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大塚正民の考古学と考古学の広場

92回 信託その13:信託と税務(日米比較その8)

2014/4/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

夫Hが信託会社Cを受託者として遺言信託を設定しました。この遺言信託の内容は、− @上場会社Xの株式を信託財産とする。Aこの信託の受益者は、妻Wと息子Sとする。B妻Wは、この株式からの配当を一生涯にわたって受領するが、彼女が死亡すれば、この株式の所有権は信託会社Cから息子Sに移転される。−というものでした。
夫Hが死亡した当時、上場会社Xの株式の評価額は10万ドル、今後予想される年間配当額は8,000ドル、妻Wの年齢は70歳で、その余命年数は15年でした。
このような状況に適用される米国歳入法典§102(a)は、「Gross income does not include the value of property acquired by gift, bequest, devise, or inheritance(総所得には贈与、動産の遺贈、不動産の遺贈,または、相続により取得する財産の価値を含まない)」と規定しています。この米国規定は、一見したところ、日本の所得税法第9条第1項が、「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」として、その第16号で、「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」と規定してところと似ていますが、「似て非なるもの」です。米国規定は、「無償で財産を取得した人には所得税を課さない」という意味ですが、日本規定は、「無償で財産を取得した人には所得税は課さないが、(相続税または贈与税は課する)」という意味なのです。なお、米国の場合、連邦遺産税または連邦贈与税は、財産を移転した人(被相続人または贈与者)に対して課税され、財産を取得した人(相続人または受贈者)には課税されませんから、結局は、財産を取得した人は、連邦所得税も、連邦遺産税も、連邦贈与税も、すべて非課税になります。
ところで、もし上場会社Xの株式が息子Sだけが取得していたとすれば、その評価額10万ドルは夫Hの遺産として連邦遺産税の対象になりますが、息子Sは非課税で上場会社Xの株主となり、年間8,000ドルの配当を受領することになりますが、この年間配当8,000ドルについては、息子Sは所得税を納付することになる筈です。ところが、本件の場合、息子Sが上場会社Xの株主となるのは、妻Wの死亡後であり、今後予想される年間配当額8,000ドルは、多分、15年間は妻Wが受領することになります。もし妻Wがきっちり余命年数15年間生存したとすれば、合計12万ドル(8,000x15)の配当を受領することになります。妻Wは、この年間配当額8,000ドル(合計12万ドル)を夫Hから「相続により無償で取得した財産」として「総所得から除外できる」でしょうか?1925年の連邦最高裁判所のIrwin v. Gavit事件判決注1は、妻Wの非課税の主張を認めた第1審判決と第2審判決を取消して、妻Wの主張を退けました。詳細は次回(第93回)での検討とします。 


脚注
 
注1

Irwin v. Gavit, 268 U.S. 161 (1925).

   
   





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更新日:2014/04/01