第41回  『 右脳インタビュー 』        2009年4月1日

浜田 卓二郎さん
弁護士(弁護士法人浜田卓二郎事務所)

 

 
プロフィール  
1941年鹿児島県生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省に入省、公正取引委員会、国際金融局、主計局等を経て退官し、1980年、衆議院議員(自民党)初当選(38歳)。以降、衆議院4期、参議院1期を務める。この間、厚生委員長、法務委員長、参議院行政監視委員長、外務政務次官、自民党副幹事長等を務める。2004年弁護士登録。
http://www.hamadatakujiro.com/

主な著書                            
<ハマタク、東大生と激論す! >
 浜田 卓二郎, 北爪 宏彰, 出雲 充, 三根 一仁 共著 プレジデント社 2001年
<日本は甦る―自立国家への「行動」> 浜田 卓二郎 著 プレジデント社 1997年
<後継者―21世紀のために大蔵省を飛び出した男> 浜田 卓二郎 著 りくえつ 1979年

 

片岡:

今月の右脳インタビューは浜田卓二郎さんです。本日は、旧大蔵省キャリアから政治家に、そして弁護士へと、激動の人生に果敢に挑戦中の浜田さんの生き様と、その実像に肉迫したいと思います。
 

浜田

三権分立といいますが、私は、その三権をすべて経験してきました。行政では大臣官房文書課で法令審査を行い、主計局主査も務めましたので、予算の作り方や、法律を動かす時に行政の判断が分かります。立法府では、といっても実際は名ばかりで下書きは行政府が行っているのですが、一般国民の目から見たら何が具体的に問題かという点から議論し、意見を言います。司法では弁護士として、そうして作られた法律を個々のケースにどのように当て嵌められるか、始めて、法律を適用される立場から発言をしています。
 

片岡:

具体的にご教授下さい。
 

浜田

例えば、薬に近い機能を持つものとして特定機能食品というものがありますが、大変な手続きが必要で活用が進んでいません。その一方で、健康食品(注1)として100種類以上のものが売られていますが、健康食品には、その規制の根拠となっているはずの薬事法には何の定義も規制も定められていません。しかし、厚生労働省の課長たちが地方自治体に通知を出して規制する基準を作っています。しかもその解釈が地方自治体ごとに異なります。例えば、ある健康食品目に「目ぱっちり」というネーミングをしたとします。それがある県ではその名前は効能効果に該当する、よって回収せよ等ということが起きます。現場では法律が担当者の思惑によって当て嵌められているということです。また、景気対策といって色々なことをやってきましたが、本当に対策になっているのか、現場でのやり方にかかってしまうことも痛感しています。例えば、日本政策投資銀行(以下、政投銀)(注2)のような政府系の金融機関は、郵便貯金があったから、そして国策的金融が必要であったからこそ存在していました。例えば造船や鉄鋼等の重厚長大産業や輸出産業に低利な資金を政策的に集中的に流すといった政策目標を、郵便貯金を原資として実施してきました。しかし、今は民間金融が十分発達してきましたので、あえて政府が行う必要性もなく、財政投融資計画等も中身が変わり、今や政策金融という分野が要らなくなってきています。ですから廃止や再編成、民営化が進められてきおりましたが、今回、景気刺激策の一環として一時的に国策的金融の役割が復活してきたのが政投銀です。しかし政投銀は既に株式会社となっていますし、融資の現場では、少し大げさにいうと、1人の担当者に200ものオファーが来ていて既に審査能力を超えています。その結果、担当者が安易に安全性を志向し、リスクが高いところには貸せないというのであれば、景気刺激の政策としては意味がなくなるのです。法律をあてはめられる立場から、日本が官僚制の国であることをいまさらながら思い知らされています。
 

片岡:

