・(その受託者が個人(乙)である場合にあっては、当該受託者(乙)である個人)・・・についてこの法律(所得税法)の規定を適用する場合には、次に定めるところによる。」と規定し、「その第7号」が、「法人課税信託・・・の委託者(甲)がその有する資産の信託をした場合・・・には、・・・受託法人(乙)に対する贈与により当該資産の移転があったものとみなす。」と規定しているからです。ただし、この場合の「受贈者たる受託法人」は「法人」なのですから、本来であれば個人が納税義務者となる「贈与税」ではなく法人が納税義務者となる「法人税」の課税対象となるのですが、相続税法第9条の4第3項は、「・・・これらの信託の受託者が個人以外であるときは、当該受託者を個人とみなして、この法律(相続税法)その他相続税又は贈与税に関する法令の規定を適用する。」と規定し、「その第4項」は、「・・・受託者に課されるべき贈与税又は相続税の額については、・・・当該受託者に課されるべき法人税その他の税の額に相当する額を控除する。」と規定しています。
つぎに同じく「この目的信託を設定した時」つまり、委託者甲が土地の名義を受託者乙に移転した時点で、委託者甲は土地の増加益4,900万円相当(時価相当額5,000万円マイナス当初の取得価額100万円)の譲渡所得を実現したものとして「所得税の納税義務者」になります。
その根拠は、上記の「所得税法第6条の3第1項本文」が、個人(乙)を「受託法人」と同じ扱いとすると規定しており、加えて「その第3号」が「受託法人(会社でないものに限る。)は、会社とみなす。」と規定しているからです。つまり、個人である受託者乙は「会社」とみなされ、「所得税法第59条第1項」が適用されることになり、法人に対する贈与があった場合とみなされ、その贈与資産を時価で譲渡したとみなされる結果となります。
さらに「この目的信託が稼得した毎年の課税所得」つまり、この信託が稼得した毎年500万円の「収益マイナス費用」について「受託者乙」が「法人税の納税義務者」になります。
その根拠は、「法人税法第4条の6第1項」が、「法人課税信託の受託者は、各法人課税信託の信託資産等及び固有資産等・・ごとに、それぞれ別の者とみなして、・・・この法律・・・の規定を適用する。」と規定し、「その第2項」が「前項の場合において、各法人課税信託の信託資産等及び固有資産等は、同項の規定によりみなされた各別の者にそれぞれ帰属するものとする。」と規定しているからです。


 

脚注
 
注1

「受益者が存しない信託」の典型が「目的信託」です。たとえば、「委託者甲」が「受託者乙」に対して、「この土地の賃貸から生ずる収入をボランティア活動支援の充てることを目的」として、委託者甲が所有する土地を受託者乙に移転する場合が「目的信託」です。

注2

信託法附則3の適用によって、「法人以外の者」が「目的信託の受託者」となることは、現在のところ、ありえないと思いますが、説明の便宜のため、あえて「個人」である乙が目的信託の受託者に就任する設例としました。

   
   
   
   
   
   




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更新日:2013/12/01