一般に粉飾決算と言われるものには3つの基本的な類型があり、第1類型が、事実そのものを偽るもの(例えば、架空の売上げを計上する。)、第2類型が、子会社を使うもの(例えば、不良品を親会社の在庫としないで子会社の在庫とする。)、第3類型が、複数ある会計処理方法の中で都合の良い方法をワザと選択するもの、ということは、これまで繰り返し述べて来たところです。ところが最近になって、金融危機対応策としての「時価会計の緩和」という型で、いわば第4類型の粉飾決算というべきもの、つまり、「公認された粉飾決算」という類型が誕生したことは、前回(第28回 粉飾決算その6:第4類型の粉飾決算)で述べました。ここにいう「時価会計の緩和」には、現在のところ、2つのものがあります。1つは、資産の保有目的の変更を認めることです。2つは、時価の算定に市場価格以外の価額を認めることです。後者については、あくまでも「時価会計の枠内における対応」であって、「時価会計の緩和ではない」との趣旨で、2008年10月28日に公表された企業会計基準委員会の実務対応報告第25号「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」があります。これによりますと、「市場における取引が活発でないため、または、市場が十分に確立・整備されていないために、市場価格は金融資産の公正な評価額を示していない」場合には、「経営者の合理的な見積りに基づく合理的に算定された価額」を「時価」として認める、とされています。市場価格以外の価額を「時価」と認めることは「時価会計の枠内の対応(注1)」であるから、マスコミなどが、これをもって「時価会計の緩和」などと報道することを「会計専門家達」の中には「素人の誤解」であると非難する人達もいます。そういう人達も、「資産の保有目的の変更」を認めることが「時価会計の緩和」であり、「公認された粉飾決算」であることは、否定しないでしょう。このような公認された粉飾決算としての「時価会計の緩和」については、「適用期間は2010年3月31日までとする。」と期間限定した上で(注2)
、平成20年12月5日に公表された企業会計基準委員会の実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」があります。これによりますと、「想定し得なかった市場環境の著しい変化によって流動性が極端に低下したことなどから、保有する債券を公正な評価額である時価で売却することが困難な期間が相当程度生じているような稀な場合(注3)
」においては、「企業がもはや時価の変動により利益を得ることを目的としないことを明らかにし、かつ、満期保有目的の債券の定義および要件を満たしたうえで、該当する債券の保有目的区分を変更したときは、金融商品実務指針の定めにかかわらず、当面の間、売買目的有価証券から満期保有目的の債券への振替ができることとする。(注4)
」とされています。なお、「本実務対応報告は、第167回企業会計基準委員会に出席した委員14名のうち12名の賛成により承認された。(注5)
」とのことです。
脚注
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注1 |
実務対応報告第25号「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」の「適用時期等」の箇所で、「本実務対応報告は、現行の会計基準等を踏まえた上の取扱いを確認するものである。」と述べて、あくまでも「現行の時価会計の枠内の対応」であることを強調しています。
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注2 |
実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」の「適用時期等」の箇所で、「本実務対応報告は、当面の間、認められることとされた会計処理であることから、本実務対応報告公表日から平成22年3月31日までの適用とする。その後の保有目的区分の変更の取扱いについては、改めて検討することとする。」と述べて、あくまでも「当面の取扱い」であることを強調しています。
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注3 |
実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」第5項。
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注4 |
実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」第9項。
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注5 |
実務対応報告第26号「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」第20項。
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