第28回  『 右脳インタビュー 』        
2008年3月1日

 Mariyon Robertson さん Colliers ABR/Colliers International 副会長 
 
 

プロフィール
 
1951年東京生まれ。Colliers ABR/Colliers International
(1) 副会長。Babson Collegeで学ぶ。CB Richard Ellis Real Estate Services でExecutive Managing Directorを務めた後、現職。また現在、オリックス・バッファローズのエグゼクティブ・アドバイザー等も兼務。


主な著書・関連書籍
『甦れ、愛しの日本野球』 マリヨン・ロバートソン著
ファーストプレス 2007年
『なぜ「思い込み」から抜け出せないのか 視点を変えると見えてくる!』
マリヨン・ロバートソン著 ファーストプレス 2006年

 

片岡:

第28回の右脳インタビューは、Mariyon Robertson(マリヨン・ロバートソン)さんです。本日は、ご多忙の中、有難うございます。それではご足跡などお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
 

MR

私は東京生まれなんですよ。もともと母方はオランダの外交官で戦前から日本にいて、戦時中は軽井沢に幽閉されたりしたこともあったそうです。戦後、母がGHQで翻訳の仕事をしている時に、米政府の技術系の外交官として来日した父と出会いました。父はアジア地区担当でしたので各国を回っていて、それに伴って、私は日本では地元の学校に、他の国ではインターナショナル・スクールに通いました。日本の学校に通ったのは、日本人の数学の能力に驚いた父の勧めがあったからです。その後、大学では文化人類学を専攻し、卒論は『日本人は世界最初の混血民族』、ルーツをたどるとアメリカン・インディアンに辿り着くというのが持論です。ただ人類学では食べていけません。ガルフ石油に勤めていた叔父を頼り、カリフォルニアで職を得てマーケティングやストラテジーを担当しながら、夜間、USC(University of Southern California)(2)でインターナショナル・マーケティングを学びました。そうした時にアジア各地で日本の商社の国際商法の凄さを目の当たりにし、早速、来日、京都大学で研修生として学び、その後、米東海岸のBabson College(3)を経て、New Yorkで不動産の仕事に就きました。
 

片岡:

野球については如何でしょうか。ご著書の『甦れ、愛しの日本野球』を拝読しましたが、大変な野球ファンで、別荘にメジャーリーグ規格の球場を作った程だとか…。
 

MR

野球は小さい頃からクラブチームでやっていて、カリフォルニアの時にはマイナーリーグ(ウィクーエンド・リーグ)にも所属していました。仕事に、勉強に、野球でした。球団からの給与は1日8ドルでしたが、今でも一番価値あるお金だったと思います。まだ当時弱小チームだったメッツなら入れるだろうとメジャーを夢見て…。肩を壊したこともありますが、結局、プロになる人とは紙一重の、努力しても越えられない壁を感じ、それで仕事の道を選びました。ところで、あの本はかなりトーンダウンして書いたのですよ。敵を作るのは簡単ですが、毒舌では説得力がなくなります。寧ろ愛情を示し、ユーモアーがあるうちに終わりたいと思っています。オーディエンスは頭が良く、自分で考える道を残した方がいい。ビジネスも同じで、必ず隙間を残します。例えば、質問される前に相手の意見を聞くようにしています。質問するということは既に何らかの答えを持っているはずです。そしてそれは、私にはない新しいアイデアかもしれない。みんなそれぞれ違う形で生きていますし、ハーバード大やコロンビア大、東大を出ている人がゴロゴロいますから利用しない手はありません。これが持論で、OPE(Other People’s Effort=他人の努力を利用する)です。またOPM(Other People’s Money=他人のお金で事業をする)というのも持論の一つです。
 

片岡:

