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大塚正民の考古学と考古学の広場

99回 信託その20:信託と税務(日米比較その15: grantor trust)

2014/11/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

アメリカの連邦諸税の主たる根拠法は内国歳入法典(Internal Revenue Code)です。合衆国法律集(United States Code)のTitle 26となっています。このTitle 26は、更にいくつかのSubtitleに分かれますが、Subtitle AはIncome Taxesになっています。このSubtitle Aは、(たとえば日本の所得税法が、編、章、節、款、目、条と分かれているように、) Chapter, Subchapter, Part, Subpart, Sectionと分かれています。信託(trust)に適用されるのは、Subchapter J:Estates, trusts, beneficiaries, and decedents のPart I:Estates, trusts, and beneficiariesです。このPart Iは、更にSubparts A, B, C, D, E,Fに分かれます。Subparts A, B, C, Dはnon-grantor trust(他益信託)に関する規定、Subpart Eはgrantor trust(みなし自益信託)に関する規定、Subpart Fはmiscellaneous(雑則)となっています。つまり、grantor trustに関する規定は、つぎのような法典構成となっているのです。
Title 26  Internal Revenue Code
 Subtitle A   Income Tax
  Chapter 1   Normal Taxes and Surtaxes
   Subchapter J   Estates, trusts, beneficiaries, and decedents
    Part I        Estates, trusts, and beneficiaries
     Subpart E      Grantors and Others Treated as Substantial Owners
     Subpart F      Miscellaneous
Subpart EはSections 671~679から構成されていますが、Secs. 671~677が純粋のgrantor trustに関する規定で、Sec. 678はいわゆるMallinckrodt信託注1という特殊な信託に関する規定であり、Sec.679は外国信託(foreign trust)に関する規定です。
 
Grantor Trust(みなし自益信託)
信託設定者(grantor)が信託財産(trust property)の元本(principal)もしくは収益(income)またはその双方について当該財産およびその収益の所有者(owner)とみなし得るほどに支配権(control)を留保している信託がgrantor trust(みなし自益信託)です。Non-grantor trust の場合であれば、信託収益(trust income)は、それを稼得した信託自体またはそれを受領した受益者の課税所得になりますが、grantor trustであるとみなされると、信託収益は、信託または受益者の課税所得とはならず、信託設定者(grantor)の課税所得とみなされます。つまり、当該財産およびその収益は、設定者から信託へと移転していない、とみなす訳です。連邦最高裁判所の1940年クリフォード事件判決注2を機縁として財務省の1946年クリフォード事件規則注3が制定され、連邦議会は1954年内国歳入法典注4にクリフォード事件規則をほぼそのままの内容で取り入れたのです。

 

脚注
 
注1

Mallinckrodt v. Nunan, 146 F2d 1 (8th Cir.), cert. denied, 324 US 871 (1945)の判旨を条文化したものです。  

注2

Helvering v. Clifford, 309 US 331 (1940)。

注3

TD 5488, 1946 CB 19。 

注4

Internal Revenue Code of 1954 §§671~675。なお同じSubpart Eを構成する§676(いわゆる撤回可能信託:revocable trustに関する条文)および§677(いわゆる設定者収益信託:income for benefit of grantorに関する条文)は、クリフォード事件判決よりも前から存在していた条文ですが、クリフォード事件では「条文上の要件を満たしていない」として適用されなかった条文です。しかし、連邦議会は、クリフォード事件規則をgrantor trustに関する条文として立法化するに当たって、典型的なgrantor trustを規律する条文として、これらの2条文を1954年内国歳入法典に挿入したのです。なお、同じくSubpart E を構成する§678は、いわゆるMallinckrodt信託に関する規定であり、§679は、外国信託に関する規定です。

   
   


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更新日:2014/11/01