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林川眞善の「経済 世界の

第3回 世界経済、2060年の展望と、中国、米国そして日本再考

2012/11/30

林川 眞善
 

はじめに:BRICs 成長のダイナモ

 9年前(2003年10月)、米大手証券会社、ゴールドマン・サックスが投資家の為の将来指針として、2050年の世界経済予想([Dreaming with BRICs; The Path to 2050] 1st.Oct. 2003)を発表したことはよく知られている処です*。その要旨は、これからの世界経済はBRICs、つまり中国(C)、インド(I)、ブラジル(B)、ロシア(R)、の新興国 が米国、日本、そしてEUの先進国に代わって成長のダイナモとなっていくこと、そして2050年には、経済大国として残る先進国は米国と日本の2か国になるとし、新しい世界経済の在り姿を強く訴えると共に、将来の成長市場としてBRICへの投資を慫慂するものでした。もとより「BRICs」は新時代の到来を示唆する時事用語として人口に膾炙する処となってきたことは周知の処です。

* http://www.goldmansachs.com/our-thinking/topics/brics/brics-reports-pdfs/brics-dream.pdf 

 さて、国際機関OECD(Organization for Economic Cooperation and Development, at Paris)がこの11月、やはり長期展望(Looking to 2060: Long –term global growth prospects、OECD, Nov.2012)を発表しました*。当該見通しは生産関数をベースとしたもので、ゴールドマンのそれと同じ土俵にある処ですが、そこで改めて、当該レポートをレビューし、そこから浮き彫りされる問題点について、以下、考察することとしたいと思います。   

* http://www.oecd.org/eco/economicoutlookanalysisandforecasts/2060 policy paper FINAL.pdf
 

1. 2060年の世界経済の展望
 
(1)OECDによる長期展望 ― Looking to 2060 : Long-term global growth prospects

 
 2012年11月9日、OECD(国際経済協力開発機構)は、今後50年後の2060年の世界経済の展望を発表しました。

 これによると、まず成長率ですが、リーマンショク後の各国での財政及び経済構造改革の進捗と新興国の世界経済に於けるシェアーの拡大から、今後50年を通じて世界経済は年平均3%で成長すると予想されています。(当該予測は、2005年の購買力平価をベースに2060年における世界の総生産(GDP)を算出したもの)

 これはOECD加盟国(34か国)の成長率が1.75%~2.25%と予想されているのに対して、非OECD諸国の成長率が、中国、インド等新興国の成長を反映して、それらを上回ることが予想される結果、世界全体としての成長率は年率3%になるというるものです。尤も、中国を核として、これまで7%水準にあった新興国の成長率も、2020年代には5%、2050年代には3.5%と低下することが予想されていますが、OECD加盟国の成長率(上記)に照らし、依然、世界経済は新興国誘導の形で進むことが予想されると言うものです。

 これらを更に国別にみていくと、中国とインドはいずれも米国を凌ぎ、世界の2大国としての地位を固めるとしています。具体的には中国は2012年にはユーロ経済を凌駕すること、更に数年以内には米国を凌駕するものと予測されており、又インドについては現在、日本超えにあること、更に20年以内にはユーロ超えを予測しています。そして、中印の二か国で2025年にはG7を超え、2060年には全OECD加盟国計を凌駕、全世界経済の3分の一のシェアーを占めると予測しています。
 なお、日本経済の世界経済に占める割合は、2011年の6.7%から3.2%に低下し、日本は経済小国に転落することが予想されているのですが、やや気になる処です。

 下表は、2060年に至る主要国の世界経済に占めるポジションの推移を示したものです。

  Major changes in the composition of the world GDP
 
    2011 2030 2060
  USA 23 % 18 % 17 %
  Japan 7 % 4 % 3 %
  China 17 % 28 % 28 %
  India 7 % 11 % 18 %
  Euro Area 17 % 12 % 9 %
  Other OECD 18 % 15 % 14 %
  Non-OECD 11 % 12 % 11%
 