日本企業の場合、実践するとなるとなかなか…。
 

MR

日本人は真面目に取り組み過ぎです。何かプロジェクトがあると、まず自分の手で自分の傘下にプロジェクトチーム作ります。例えば、モスクワに非常に大きなビルを5,6本作るという開発案件があります。日本企業は、自社の社員を派遣してスタディをさせ、その後、ロシア語のできる人を雇って…。チーム編成だけでも一大プロジェクトです。これはOPE,OPMではありません。地元にも不動産のサービス会社があり、彼らは地元政府と頻繁に接触、そして何が必要なのか、日々、スタディをしています。こうしたことは外部の者がパッと行っただけで分かるものではありません。それにプロジェクトの出口の部分では、結局、地元のエージェントを使います。それならば、初めから彼らに『貴方たちならばどうしますか…』とサジェッションを貰い、その後でエージェントとしてのプロポーサルを依頼すればいい。Blood-sucking、血=アイデアを先に吸い上げてしまいます。こうすればスタディをする時間も、人を養成する時間も要りませんから、3日もあればプロセスを終えることができます。
 

片岡:

全く異質のスピード感ですね。
 

MR

これが資本主義の仕組みで、モダン経済のダイナミズムだと思います。残念ながら日本企業は、自分たちで抱え込むので、こういったリズムについて行けません。逆に今の中国の成功はここにあります。コピーして、作って、逃げる…。これは早い。だから儲かります。彼らは彼らで『紙や火薬の発明で特許料を貰ったことはない』といいますが…。とにかく一番大切なことはOPE,OPMというのが相手のアドバンテージを取るのではなく、良い意味でお互いに利用し合うということです。例えば、誰かがスタディをしてくれたら、それを総合的に判断して新しいアイデアを出します。Give and Takeです。お金がある人たちはアイデアがないから投資をし、アイデアや努力を買おうとする。努力をしている人はお金が欲しい。
 

片岡:

M&Aもそうですね。
 

MR

米の不動産業界は特にM&Aが盛んです。大手のクライアントからアウトソース業務を受託しようと思うと、オーケストラと同じで、all-in-oneのサービスが求められます。2,3人の小さな会社はいわばソロの専門職、柔軟で入り込む余地もあるのですが、上下を挟まれた中小企業では生き残れません。このため生存をかけてM&Aを繰り返してきました。またCB Richard Ellis(4)はNew Yorkだけでも300本近いビルを管理していましたので、電力の買付けの専門部署を設置し、地下鉄の余剰電力等を購入し、何億円もの利益に繋がりました。尤も、日本人は独禁法にあまりにも無関心で、誰も電力会社を突っつかないから、規制緩和も進んでいませんが。
 

片岡: 日本のM&Aについてはどうお感じですか。
 

MR

本来、M&Aのベネフィットは1+1を3にすることですが、日本企業は正攻法にこだわり過ぎて、コストがかかる割にベネフィットが少ない。例えば、人員整理を極端に避け、人を減らすなら10年かける、その上、完全に、というところまでいきません。先日の銀行の合併では人も資産も1+1のままで利益も変わりません。駅前の店舗がダブり、一方を閉めることが必要なのに人は減らさない…。統合では必ず不動産を凍結し処理したり、コンピューターのデータを統合したり、一時的に膨大なメインテナンスの作業が必要で、大変なコストが発生します。公的資金も必要なわけです。
 

片岡:

その点、米国のM&Aはアグレッシブな手法も用いますね。
 

MR

米国のように多様な民族がいれば、思想の違いも大きく、また社会の歪みが人種間に凝縮されています。例えば、M&Aに伴う合理化で人員整理を行うときには、そうした暗部をコントロールし、リーガルの世界に持ち込むことが必要です。このためFBIやCIAの出身者を積極的に活用することがあります。潤滑油のようなものです。ただ外国でのM&Aとなると、国によっては人員整理そのものが社会悪と見做されることもありますし、こうした人たちの活用も難しい。CB Richard Ellisのような多国籍企業では、どうも効率が悪かった…。ところで、私がアドバイザーを務めている大阪市は人口280万人、そこに24の区があり、4万人の市の職員がいます。70人に1人が市の職員というのは明らかに過剰ですし、また東京よりも多い24区が本当に必要かという議論もなされません。区を合併すれば、整理した区庁舎等を売却できてキャッシュも入るし、市議会議員や職員を減らすこともできます。しかしこれはタブーです。
 

