第2回 『 片岡 秀太郎の右脳インタビュー 』
     2006年1月1日

株式会社 オデッセイ コミュニケーションズ 
代表取締役 社長 出張 勝也さん                  

 

 

出張 勝也氏 プロフィール

株式会社 オデッセイ コミュニケーションズ 
代表取締役 社長
 

1959年 高知県生まれ
1976年 愛媛県立南宇和高校在学中に、1年間アメリカ・アイオワ州にAFS留学
1984年 一橋大学法学部卒、ブーズ・アレン・ハミルトン入社
1987年 ハーバード大学経営学大学院卒(MBA)、バンカーズ・トラスト銀行入社
1996年 株式会社 オデッセイ コミュニケーションズを設立、代表取締役 社長に就任。


 

片岡:

第2回の右脳インタビューは、株式会社 オデッセイ コミュニケーションズ、代表取締役 社長の出張勝也さんです。本日は有難うございます。先ずはお好きなものなどお聞かせいただきたいと思います。 
 

出張

今は自転車に凝っています。それに犬も大好きでカイとクウという2匹の甲斐犬注1と暮らしていますので、朝は犬の散歩と自転車で始まり、とても早起きをしています。片岡さんのお好きなヨットにも挑戦したことがあります。こちらは雨の中ということもあって、最初の印象は大変でした。仕事面では第一印象に恵まれており、ブーズ・アレン・ハミルトン注2やバンカーズ・トラストでは、初めから刺激的なプロジェクトに参加する機会に恵まれました。その様な体験もあって、会社を経営して行く上では機会の平等を心がけています。例えば燻っている社員がいるとすると、先ず活躍する場を提供できたのだろうかと考えます。経営的に言っても社員の能力を十分に引出さないともったいないわけです。
 

片岡:

御社の場合、女性社員の割合がかなり高いように思いますが、そのようなご方針と関係があるのでしょうか?
 

出張

男性の多くは大企業を志向していますので、優秀な社員に来てもらおうと思うと自然と女性が多くなり、現在では7割が女性です。育児休暇制度などの充実もその延長線上で、よい人材がやめていくという損失を抑えるためには必要なことだと思っています。弊社では育児休暇制度を取る女性が年間1,2名おり、今年は男性でしかも中心メンバーが育児休暇制度を取ります注3。勿論、その穴を埋めるための社員を確保するわけですから成長を続けて帰ってきた時の仕事量を確保しておく必要があります。それがあって初めて成り立つことで、社員にはいつもそういっています。
 

片岡:

次に起業された切欠をお教え下さい。
 

出張

私の場合は、はじめから起業を目指していたわけでもなく、また起業するしかないという状況に追い込まれていたわけでもありません。TOEIC注4の創設者の故北岡靖男氏との出会いがあって起業し、最初の事務所も同氏の事務所内に置かせていただきました。そして当時、知人がMicrosoft社関連の仕事をしていた縁で、Microsoft Officeを対象とした資格の日本プロジェクトをやらせていただいたのが当社の事業の始まりです。
それに元々、私自身日本の会社の社風に馴染まなかったこともありますが、かといって日本に進出してきたばかりの外資はある意味で規範が確立されていません。現地法人のTOPに依存する面が多くて、伝統やルールといったものがなく、また終身雇用というわけでもないので安定感を感じませんでした。短期的な利益を追求する会社ではどうしても背骨と言うものがない気がします。結局、自分にあった会社は作るのが一番いいわけです。そして元来自由に生きたいという思いが強かったのですが、そのためにも経済的な基盤が必要でした。
 

片岡:

そのような感性は、いつ頃からお持ちだったのでしょうか?
 

出張

小学5年生の時、大阪万博があり、また当事、ベトナム戦争やアポロの月面着陸などもあって大変影響を受けました。そういったこともあり、中学時代は英語少年で、高校の時には米国にAFS留学注5をしました。その影響や読書などを通して日本的な上下関係のあり方に窮屈な思いを持つようになったものと思います。大学時代は一種のモラトリアムで世界中を旅して回り、何かあれば地元に戻ればいいと考えてました。そのような感じでしたので就職活動も行ないませんでしたが、たまたまブーズ・アレン・ハミルトンに加わることが出来ました。同社は立上げ時期で、はじめから回りは外国人ばかりの非常にフランクな環境でした。米国人のスタッフはそのほとんどがハーバード・ビジネス・スクール注6やMIT注7などのTOP5に入るようなMBAで、自然とトップレベルの学校でのMBA取得の必要性を感じハーバードへ留学しました。
 

片岡:

お話をお伺いしているとスタンフォード大学注8などの西海岸注9的な開放感も似合うように思いますが、どうして東海岸注10を目指されたのですか?
 