― Looking to 2060: Long –term global growth prospects、OECD, Nov.2012
 
 

(2)長期予測 の枠組み

 処で、当該長期予測はCobb-DouglasのProduction function(生産関数)(注)を適用しており、従って労働、資本、技術の三要素をベースに経済計算が行われています。

(注)Cobb-Douglas の Production function:生産量(経済活動)は投入物の種類や量によって決まる。この関係を労働力と資本と技術進歩の関数として下記表記される。
Y=ALαKβ
(L)労働投入量、(K)資本投入量、(A)技術進歩、α、βは夫々の分配率

 この関数が示唆することは、新興国経済の成長について言えば、生産要素のうち、労働力についてはセルフで確保する一方で、技術と資本については、グローバル化の恩恵を受ける形で先進国と共に成長してきたと言う事と言えます。それは、マクロ的には技術の平準化が進み、新興諸国での賃金の上昇とも相まって、相対的な経済格差が徐々に解消されていく、そういった環境変化を示唆する処でもあるのです。とすれば、大まかに言って労働者(生産者)人口の多寡が経済の規模を決定づけるものとも言え、その点からは、労働力人口の推移、労働力人口の維持に向けた構造改革の進捗など、政策的要素を変数に組み込んで測定されているのです。
 そうした論理からは、大型人口を抱える新興国BRICsの世界経済に占める比重が高くなっていくのは、いうなれば自然な結果で、これが「人口序列への回帰」(次頁第3項)とされる処です。

 ただ、これら見通しのなかで気がかりなことと言えば、中国のそれです。急速な人口減少から中・長期的な成長の鈍化は予想に織り込み済みという事でしょうが、直近の減速ぶりに照らすとき、その落差をどのようにカバーしていくことになるのかという事です。一方、インド、日本、ロシアも成長していくとすると、アジア周辺は世界最大のエネルギー消費地になることになるのですが、さてアジアに於けるエネルギー確保の問題はどうなるのか、等々、です。

 いずれにせよ、2060年には中国とインドを合わせたGDPがOECD加盟国全体をも凌ぐとされる指摘は、同時に、色々潜在する問題を示唆する処ですが、これら変化は必ずや新たなパラダイムを齎すことにはなる筈です。とすれば、日本をはじめとする先進国諸国は、今後とも彼らの行動変化を念頭においた戦略対応が求められていく事になる処ですし、その為には彼らの変化推移を注視していく事が益々求められることになると言うものです。

(3)人口序列への回帰

 新興国が世界経済の主役に躍り出てきたという今日的な現象は、戦後一貫して先進国が主導してきた世界経済にあっては、極めて驚くべき変化として受け止められてきた処と言えます。2年前、英誌エコノミスト誌はそうした変容する今日の世界経済の生業を「逆転する世界経済(The world turned upside down)」と題して特集したほどでした*。
 しかし、世界経済の長期推計で知られたフローニング大学(蘭)のアンガス・マデイソン教授(2010年没)**は、新興国(中・印)の台頭で世界経済が逆転することについて、過去数百年の歴史を見た時、新興国成長は人口増の動きと整合した自然の推移変化であり、従って、現下で進む新しいパラダイム変化とは、‘人口序列’方向への差し戻しされる変化だ、と言うのでした。

* http://www.economist.com/node/15879369 
**
http://www.ggdc.net/maddison/

 つまり、これまでは、欧米二大市場で高いシェアーを握るものが、世界一となるのが常道とみなされてきました。因みに、2009年時点で見ると、人口では世界の15%しか占めていない先進国が、世界経済にあっては50%強をも占め、一方、人口では二カ国で37%を占める中・印のGDPが同じく17%に過ぎなかったのです。しかし、これからの世界経済が、新たなパラダイムとして中・印という人口巨大国に誘導されていくことになると、それは、19―20世紀の姿とは逆に人口優位を辿る、いうなれば人口序列の方向に差し戻されていくという変化だ、ということになると言うものです。