片岡:

米国であればPR会社などを駆使して世論を動かし、実現させますね。
 

MR

そういうキャンペーンを打ち、リーダーが引っ張っていけばいいのに、大阪ではすべて調整です。無駄を持ち寄って、転がしている。また大阪市にはいわゆる『逆』学歴詐称の問題があります。大卒や短大卒なのに高卒として入ってきた人が1200人程います。神戸、福岡や東京にも同じ問題があり、本来の高卒の職業機会を奪い、更にover qualificationの非効率さもあります。そうまでしてでも入りたくなる地方自治体は、一部上場の極め付けです。株価もなく、営業努力をしなくてもお金(税金)が入る…。ところでNew Yorkにあって、東京にないものをご存知でしょうか。24時間サービスです。私のように国際ビジネスをしているものにとって、日本の真夜中はゴールデンタイムです。しかし24時間の都市機能がありません。大阪は、東京ではなく、日本初の国際都市を目指せばいい。大阪市ならば地理的にもコンパクトでインフラもあり、容易に実現可能です。また更に、行政サービスを16時間に延長するのもいい。そう提言しています。合理化に合わせて、こうした新しい仕事を創出することで余剰人員も吸収できます。通常、M&Aを行うときは合理化だけでなく、このようなプラスアルファの仕事の創出を見越して行います。不動産でいえば、一つの部屋を複数で使うバーチャルオフィス(5)の成功が良い例です。これがないのも日本のM&Aの抱える問題です。
 

片岡:

貴重なお話を有難うございました。
 

 

(敬称略)

−完−

 

インタビュー後記

インタビューの終りに、New Yorkでお勧めの寿司屋さんを紹介して戴きました。何といっても『寿司安
(6)』だそうです。寿司安は、元は築地の『寿司清(7)』のNew York支店でしたが、今は『Tse Yang(8)』という中国料理店が、職人をそのまま引き継ぎ、経営しています。ですから今でも日本の庶民的な寿司屋で肩肘張らずに毎日通え、本物の寿司が楽しめるそうです。その上、Robertsonさんのオフィスは隣だと嬉しそうでした。New York因みに、日本でのお勧めは銀座の『すし 椿』(9)だそうです。Robertsonさんらしい選択です。

  

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

Colliers International
世界6大陸、57カ国に267のオフィスを持つ。独立した不動産サービス企業によるグループ
http://www.colliers.com/Corporate/
Colliers ABR
1978年創立のニューヨークの不動産会社
http://www.colliers.com/Markets/NewYork/
 

注2 

University of Southern California
については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/南カリフォルニア大学
 

注3 

Babson Collegeについては下記をご参照下さい。
http://kigyouka2008.com/bab.html
http://www3.babson.edu/
 

注4 

CB Richard Ellis(本社:米国ロサンゼルス)は、世界58カ国300拠点以上に展開するグローバルなネットワークを基盤とした世界最大の不動産サービス企業
http://www.cbre.co.jp/japan/cbrekk.html 

注5 

バーチャルオフィスについては下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/バーチャルオフィス
 

注6 

寿司安
http://www.sushiann.com/
38 East 51 Street, New York, NY 10022
Tel: 212-755-1780
 

注7 

築地の寿司清
http://www.tsukijisushisay.co.jp/index.html
 

注8 

Tse Yang Restaurant
http://www.tseyangnyc.com/
 

注9 

すし 椿
http://www.walkerplus.com/otona/gourmet/20060126kanbanzushi/18.html
 

   
   
   
   
   
   


(敬称略)

 


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