出張

兎に角旅が好きで、休みのたびにヨーロッパに行っていました。だからボストンの方がヨーロッパに近いと言う理由で選んだようなものです。特に南欧はたまらなく好きで、スペインはほとんどの地を訪れました。
 

片岡:

なぜ南欧なのでしょうか? 
 

出張

文学の影響もあります。ドン・キホーテ注11は特に好きで、夢を追い続ける生き方が本当に素晴しく描かれていると思います。
 

片岡:

御社の名前もやはり文学にご関係があるのでしょうか?
 

出張

1985年にハーバード大学に入る前に2ヶ月ほど自由な時間があり、コーネル大学注12に行きました。イサカ注13にあるのですが、そこは本当に美しいところでした。人生最良の時だったと思っています。その地の名前は、ホメロス注14のオッデセイ注15にも出てきます。イサカという社名も考えましたが、どうもオデッセイの方がいい響きでしたね。それにオデッセイには旅と言う意味もあります。まさに私の大好きなものです。
 

片岡:

最後に、現在は起業家としてご活躍されている訳ですが、前職の投資銀行やコンサルタント、その他弁護士などといった専門家をどのようにお考えかお教え下さい。
 

出張

クロスボーダーの案件となると特に専門家が必要になってくるわけですが、そのような場合も、彼らへの丸投げするのではなく、基本的にはアドバイサーだと思っています。そもそも投資銀行には投資銀行の、弁護士には弁護士のエゴがあります。例えば投資銀行はできるだけ大きなディールを手がけることが利益に繋がりますが、クライアントにとっては必ずしもそうではありません。だから彼らを利用する場合は、「人間的に信頼が置ける相手なのか」、「これまでにその分野でどれだけの件数をこなしているのか」、「本当にクライアントの利益に尽すか」といったことをしっかり見極める必要があります。勿論、フィーの払い方にも気を配り、我々の目的と彼らの利益が出来るだけ一致するように心がけます。また長期的な関係を築くということは、我々の目的に対して、ある意味で彼らの利害の一致を担保するものですから、出来るだけそのような関係を作っていきたいと思っています。結局、彼等はクライアントのレベルに応じたアドバイスをするわけで、クライアントも専門家も共に目利きが必要だと思っています。
 

片岡:

有難うございました。
 

−完−

 

インタビュー後記

株式会社 オデッセイ コミュニケーションズは、「Microsoft Office Specialist」という一企業の商品であるマイクロソフトのオフィス製品を対象とした資格試験を、英語試験のTOEICを上回る速度で普及させ、僅か数年間で100万人の受験生を輩出しています。資格を重要視する国民性や全国に広がるPCスクールや専門学校群といった日本的な特性を巧みに活かしながら新市場を一気に作り上げた手腕は、マイクロソフト社の本拠地であるアメリカは勿論、世界中でも突出した成功です。ハーバードMBAや投資銀行出身のやり手起業家というイメージが強い出張さんですが、とても穏やかで静かな語り口です。そして幅広い人脈と情報力に支えられた大きな視点から自由に活躍の場を選び掴み取る奔放な挑戦心と文学や旅を愛するロマンチストな一面が印象的でした。

  

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

甲斐犬は、山梨県原産のイヌの品種で、虎毛を特徴とするため、「甲斐虎」の別名をもち、「生きた天然記念物」に指定されている。クマ、イノシシ、シカなどを追う山犬の血統で気性が荒く高い運動能力を持ち、狩猟犬として飼われていた。また主以外の人間には心を開かず、忠誠をつくすことから一代一主の犬とも評されている。
 

注2 

Booz Allen Hamilton (Japan) Inc. 世界最大級のコンサルティング・ファーム。
 

注3 

日本では、女性の育児休暇取得率は1999年に56.4%だったのが2002年には64.0%へと増加しているのに対して、男性の取得率は0.42%から0.33%に減少している。一方、支援制度の充実したノルウェーでは、母親の出産休暇明けに父親だけが取得できるパパ・クオータ制が設けられており、取得率は9割に達している。
 

注4

TOEIC :Test of English for International Communication  TIME社の故北岡靖男氏が考案。Educational Testing Service(ETS)との提携後、全国の教育機関や語学教材会社等を巻き込み急成長を遂げた。現在は世界約60ヶ国で年間約340万人が受験しており、その内の約9割が日本と韓国に集中している。TOEICは2003年度末までに累計で1,170万人以上が受験しており、年間約2,200の企業・団体・学校でも利用されている。昨今は、EUの拡大に伴って、フランスや東欧での普及も進みつつある。
 

