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プロフィール
1949年、埼玉県生まれ。東京・新宿「松栄鮨」で修業した後、ペルー、アルゼンチン、アラスカでのレストランの経験を経て、1987年、ビバリーヒルズに「Matsuhisa」を開店。その後、ニューヨーク、ロンドン、東京など世界各地に出店。特に、「Nobu
New
York」は、トム・クルーズ、スピルバーグ、ジョルジオ・アルマーニ、レオナルド・ディカプリオ、マドンナら、多くの著名人が来店する店として知られる。
全米ベストシェフ10人(Food & Wine紙)や全米「味」部門1位(Zagat
Survey)、NOBU
Londonのミシュラン一つ星獲得と数々のレーティングで評価され、2005年には「TIME」紙の“Asia’s
Heroes” に選ばれる。
主な著書
和のフィンガーフード-nobu style 松久信幸著, 東郷健一郎著 柴田書店
(2006)
NOBU:ザ・クックブック 松久信幸著, 講談社インターナショナル (2003)
nobu 松久信幸著 柴田書店 (2004)
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片岡:
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今月の右脳インタビューは、Nobu
Matsuhisa(松久信幸)さん(注1)です。それではビバリーヒルズの店の話などお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
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NM:
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当時、ロサンゼルス(LA)の寿司屋に勤めていましたが、そこが閉店することになった時にペルー時代の知人が数万ドルを貸してくれ、それを資本金に38席の小さな店(Matsuhisa)をオープンしました(1987年)。長年勤めていて馴染みの客も付いていましたし、幸い以前の店の近くに出すことができましたが、それでも最初の2年間はプラスマイナスゼロ。職人ですから自分の好きなものを買います。そうするとフードコストが高くなり、家賃や給与を払うと利益は出ませんでしたが、自分にとっては嬉しい結果です。子供みたいというか、毎日、店をやっていること自体が楽しくて…。
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片岡:
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日本人客も多かったのでしょうか。
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NM:
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一割程度だった思いますが、特にターゲットにしたことはありません。僕の料理は日本の寿司屋での修業がベースで、ペルー、アルゼンチン、アラスカ…と世界で出会った食材や食文化の中で面白いと思ったものをプラスアルファしていくというのがスタイルになっています。どんな職業でもそうですが『勘』が大切です。それを磨くのは自分自身で、お客さんが何を求め、それをどうキャッチするか、アンテナを張りながら仕事をしている人間は前に進みます。言われたことをやるだけではなく、何かオフェンスをしていく。気持ち的にお客さんに入っていきます。言葉とか余計なものではなく、如何にお客さんに気を使うことができるかどうかが分かれ道だと思います。
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片岡:
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米国人の寿司に対するイメージはどのようなものだったのでしょうか。
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NM:
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30年前は冷凍ものが多く、寧ろそれを食べることが最先端でした。たまたまブームや時代に乗ったこともありますが、店をオープンした時に日本の魚屋さんと組んで日本から生の魚を、そして10年前にはクロマグロを入れて成功し、軌道に乗りました。それまで食べたことのない味ですから、逆に『この魚はフレッシュでない』という方もいましたが、一つ一つ説明をしてきました。そのうち、良いもの悪いもの、鮮度の違いが分かってもらえるようになり、珍しいもの新鮮なものが食べられると口コミで広がり、新聞や雑誌にも取り上げられるようになりました。メディアは怖い面もあって、期待に応えられないとマイナスです。そのためにも日々、クオリティーを高めていくことが必要です。
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片岡:
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大手チェーン店の中には、味は、ある程度のレベルに達してきているところもありますね。
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NM:
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レシピはそうです。あとは、それをどういうふうに出すのかが大切で、タイミング、量的なもの、厚さ薄さ…とかあります。さらに生きた魚と絞めて1、2日経ったものでは、歯ごたえが違ってきます。すべてケースバイケース、魚によって切り方を変えるぐらいの気を遣える人間かどうかが大切になります。幸いNOBUには従来の料理のスタイルと違うというイメージがありますから、勉強してみたいという人間が集まってくれます。そうすると、『ちょっと違った感性をもっているな』という人が出てくるので、そういう人にチャンスを与えます。
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片岡:
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ニューヨーク(NY)や東京に比べるとビバリーヒルズの店は雰囲気が違いますね。
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NM:
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Matsuhisaは僕の原点です。LAにいれば毎日出ていますし、僕がいなければ、妻がいます。ファミリーという言い方が良いと思いますが、一人(従業員)が問題を起こしても、助け合うのが家族で、そういうことができるのがMatsuhisaだと思います。NYの店も、当初は同じでした。15年目になり、悪くなっているわけではないですが、規模が大きいので、組織化、システム化している部分があります。それも良いことかもしれませんが、僕にとっては、進歩がないような気もします。
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片岡: |
NY出店にはレストランの専門家も加わったとか。
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NM:
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ディベロッパーです。NYの店は僕の他に、Robert de
Niro(ロバート・デ・ニーロ、俳優)(注2)、Meir
Teper(プロデューサー)、Drew Nieporent(ディベロッパー)(注3)という4人のパートナーで始めました。今は、最初のマネージャーもパートナーに加わっています。また店舗には直営店とマネージメント店があります。直営店が主ですが、マイアミ、バハマ、香港、イタリア等は地元のパートナーと組んだマネージメント店で、例えばミラノはGiorgio
Armaniと組み、我々はNOBUの教育、技術指導を提供し、クオリティーをコントロールしています。現在はMatsuhisa、NOBU、UMOの他に、私個人でもCrystal
Cruiseの中にSilk Roadという店を持っていて(注4)、全体で24店舗、250億円程度の売り上げです。
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片岡:
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マネージメントチームや店舗展開は主にNY、特にディベロッパーの方が中心を担っているのでしょうか。
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NM:
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世界各地からオファーを戴いていて、つい最近も彼と一緒に20日間弱で13カ国、インド、モスクワ、キエフ、ドバイ、アブダビ、イスタンブール、ドイツ、ハンガリー…を回ってきました。彼がいろんな条件を話し、僕はどういう相手か、安心してビジネスができるのか、フィーリングを感じます。そして食材やお客さんを見て、どういう人間を入れるのか考えます。パートナーにとってはファイナンスの問題も大切ですが、僕は現場で仕事をしていますから、どういう人間を育てていくかです。15年前と違って今はパートナー同士、ぶつかり合うこともありますが、しっかりと話し合いをすると、この辺でというラインが出来てきます。押し付けることは簡単ですが、そうすると人が育ちません。
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片岡:
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東京店については如何でしょうか。
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NM:
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以前はマネージメント店でしたが、東京の母体(ソーホーズ・ホスピタリティ・グループ)が民事再生となり(注5)、いろいろなダメージがあっても、独立させなくてはいけないと思い直営店化しました。そういう状況にぶつかった時に、どういう判断をするのかが大切です。
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片岡:
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新しい東京店には寿司バーが設置されていますね。
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NM:
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東京には本当に良いお寿司屋さんが沢山あります。あくまで、寿司を握る板前さん、大将がメインですから、名店と言われる寿司屋は10席、15席です。うちは100席を超え、ダイニングでワイワイという要素があります。所謂名店としては敵わないと思って、以前は寿司バーを設置しなかったのですが、今は少し自信がつきました。つまり、それができる人間が出てきました。また名店には、少しだけ緊張して食べないといけないというような雰囲気があります。それが良いところなのかもしれませんが、僕は寧ろ楽しんでもらいたい。笑い声や楽しい会話の声がBGMになるというのが理想で、仲間と過ごす時間を提供したいと思っています。そういう店になれれば、町に定着でき、ビジネスとしても成り立ちます。綺麗なだけの店は沢山ありますが、人間がやる店ですから、パッション、ハートがなければいけません。
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片岡:
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子連れのお客さんも多いですね。
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NM:
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特に子供が良いとか、悪いとか決めていません。家族で楽しむ方も多くいますが、子供が走り回って…ということはありません。お客さんがおしゃれをしていれば、自然とそういうふうになってきます。日本はどちらかというと、はじめから決めたがる傾向もありますが、それはレストランの本来の考え方ではないように思います。お店はあくまでもパブリック・スペースです。お店サイドがしっかりとした考え方を持っていれば自然とそういうカラーになっていくものだと思います。米国でも、ジーンズの人も、ドレスアップした人もいますが、一つのバランスとして自然と同化しています。それでいいと思います。
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片岡:
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今後の展開をお聞かせ下さい。
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NM:
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今年はドバイやモスクワなど4店舗を出店します。将来的にはケープタウンにも出し、5大陸すべてへの進出となります。当然、人材の供給が必要ですし、最初からいる人は年齢的にも高くなってきています。そこで、NOBU
University的なものを作り、そういう人たちに講師を務めてもらいたいと考えています。また魚についても、銀ダラだけでも150トン使っていますから、一艘分の丸ごと買うことができます。巨大な冷凍庫を持って、世界中のNOBUにデリバリーする。そうしたセントラルディビジョンを作って、優秀な人間を送り込みたいと思っています。またテルアビブとウォールストリートに2年、3年以内にホテルも開業する予定です。当然、投資家を入れていくことが必要ですが、IPOについては怖いものがあります。IPOするとどうしても数字を追いかけないといけませんが、それは僕自身の生き方と違ってきます。ただ、そういうふうにした方が、NOBUの従業員にとっては良いのかもしれません。
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片岡:
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貴重なお話を有難うございました。
(敬称略)
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−完− |
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インタビュー後記
ハリウッドスターは投資家としても活躍しています。NOBUのニューヨーク出店に際しては、ロバート・デ・ニーロとともに有力な店舗展開のプロフェッショナルも加わり、投資的側面でもしっかりとした体制が作られています。そして、ケニー・G(音楽家)やジョルジョ・アルマーニ(デザイナー、実業家)、ジェームス・パッカー(オーストラリアを代表する実業家の一人)といった著名なローカルパートナーと組み、世界各国で店舗運営を行っています。しかしながら、米国以外の国では、国内での店舗展開は進んでいません。新しいステージの試金石となるのではないでしょうか。 |
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。 |
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脚注
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注1 |
詳しくは下記をご参照下さい。
http://www.nobutokyo.com/chef/
http://ja.wikipedia.org/wiki/松久信幸
レストラン情報
http://www.noburestaurants.com/
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注2 |
詳しくは下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ロバート・デ・ニーロ
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注3 |
米国の著名レストラン経営者 The Myriad
Restaurant Group創業者
http://www.myriadrestaurantgroup.com/mrg/dnieporent.html
http://www.myriadrestaurantgroup.com/
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注4 |
詳しくは下記をご参照下さい。
http://www.nykline.co.jp/news/2008/0411/index.htm
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注5 |
詳しくは下記をご参照下さい。
http://www.soho-s.co.jp/
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片岡秀太郎の右脳インタビューへ |