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大塚正民の考古学と考古学の広場

108回 第2版国際法務シリーズ:第2版国際法務その4:租税法その3:いわゆる出国税制度(=国外転出時課税制度)その1:3つの設例

2015/8/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

今年(平成27年=2015年)の7月1日から施行された制度として、いわゆる出国税制度(=国外転出時課税制度)があります。3つの場合があります。
第1の場合(設例その1)
日本の居住者である甲野太郎さんは、アメリカ会社(X会社)の上場株式を所有しています。当初の購入価格は1億円でしたが、現在の市場価格は3億円です。太郎さんが、日本を離れてシンガポールの居住者になると、つまり、日本からシンガポールに国外転出(出国)すると、太郎さんは、X会社の株式を日本において3億円で売却し、同じX会社の株式をシンガポールにおいて3億円で購入した、と見なされます。というのは、所得税法第60条の2第1項が、次のように規定しているからです。「国外転出(国内に住所および居所を有しないこととなることをいう。・・・)をする居住者が、その国外転出の時において有価証券・・・を有する場合には、その者の・・・所得の金額の計算については、その国外転出の時に、・・・当該有価証券・・・の譲渡がものあったとみす。・・・」つまり、太郎さんは、⒉億円の利益があったものとして、約3,100萬円の所得税を支払うことになります。(3億円−1億円=⒉億円)x15.315%(1)=約3,100萬円。
第2の場合(設例その2)
日本の居住者である乙野次郎さんは、イギリス会社(Y会社)の上場株式を所有しています。当初の購入価格は1億円でしたが、現在の市場価格は3億円です。次郎さんが、現在シンガポールに居住している(次郎さんの長女で日本国籍を有する)乙野花子さんに、このY会社の株式を贈与すると、つまり、日本の居住者次郎さんからシンガポールの居住者であり日本の非居住者である花子さんにY会社の株式の贈与が行われると、次郎さんは、Y会社の株式を日本において3億円で売却した、と見なされます。というのは、所得税法第60条の3第1項が、次のように規定しているからです。「居住者の有する有価証券・・・が、贈与・・・により非居住者に移転した場合には、その居住者の・・・所得の金額の計算については、・・・その贈与・・・の時に、その時における価額に相当する金額により、当該有価証券・・・の譲渡があったものとみなす。」つまり、次郎さんは、⒉億円の利益があったものとして、約3,100萬円の所得税を支払うことになります。(3億円−1億円=⒉億円)x15.315%=約3,100萬円。
加えて、花子さんは、次郎さんからの3億円の贈与について、日本の贈与税が課税されます。というのは、相続税法第1条の4第2号イおよび相続税法第2条の2第1項によれば、「贈与により財産を取得した・・・者であって、当該財産を取得した時において【日本】に住所を有しないもの」であっても、「日本国籍を有する個人」であれば、「当該贈与をした者が当該贈与前5年以内のいずれかの時において【日本】に住所を有していたことがある場合」には、つまり、日本国籍を有する非居住者である受贈者花子さんは、贈与者である次郎さんが居住者である限り、全世界財産について日本の贈与税の納税義務があることになり、3億円の贈与について約1.6億円の贈与税を納付することになります。(3億円−110萬円(2))x55%(3)−640萬円(4)=約1.6億円。
第3の場合(設例その3)
日本の居住者である丙野三郎さんは、フランス会社(Z会社)の上場株式を所有しています。当初の購入価格は1億円でしたが、現在の市場価格は3億円です。三郎さんの遺産であるこのZ会社の株式が、現在シンガポールに居住している(三郎さんの長女で日本国籍を有する)丙野蝶子さんに相続されると、三郎さんは、Z会社の株式を日本において3億円で売却した、見なされます。というのは、所得税法第60条の3第1項が、次のように規定しているからです。「居住者の有する有価証券・・・が、相続・・・により非居住者に移転した場合には、その居住者の・・・所得の金額の計算については、・・・その【相続】・・・の時に、その時における価額に相当する金額により、当該有価証券・・・の譲渡があったものとみなす。」つまり、三郎さんは、⒉億円の利益があったものとして、約3,100萬円の所得税を支払うことになります。(3億円−1億円=⒉億円)x15.315%=約3,100萬円。
加えて、蝶子さんは、三郎さんからの3億円の相続について、日本の相続税が課税されます。というのは、相続税法第1条の3第2号イおよび相続税法第2条第1項によれば、「相続により財産を取得した・・・者であって、当該財産を取得した時において【日本】に住所を有しないもの」であっても、「日本国籍を有する個人」であれば、「当該相続に係る被相続人が当該相続前5年以内のいずれかの時において【日本】に住所を有していたことがある場合」には、つまり、日本国籍を有する非居住者である相続人蝶子さんは、被相続人である三郎さんが居住者である限り、全世界財産について日本の相続税の納税義務があることになります。(具体的な相続税額は、相続財産の構成などによって異なります。)
次回(第109回)では、このような出国税制度(=国外転出時課税制度)が立法された背景などについて述べたいと思います。



脚注
 
注1

所得税は、分離課税としての所得税が15%(租税特別措置法37条の10第1項)ですが、復興特別所得税と合わせて15.315%(15%x102.1%)となります。    

注2

相続税法第21条の5に定める60萬円の「贈与税の基礎控除」は、租税特別措置法第70条の2の3第1項によって110萬円に引き上げられています。

注3

相続税法第21条の7は、3,000萬円を超える金額の贈与税の税率を55%としています。

注4

累進的な税額計算の場合の簡便計算法として、3億円の全額に55%の最高税率をまず適用し、ついで、3,000萬円以下の部分に実際に適用される税率で計算した金額以上の超過金額の合計額640萬円を控除したものです。

   
   
   
   


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更新日:2015/07/31