 A.マデイソンの分析によれば、 中国とインドの両国で、人口も経済規模(実質GDP)も、ほとんどの期間、世界の半分か、それ以上を占めているのです。英国で産業革命がはじまって半世紀ほどたった1820年でも、両国のGDPは世界の5割弱(中国:29%、インド:16%)となっています。(注:下記表)

 つまり、工業化以前の農業の比重が大 きい時代の経済は、多くの人口を養える国ほどGDPが大きい、つまり、大まかに言って人口扶養力=GDPがなり立つ、‘人口序列’にあったというものです。それが、19世紀から20世紀にかけて、先進国諸国が産業革命を経たことで人口シェアーの何倍ものGDPを得ることとなり、一方、中・印のGDPシェアーは急速に低下し、1950〜70年代には両国合せても世界の10%を割り、一時は日本一国並みの規模になっていったのです。 

 それは、産業革命の‘時差’が齎した異変とも言え、いま騒がれる世界経済の逆転云々とは、「グローバル化」の進行が、その時差を急速に解消させてきているという事態を示唆するものといえるのです。その点で、いま世界的に起こっているパラダイム変化とは‘人口序列方向への差し戻し’現象とされる処なのです。

  経済大国上位10カ国の「GDP&人口」の対世界シェアー
      1820年     1992年
      GDP(%) 人口(%)     GDP(%) 人口(%)
  1 中国 28.7 35.5   米国 20.3 4.7
  2 インド 16.0 19.6   日本 12.9 2.3
  3 5.4 2.9   ドイツ 8.6 1.5
  4 英国 5.2 2.0   中国 4.9 21.4
  5 ロシア 4.9 4.2   インド 4.2 16.2
  6 日本 3.1 2.9   3.7 1.1
  7 豪州 1.9 1.3   3.4 1.1
  8 西 1.9 1.1   英国 3.3 1.1
  9 米国 1.8 0.9   2.9 2.7
  10 プロシャ 1.7 1.1   2.7 2.9

 

2..長期展望 のなかで考える ― 中国、米国そして日本再考
  

 さて、OECDの展望に照らすとき、これからの世界の運営様式は、中国そして米国によって再定義されていく形で進むことになるものと思われますが、その際の思考の基本軸は、これまでのような一国で世界を動かせる時代ではなくなってきた、との認識にあると言うものです。オバマ米大統領も「米国だけで世界を動かすことはできない」と発言し、米軍が「世界の警察」役を降りることを明言した最初の米大統領とされているところです。つまり世界経済は‘極’を持たない新たなシステム、つまり「Gゼロ」(注)に向かっていると言うものです。

 (注)「Gゼロ」:戦後の世界運営は、最初は米国がリーダー役。その後、主要国が協議に参加するG7更にG20とバトンをつないできたが、現在では 個々の国にリーダー役を担う余裕はなく、G20も「政治的、経済的価値観が共有されていない」ために限界があり、リーダー役不在 の「Gゼロ」状況になっている。Gゼロ下での世界運営については、米国はリーダーとしての限界を受け入れざるを得ない、と。  (イアン・ブレマー、`「Gゼロ」後の世界’ )

 しかし、そうした発想にはお構いなく、米国に代わって中国が世界の経済大国たる姿勢を強く世界にアピールする様相にあり、これからの中国の生業の如何が、大きな問題となっていく事が感じられる処です。
偶々、11月、中国では習近平氏が中国共産党総書記に就任し、これからの10年、トップとして中国運営を預かることとなりました。同時に、米国ではオバマ大統領が大統領に再選され、更にこれから4年、米国のカジ取り役を担う事になっています。更には、日本も12月には首相の交代が予想されています。そこで、この際は、中国、米国そして日本に絞り、以上の展望から浮かび上がる問題について改めて考えていく事としたいと思います。