注5 

AFSは第一次世界大戦中の1914年に傷病兵の救護輸送に携わったボランティア活動American Ambulance(Service)に端を発する(1917年American Field Serviceに改名)。1946年、AFS国際奨学金制度(AFS International Scholarships)が設立され、翌1947年、交換留学制度をスタートした。現在は、高校生の交換留学を主な活動としている民間国際教育交流団体として国際本部をニューヨークに置き、世界中で活動する数多くのボランティアの支援のもとで異文化教育交流を行っている。AFSの加盟国は50か国以上、交流国は約80か国に及び、毎年約11,000人以上の交換留学を実施している。
 

注6 

Harvard Business School 1908年創立 マサチューセッツ州ボストン ケーススタディー方式が有名な世界最高峰のビジネス・スクールの一つで、世界中のビジネスエリートたちが集る。経営者養成に主眼を置いた教育に力をいれており、学生に最も要求するものは最高の経営潜在能力で、具体的には、知的能力、経営潜在能力、個性等をあげている。数百に及ぶケーススタディーや強制的なクラス討議により経営者としての意思決定の仕方を身につける。年間授業料 US$37,500
 

注7 

Massachusetts Institute of Technology 1861年創立 マサチューセッツ州ケンブリッジ 著名な自然科学者である、ウィリアム・ロジャーバートンによって、1861年設立憲章が起草された。理工系大学の最高峰の一つで、シリコンバレーなどと並ぶ先端技術産業の集積地であるボストンのルート128地域において中核的な役割を果たしている。これまでに物理学、化学の分野で35人、経済学の分野で12名、合計57人のノーベル賞受賞者を輩出している。年間授業料【学部】はUS$ 30,800。
 

注8 

Stanford University(正式名称:Leland Stanford Junior University)1889年創立 カリフォルニア州パロアルト 米国西海岸屈指の名門校としてその名を世界にとどろかせ、東海岸の三大名門校、ハーバード大学、エール大学(イェール大学)、プリンストン大学と並びしばしばBIG4と称される。当時のカリフォルニア州知事で、大陸横断鉄道の一つセントラルパシフィック鉄道の創立者でもあるリーランド・スタンフォードが、早逝した彼の子息であるスタンフォードJr.の名を残すために、夫人とともに創設。年間授業料【学部】 US$ 29,847 
 

注9 

米国西海岸には、スタンフォード大学の他、カリフォルニア工科大学、UCLA、カリフォルニア大学バークレー校などの名門校がある。

カリフォルニア工科大学 (California Institute of Technology)  1891年創立 カリフォルニア州パサデナ 理工系大学の最高峰のひとつで、学生の半数以上を院生が占める研究型大学。年間授業料【学部】 US$ 25,335

UCLA (University of California, Los Angeles)  1919年設立  カリフォルニア州ロサンゼルス。UCLAの通称で知られ、幅広い研究分野を有する州立総合大学で三万人を超す学生たちが学ぶ、巨大大学である。またフランシス・コッポラ監督、俳優のティム・ロビンスなどを輩出するなどエンターティンメント分野でも高い評価を得ている。年間授業料【学部】 US$ 16,956

カリフォルニア大学バークレー校(University of California,Berkeley、UCB) 1868年設立 カリフォルニア州バークレー。全米屈指の教育レベルと研究実績を誇る公立大学の雄。フリー・スピーチ・ムーブメントの発祥の地としても著名で、その気質はリベラルな校風として今も息づいている。年間授業料【学部】 US$ 16476 【院】 US$ 11,630
 

注10 

アイヴィー・リーグと呼ばれる伝統ある名門校やMIT等世界最高水準の大学が数多く集まる。アイヴィー・リーグの語源は「大学代表チーム同士の」という意味で「INTER-VARSITY」、それを略して「I-V-Y」と呼びあっていたものを、1930年代にニューヨークの新聞記者が「IVY」と表記して報道したことでアイヴィー・リーグという呼称が定着した。

アイヴィー・リーグの8大学
ハーバード大学 (Harvard University) 1636年創立 マサチューセッツ州ケンブリッジ アメリカ最古の私立大学で7人のアメリカ合衆国大統領を輩出する全米屈指の名門大学であり、またノーベル賞受賞者を多数輩出するなど世界トップの研究機関のひとつでもある。約3兆円弱という巨額の大学基金を運用している。その額は全米2位イェール大学の2倍近い。年間の寄付金は、約800億円。授業料【学部】 US$ 27,448

