大塚正民の考古学と考古学の広場

 第41回 国際法務その7: 租税法その1−所得税法

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

3番目に取り上げるのは「租税法」です。「租税法」の「国際的側面」に焦点を当てる場合(注1)、例によって、その「国際的側面」を、便宜上、次のように2種類に区別します。

国際的側面の種類 英語訳 その特色
1.対内的取引(活動) Inbound Transactions (Activities) 外国人または外国法人の日本での取引(活動)に対する「日本法」の適用
2.対外的取引(活動) Outbound Transactions (Activities) 日本人または日本法人の外国での取引(活動)に対する「日本法」の適用

たとえば、個人の所得税に関する法律である所得税法(注2)を見てみましょう。対内的取引(活動)、つまり、外国人(注3)の日本での取引(活動)、に対しては、所得税法第5条第2項が、外国人は〔日本の〕国内源泉所得(注4)を有する場合には〔日本の〕所得税を納める義務がある、と規定しています。これは、日本人(注5)であれば「世界中の所得」が課税対象になるのですが、外国人であれば「日本で生じた所得」だけが課税対象となる、という原則を規定したものです。対外的取引(活動)、つまり、日本人の外国での取引(活動)、対しては、所得税法第95条第1項が、日本人が外国所得税を納付する場合には、その外国所得税の額を〔日本の〕所得税の額から控除する、と規定しています。これは、日本人であれば「世界中の所得」が課税対象になるのですが、もし「外国で納付する所得税」があれば日本の所得税から差し引く、という「外国税額控除」を規定したものです。これまで何回か述べたことの繰り返しになりますが、「日本法」の「国際的側面」を「対内的取引(活動)」と「対外的取引(活動)」の2種類に区別することには、次のような理由があります。この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際に必要な法律の半分だけしか取扱っていないのです。たとえば、日本で活動するアメリカ人の所得税(income tax)については、まず「アメリカの所得税法(注6)」の適用があることは当然ですが、所得税法第5 条第1項が規定する「対内的取引(活動)に関する日本の所得税法」の適用があります。同じように、たとえば、アメリカで活動する日本人の所得税については、まず「日本の所得税法」の適用があることは当然ですが、「対内的取引(活動)に関するアメリカの所得税法」の適用があります。つまり、この「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「日本法」だけですから、実際には、もう半分である相手国の法律(たとえばアメリカの国内法)を必ず検討する必要があることを忘れないで下さい。
 

脚注
 
注1 「日本法」の「国際的側面」に焦点を当てる前提として、「日本法」の「国内的側面」の理解が必要な場合があります。たとえば「所得税法」の「国際的側面」に直接に関係するのは、「第一編 総則」と「第三編 非居住者および外国法人の納税義務」ですが、「所得税法」の「国内的側面」として、「第四編 源泉徴収」の理解が不可欠です。
 
注2 個人の所得税に関する法律は「所得税法」ですが、「所得税法」は「個人の所得税」だけではなく、「法人の所得税」も規定しています。ただし、「法人の所得税」の中核的法律は「法人税法」です。つまり、法人の所得税に関する法律は「法人税法」と「所得税法」なのです。
 
注3 説明を簡単にするために、「外国人」と「日本人」という用語にしていますが、「所得税法」の場合、正確には、「非居住者」と「居住者」という用語になります。つまり、「国籍」に関係なく、「日本人」でも日本に居住していなければ「非居住者」であり、「外国人」でも日本に居住していれば「居住者」です。
 
注4 〔日本の〕国内源泉所得とは、要するに「日本で生じた所得」のことです。所得税法第161条が14種類の「国内源泉所得」を規定しています。ただし、所得税法第162条は、「租税条約」に「所得税法」とは「異なった定め」がある場合には「租税条約の定めを優先する」と規定しています。たとえば、所得税法第161条第7号は、「使用料」の源泉地の決定にいわゆる使用地主義を規定していますが、日本・スイス租税条約では、「使用料」の源泉地の決定にいわゆる債務者主義を規定しています。
 
注5 上記注2で述べましたように、正確には、「日本人」ではなく「居住者」という用語になります。
 
注6 「アメリカの所得税法」とは、The Internal Revenue Code(米国内国歳入法典)を指します。
 
   

 

 


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