(1)経済大国、中国の生業
   
 9年前、米ゴールドマン・サックスがOECDの予測に先駆け、同様な予測結果を発表した事は冒頭に触れた通りですが、その当時、経済大国となることが予想される中国について、いろいろの問題が指摘されました。その第一にあったのが、BRICs諸国、とりわけ中国について、かれらが威信とそれに付随する責任を兼備した世界の指導者らしさを身に着けられるか、どうか、という事でした。そして、中国の今の現実からは、それが、まさに痛感される処です。

 これまで、中国は、国家資本主義(注)を枠組みとして運営され、国家の目標に即した経営資源の配賦と戦略行動によって高成長を遂げてきました。従って、時に国家資本主義を効率的な仕組みと評価する向きもありま した。しかし、経済が急速に拡大していく中で、国内での経済格差、つまりは貧富の格差が深まり、政府関係者の汚職が蔓延し、社会的な不満がたかまる等、これまでの社会システムの矛盾が露呈してきておりきており、政府はその抑え込みに躍起と伝えられています。先の9月に起きた反日暴動も国民の不満が政府に向かう事を避けるべく、政府の誘導で日本に向けたもの、とまで言われています。

(注)国家資本主義とは、「政府が経済に主導的な役割を果たし、主として政治上の便益を得るため市場を活用する仕組み」(イアン・ブレマー、「自由市場の終焉」)

 これまで13億の国民を擁する国家を、僅か9人の共産党幹部(現在は7人、党員は5000万人といわれていますが)で運営してきたシステムでは持ち堪えられなくなってきていると言われており、さてそうした社会改革が進みうるものか、が大きな課題と なっているのです。

 11月8日の共産党大会での総書記活動報告では、一人あたりの所得を2020年には、対10年比で2倍とする成長を目指すと宣言されていました。これは格差問題の解消を示唆する成長政策と言え、習政権はそのフォロワーとなるのでしょう。そしてその習近平氏は11月14日、中国共産党総書記就任にあたっての演説で「中華民族の偉大な復権」を掲げてデビューしたのです。それは、2016年には米国を抜き,世界ナンバー・ワンの大国になる見通し、に応えんとしたものともいえそうです。

 しかし、中国の社会制度は世界標準からはかけ離れた状況にあり、憲法に党が国家を指導すると明記する国では党の生き残り策が優先する今の中国では、成長を続けつつ、格差を解消するには内在矛盾がありすぎると言わざるを得ない処です。例えば、国家経済について言えば、輸出と投資ばかりに依存しない成長の構図が不可欠という事ですが、そのためには個人消費の比率(現在GDP比35%)を高める必要があります。その為にはもっと経済の民主化が不可欠となる処です。しかし、現下で見る、官が資金やエネルギーを分配し、国有企業を通じて投資のアクセルをふかす「中国モデル」を前提とする限り、世界2位の経済大国を安定成長に導くには、その状況は極めて難しいのではと思料されるのです。

 10月27日付 英エコノミスト誌は‘The man who must change China’*と題して、総書紀就任を前にした習近平氏に向けて、‘習近平氏には将来の繁栄と安定を確実にしていく事が求められる。その為には必要とされる社会経済改革、政治改革項目を具体的に明示すると共に、まず過去との決別(break with the past) を果たし、国民の権限を少し広げる事から始める事が期待される’、としていました。そして、‘The world has much more to fear from a weak, unstable China than from strong one‘(世界にとって、強い中国より、脆弱で不安定な中国の方が大きな脅威と)としていたのですが、うなずける処です。

*http://www.economist.com/news/leaders/21565210-xi-jinping-will-soon-be-named-china%E2%80%99s-next-president-he-must-be-ready-break

 勿論、日々の対応についても、上昇する人件費、更には人権上の要求等々をも受け止めていく事も必然とされる処です。つまりは発想を大きく変えることのない限り、予測通り成長の維持はかなり困難と見ざるを得ず、さて、そうした変化をどのように誘導していけるか、それこそが習近平氏にかかる課題なのです。

