ここまではアメリカと日本における「内部告発奨励法」と「内部告発者保護法」の歴史を見てきました。次に「内部告発義務法」の歴史を見ることにします。今回はアメリカの内部告発義務法の歴史を見て、次回は日本の内部告発義務法の歴史を見ることにします。
1995年12月22日に当時の大統領クリントンの拒否権を覆して「私的証券訴訟改革法(Private Securities Litigation Reform Act of 1995)」
(注1)が成立しました。この法律は、その名の示すように、詐欺的な証券取引によって損害を蒙ったとして投資家達(実際はいわゆる訴訟専門弁護士達)が証券発行会社の監査人である公認会計士(および取締役などの関係者達)を訴える団体訴訟(class action)の手続を「改革」すること(実際は「制限」すること−クリントンが拒否権を発動したのも「制限」することに反対したからです。)を目的としたものですが、そのSection 301(a)で1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)に新たにSection 10A(15 U.S.C. Section 78j-1)を追加する改正を行い(注2) 、「被監査会社の違法行為を監査人が内部告発する義務」を新設しました。つまり、この法律は、一方において、監査人である公認会計士を訴える団体訴訟の手続を制限することによって監査人である公認会計士の責任を軽減したのですが、他方において、この内部告発義務を課すことによって監査人である公認会計士の責任を強化したのです。具体的には、次のようなことが規定されています。
1. |
監査人(independent public accountant)が被監査会社の違法行為を覚知したときは、被監査会社の取締役会(the board of directors)にその旨の報告書(report)を提出する。 |
2. |
被監査会社側は、かかる報告書を受領した旨を証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)に直ちに(not later than 1 business day after the receipt of such report)通知すると同時に、その通知書の写し(a copy of the notice)を監査人に交付する。 |
3. |
もし監査人がそのような通知書の写しの交付を上記の通知期間内に受けなかったときは、監査人は自己の報告書の写しを直ちに(not later than 1 business day following such failure to receive notice)証券取引委員会に提出しなければならない。 |
4. |
監査人のこのような報告書が結局は誤っていたことが判明したとしても、監査人は一切の民事責任を負わない。 |
5. |
監査人がこのような報告書の提出義務を怠った場合には、証券取引委員会は、監査人に対し民事罰金(civil penalty)を課することができる。 |
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