イェール大学 (Yale University) 1701年創立 コネチカット州ニューヘイブン2004年大統領選の主要候補6名の内、4名がイェール大学出身。ハーバード大学が「学問研究の中枢」として語られる事に対し、イェール大学は「国家権力の中枢」として語られる事が多い。年間授業料【学部】 US$ 29,820

ペンシルバニア大学 (University of Pennsylvania) 1740年創立 ベンジャミン・フランクリンが、建国の地フィラデルフィアに開設した大学。世界初の経営大学院として誕生した The Wharton School は全米屈指のビジネススクールとして、世界的に知られる。年間授業料【学部】US$ 27,544

プリンストン大学 (Princeton University) 1746年創立 ニュージャージー州プリンストン 学生の教育と最先端研究との両立を成功させている数少ない大学といわれている。特に物理・数学の研究では世界トップレベル。物理学賞を中心に数多くのノーベル賞受賞者を輩出している。年間授業料【学部】US$ 29,910

コロンビア大学 (Columbia University) 1754年創立 ニューヨーク市マンハッタン イギリス(グレートブリテン王国)のジョージ2世の許可によりアメリカで5番目の大学として創立された。年間授業料【学部】US$ 31,472 【院】 US$ 32,346

ブラウン大学 (Brown University) 1764年創立 ロードアイランド州プロヴィデンス 他のアイヴィー・リーグ大学と対照的に、純粋な学問と研究の場を提供することを目標とする為、設立以来ビジネス・スクールやロー・スクールなどを設けることをひたすら拒否し続けている。年間授業料【学部】US$ 31,573【院】 US$ 30,672

ダートマス大学 (Dartmouth College) 1769年創立 ニューハンプシャー州ハノーヴァー 名門校だが小規模な大学で、現在でもuniversityではなく、collegeと名乗っている。年間授業料【学部】US$ 30,527

コーネル大学 (Cornell University)、1865年ニューヨーク州、イサカ 年間授業料【学部】 US$ 30,000【院】US$ 30,000 注12参照 
 

注11 

原題:El ingenioso hidalgo Don Quijote de la Mancha スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ(Miguel de Cervantes Saavedra, 1547-1616年)の長編小説。第一部1605年刊、第二部1615年刊。騎士道の妄想につかれたドン・キホーテと従者サンチョ・パンサが旅先で巻き起こす失敗や冒険のなかに、理想と現実との相克などのテーマを織り込んだ、近代文学の先駆的作品。尚、作者のセルバンテスは、下級貴族の家の次男として生まれた。レパントの海戦(1571年)において負傷、左腕の自由を失い、その後バーバリ海賊の捕虜となり5年間の虜囚生活を送る。無敵艦隊の食料調達係を経て、徴税吏となるものの税金を預けておいた銀行が破産、負債を負い1597年に横領の罪で投獄される。その後1605年に『ドン・キホーテ』を発表。同年だけでも6版を数え、1612年には英訳、1614年に仏訳が出版されるなど作品の成功にもかかわらず、版権を売り渡していたため生活は改善しなかった。その後も創作活動を続け、『模範小説集』(1613年)、『ドン・キホーテ 第二部』(1615年)などの作品を発表した。
 

注12

Cornell University ニューヨーク州 イサカ アイヴィー・リーグと言われるアメリカ合衆国北東部にある名門大学の一つで世界でも珍しい半官半民の大学の一つであり、物理工学、ナノテクノロジー、生命科学、ホテル経営学、農学などは特に高い評価を得ている。 又、コンピュータ科学の分野でも著名。
 

注13 

Ithaca Cayuga Lakeに面した森と川と滝に囲まれた人口3万人の美しい町。郊外にはワイナリーが点在し、爽やかなワインを楽しむことも出来る。アメリカ東部でも特に知識人の集まるリベラルな土地柄で、環境保護都市としても有名で、1991年より発行されている地域通貨イサカ・アワーズは500社近い地元企業によって導入されている。
 

注14 

Homeros 紀元前8世紀後半頃の古代ギリシアの伝説的な詩人。『イリアス』と『オデッセイ』の二大英雄叙事詩の他に、『キュプリア』『アイティオピス』『小イリアス』『イーリオスの陥落』『帰国物語』『テーレゴニアー』等がホメロスの作品と言われている(異論もある)。
 

注15  ODYSSEY  『イリアス』と並び、伝説的な詩人ホメロスの作とされる古代ギリシアの叙事詩である。『イリアス』の後編にあたり、トロイア戦争の後、イサカ島の王である英雄オデッセウスが各地を放浪して行った貴種流離譚の冒険、および、オデッセウスの息子テレマコスが父を探す探索の旅を歌う。

 


片岡秀太郎の右脳インタビュー

 


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