 それにしても「民主主義という普遍価値を持たない中国。このままでいくと世界は異質な国が米国に代わってトップに座る居心地の悪い事態に直面する」(日経11月16日)ことへの不安が払拭されない限り、今後のグローバル経済において予測通りの成長はなかなか期待しにくいのではと、思料する処です。

(2)経済再生に挑戦する米国

 長期展望にあたって、OECDもゴールドマンも、いずれも先進国経済については成長の鈍化を前提とする形で推計されています。確かに、日本経済はいまだデフレに苦しむ状況にあり、欧州経済も財政金融危機による景気の悪化から依然抜けきれず、時にユーロ同盟の危機すら云々される状況にあります。しかし、米国については、ちょっと様子が違うようです。先の米大統領選挙戦では、オバマ大統領は、いま米国では二つの革命が進行しており、活性化する米国産業の大いなる可能性を国民に訴えていました。言うまでもなくその一つはシェール・ガスなどのエネルギー分野で成長を支える革新が急速に進んでいること、もう一つは情報通信の分野でのいわゆるデジタル革命と言われる変化ですが、これがまた急速に進んできたということです。

 11月12日、IEA(国際エネルギー機関)が発表した「世界エネルギー見通し」によると、17年までに米国が石油・ガスの生産量で世界最大になるとの由です。勿論、「シェールガス」など非在来型の石油・ガスの生産が増えると言うものです。更に、IEAによると、2035年までには米国はエネルギー自給を達成する可能性があとも指摘しています。いまや、あまりの成功を収めたことで、北米では供給過剰が起きるほどで、従って価格は急落し、シェールガスの破砕業者はより高価なシェールガス採掘に乗り出しているとも言われていますが、いずれにせよ、安価なガスは安価な電力を生み、米国の産業、特にアルミニウム、鉄鋼、ガラスと言った電力を大量消費する産業を後押しする処であり、また大量にガスを使用する石油化学会社にも追い風となる処で、効率的なエネルギー基盤を得た米国の産業の活力は確実なものとなってきたと言う事です。

 一方、IT技術の革命的な進歩は、いまや世界経済を再びフラット化しつつある(クリス・アンダーソン、「メーカーズ」)とさえ言われる処です。例えば「ものづくり」においては、オートメーションの拡大と高度化によって、コスト構造の革命的な変化が齎され、欧米とアジアがますます同じ土俵で戦うようになってくるほか、いわゆる‘産業の民主化’が一層進むことで、新たな産業活動が起こってきていると言うものです。つまりは急速な展開を示すデジタル革命とされる変化は、今や全産業に及ぶ産業革命の様相にあり、成長トレンドに大きな変化を予想させる処となってきているのです。

 そして、ここで注目すべきは、オバマ大統領は小学校からコンピューター教育を導入し、進行するデジタル革命に対応するための人材開発を国家戦略として位置づけていると言う点です。企業も経済も国家も、最後の決め手は人材であること、そしてそのための対応策がコンピューター教育を通じた人材強化策だと言うのです。

 因みに、先に長期展望が出された折「事態が予想通りに進めば、50年後の大国は日本を除いて皆、資源国だと。であれば未来に向けた日本の課題は明らか。人材が唯一のカードである日本は、一に教育、二に教育だ」と、声が上がったのを思い起こすのですが、まさに今日の日本にとって必須のことと思いは募る処です。

 さて、米国に対する長期展望もこうした要素を踏まえていくと、それは大きく変ってくる処ですし、その変化は単に米国のみならずグローバルな産業システムに、おおきなインパクトを齎す処です。それだけに新たな産業革命の様相を示す米国の変化には何よりも注視・フォローしていく事が、従来以上に重要となってきているのです。勿論、新興国の成長変化に注目していく事の大切さは変わることのない処です。

(3)日本のシェアー「3%」を考える

 OECD予測によると2060年の日本経済の世界に占めるポジションはわずかに3%と、日本が経済小国になっていく事が予測されています。その数字の背景にあるのが人口の減少ですが、さてこうした変化を、今後の日本の生業を考えていく上で、どのように考えていくべきなのでしょうか。

