前回(第95回)の論稿で宿題とした問題、つまり、無財源生命保険信託と財源付生命保険信託とでは、税務上の取扱いに違いがあるのでしょうか?
前回の論稿(注2)で参照したUAPレポートによれば、結論として、「無財源生命保険信託と財源付生命保険信託とでは、税務上の取扱いに違いがない。」とされています。ただし、この結論は、平成23年3月24日の名古屋地方裁判所の判決を論拠としていますから、この地裁判決が平成25年4月3日の名古屋高等裁判所の判決によって取り消されていることを考慮すれば、最終的結論は、上告審である最高裁判所の判断を待たざるを得ない、と考えられます。
ところで、第89回の論稿で検討したアメリカの「撤回不能生命保険信託(Irrevocable
Life Insurance Trust:
ILITと略称されます。)の場合には、たとえ日本流には財源付生命保険信託であっても、多くの場合、結果は無財源生命保険信託と同じになる手段が用意されています。「ワザと欠陥を作出させた見なし自益信託(Intentionally
Defective Grantor Trust:
IDGTと略称されます。)という手段です。このIDGTは、連邦所得税法上は「見なし自益信託(Grantor
Trust)」になりますが、連邦遺産税法上は「他益信託(Non-Grantor
Trust)」になります。つまり、連邦所得税法上は、この信託の財産は引き続き信託設定者(Grantor)の所有財産と見なされ、その収益は引き続き信託設定者の収益と見なされますが、連邦遺産税法上は、この信託の財産は設定者の手許を完全に離れたものと見なされ、したがって、信託が受領した生命保険金は信託設定者の遺産にはならないのです注1。加えて、第88回の論稿で検討したように、Crummey
trustの利用によって「将来権(future interest)」を「現在権(present
interest)」に変更した上で、信託の設定者は、自分が支払った生命保険料について贈与税額控除も受けられるようになります注2
。
脚注
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注1 |
“IDGT is a trust that is defective solely for income tax
purposes. The fact that the grantor trust rules are
different for income tax and for gift and estate tax
creates planning opportunities. For estate and GSST
purposes, transfers to IDGT will be completed gifts and
outside the estate. However, for income tax purposes,
the existence of the trust is ignored and the grantor is
treated as the owner of the trust.” Excerpted from Asset
Protection Strategies & Forms,
http://www.jameseducationcenter.com/articles/defective-grantor-trust/
(最終検索2014年8月1日)
試訳:「ワザと欠陥を作出させた見なし自益信託(Intentionally Defective Grantor
Trust:
IDGT)」とは、もっぱら所得税法上は、他益信託の要件を欠くために自益信託とみなされてしまう信託を指す。ある信託が他益信託の要件を欠くために自益信託とみなされてしまう要件が、所得税法の場合と贈与税および遺産税の場合とでは、それぞれ異なっているという事実から、このIDGTという節税策が生まれた。つまり、贈与税および遺産税の場合には、信託財産をIDGTに移転すれば、完全な贈与となり、もはや信託設定者の所有物ではなくなるが、所得税の場合には、IDGTの存在は無視され、信託財産は引き続き信託設定者の所有物とみなされるのである。
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注2 |
“Most ILITs include Crummey withdrawal powers to ensure
that gifts to the trust qualify for the gift tax annual
exclusion. Crummey powers are general powers of
appointment that partially or wholly lapse within a
specified time period.” Baier, Estate and Financial
Planning Drafting Flexibility into an Irrevocable Life
Insurance Trust,
http://www.americanbar.org/content/newsletter/publications/gp_solo_magazine_home/gp_solo_magazine_index/trustfund.html(最終検索2014年8月1日)
試訳:たいていのILITは、Crummey trust
上の引き出し権限条項を挿入することによって、その後の信託への追加贈与が年間贈与税控除の適用対象となるように構成される。つまり、Crummey
trust上の引き出し権限は、一定の期間を経過すれば消滅する権限ではあるが、年間贈与税額控除の適用のない将来権を年間贈与税額控除の適用のある現在権に転換する方策として利用される。
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