  2年前の2010年11月、英The Economist(11月20日付)は人口減少(注)が急速に進む日本の現状について「未知の領域に踏み込んだ」( Into the unknown )と一種日本経済への警鐘とも言える特集を組み、人口減少時代に突入した日本経済の持続的な成長を図っていく為には行動様式の変革が不可欠と指摘していたのです。

     (注)日本の人口推移(国立社会保障・人口問題研究所)
  2010年: 128,057(万人)
  2030年: 116,618
  2040年: 107,276 (2048年には人口は1億人を割る)
  2050年: 97,076
  2060年: 86,737

 OECDによる長期展望が出された今、経済のグローバル化が進み、そして、その流れが「Gゼロ」に向かっていく環境にあって、日本はどのような戦略を持って進むべきかが喫緊の課題として迫ってきているのです。

 ではこれにどう向かい合っていくべきと考えればいいのでしょうか。人口減少社会の問題点としてよく指摘されることと言えば、国内市場が小さくなり、産業活動が停滞するという事です。つまりは需要の縮小だと言うものです。しかし国内人口は減少しても、世界の人口は増え続けることが見通されており、世界の市場を対象にする限り、国内市場の縮小という問題は回避可能な筈です。つまりはグローバル化を進める事こそが、人口減少問題への最大の処方箋となると言うものです。であれば、3%の数字の意味は6%にもなると言うものです。

 本当の問題は、こうしたグローバル化に日本社会が上手く対応できていない点にある、という事ですが、カギはグローバルな産業社会で主導的な役割を果たせるような人材を育成することと考えます。多くの国々ではグローバル教育を徹底させ、世界的な競争に勝てる人材の育成を国家戦略としてきています。人口減少が進むことで日本が先進国から脱落する可能性が高いと指摘する経済人がいるのですが、問題は人口減少そのものではなく、それをグローバル化によって克服すると言う体制ができていないという事なのです。

おわりに:国を拓くシナリオを

 いま、日本は12月の総選挙に向けて大忙しです。しかし、期待していたメッセージ、つまりこの日本と言う国をどのような方向に持っていきたいのか、どういった形にして行きたいのか、そうしたグランドデザイを語る政治家が見当たらないことに、大いなる不満を募らせるばかりです。

 少なくとも、これからの世界と日本の生業を考えていくとき一人では生き抜いてはいけないことは自明の処です。少子高齢化が最も早いスピードで進行している日本が持続的可能性を確保していくには、先にも触れた通り、いわゆるグローバル化を戦略的に進め、積極的に海外との交流を図っていくほかないのです。そして、その為にも、失われた何年と揶揄され、デフレに慣れてしまった日本経済を何としても再生させねばなりません。つまりは国力の再生です。これこそが目下の国政選挙で問われている筈なのですが。

 例えば、現在、冷え切った中国との関係について言えば、一義的には尖閣問題に因るものでしょうが、日本経済の‘力’のなさ、そして政治力のなさが対日姿勢を強めてきているように思えてなりません。同盟国とされてきた米国との関係においても、不安視されるのも、同じような事情を反映しているのではと危惧するばかりです。

 英経済紙、Financial Times(2010/4/15)が、かつて日本の内向き志向について`Japan’s splendid isolation may be at risk’* 、つまり「日本の優雅な孤立」は、いまや‘国’として大いなるリスクとなってきている、と警鐘を鳴らしていましたが、今回、OECDの長期展望を見るにつけ、改めて日本経済再生へのシナリオ作りが痛感される処です。そのシナリオとは国を拓き、国力をつけていくシナリオなのです。  

*http://www.ft.com/intl/cms/s/0/fb85d0a2-47f6-11df-b998-00144feab49a.html    

 


以上

 

著者紹介
三菱商事、三菱総合研究所を経て、帝京大学教授、多摩大学大学院教授を歴任(専門分野:戦略経営論、グローバル経営論)

 

 

 

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更新日:2012/12/01