今回の世界的経済クライシスへの対応の中では、ケインズ主義(注3)の台頭が見られますね。
 

浜田

ケインズは分かりやすい。要するに需要が不足しているから政府がお金を出して需要を作れば景気回復の引き金になるという考え方です。ケインズが注目された大恐慌の頃も、その後の石油危機や環境問題も、今のような複雑で強大な金融の仕組みもありませんでした。それを不況だから公共事業を増やせという単純な議論が日本では復活しています。しかし、日本の社会資本整備もかなり進んできましたので、本当に必要とされる社会資本投資を公共事業という形でどれだけ行えるのかという面でも限界があり、政治資金や天下りの面から公共事業自体に対する批判的な見方も出ています。だからこそ法律も作らず、給付金を出そうなどという安直な発想が起きてしまいます。ところで、日本はバブルの崩壊を経験しましたが、このバブルは景気を刺激するためにお金を貸そうとした金余りから生まれました。銀行の支店長は、ゴルフ会員権を買え、土地を買え…と、不動産屋なのか銀行マンか分からないほどで、金融を付け過ぎ、価格が上がり過ぎ、東京の土地でアメリカ合衆国が買える…、思い上がりも甚だしい状況でした。それを引き締めるために総量規制を行い、土地の買い取り価格を抑えるために届け出制にし、土地を動かさないように譲渡課税を39%まで引き上げ、バブルを潰しました。ゴルフ会員権は10分の1、株価は4分の1、土地も3分の1となりました。信用によって膨れ上がっていた価格や需要は急速に落ち込み、1,500兆円もの資産を喪失しました。バブルの時の問題は、銀行がお金を貸し過ぎ、借金で「モノ」を買い、「モノ」の価値が急速に落ちて担保価値がなくなり、借金だけが残ってしまったことです。今は、金融を出し過ぎて…というのではなく、はじめから締め過ぎて不況が起きています。それに日本はバブルの崩壊によって対処法も学んで来ています。そういう意味では百年に一度の危機といった報道は、必要以上に心理的な委縮を導いているのではないかと思います。
 

片岡:

さて、今回の金融危機に対応するために米国は財務長官にニューヨーク連銀総裁で、弱冠47歳のTimothy Franz Geithner氏を起用しました。日本でもこのような民間人の招聘や、民間からの天上がり、超抜擢等も必要となってくるのではないかと思います。そうした土壌や環境は十分に育っているのでしょうか。
 

浜田

いい人材が役所に入って行政を覚え、会社に帰って行政とうまく連携しながら事業を行う。役所も民間の知恵を採り入れる…。一般論で言えば、やるべきことです。ただ抜擢は難しい。例えば、銀行と財務省の間などで人事交流が行われていますが、そもそも勉強してきますという程度のもので、辣腕を揮わせるということにはなりません。官僚制の中で、キャリア官僚は厳然たるルールを持っていて、それを邪魔されると凄まじい抵抗が起きます。例えば、財務省で次官になるのは主計局長経験者、偶に銀行局長や国税庁長官の経験者と、その不文律を破るのは至難の技で、役所の中からですら抜擢人事はやり難いものです。だからこそ、野心のある政治家がここに手を入れて名を上げようとするわけです。それでも役所の機構は時々綻びも出ますが、時間が経つと、いつの間にか牢固たる姿に戻っています。小沢一郎氏は政治家を役所に大人数送り込んで変革するというやり方を提唱していますが、実際には難しいと思います。私の大蔵省時代にも政務次官が来ていましたが、殆ど彼らを使うことはありません。その一人が後に首相になった細川護熙氏でしたが、彼は栄光学園の先輩でしたので、暇そうな顔をしていると、今、省内ではこういうことが起きていますと偶にレクチャーをしました。結局、お預かり人事です。また逆に私が外務政務次官の時には、小和田官房長と佐藤総務課長が来て「浜田さんは今までの政務次官とは違う扱いをさせて戴きます。働いて戴きます。それには英語の素養はお有りだろうけれども、さらにブラッシュアップして戴くために教師を付けます…」と。外務政務次官は政務次官の中で一番活躍の場がありますが、それでも普段は使い切っていないということでしょう。政治家と役所の関係はご進講をする、勉強をさせて戴くというもので、そして時々、省内で官僚の欠点が見つかると政治家は飛びあがって喜ぶ…。
 

片岡:

例えば。
 

浜田

最たる例は管直人氏が厚生大臣になった時です。あれは橋本内閣のミスです。野党と勢力が伯仲していたので、厚生大臣のポストを野党に渡した。すると彼らが推薦してきたのが薬害エイズを追求していた管直人氏です。あの時、厚生省は大騒ぎでした。そういう格好で目的意識を持った人物が乗り込んでくれば、凄まじい抵抗にはあいますが、やり方、配置の仕方によって効果がないわけではありません。ただ、そういう人材がどれくらいいるのか…。ところで、今の日本の一番不幸な状態というのは、官僚叩きが政治家の人気を上げることです。だから政治家が官僚を必要以上に叩く。例えば鳩山邦夫氏は工事を中止させて、TVで「私は今時の人になっているらしい…」と、彼は消費税の時にも、絶対反対で名を上げました。同じことをしています。昔は役人にも何くそと頑張る人がいましたが、今は叩かれ過ぎて委縮しています。善し悪しは別として、日本は骨の髄まで官僚国家で、情報も官僚が独占しています。その官僚を意気地なしにして、それでいて政治がその分までしっかり機能しているかというと、政治で出来る範囲は一時的、部分的です。結局、日本のコントロールの基本は官僚制度をうまく動かすことです。官僚制は徳川幕府時代、或いは太政官布告(注4)の時代からずっと続いていて、今もそこにあるのですから。ところで、最近では、後輩たちが官僚になりたがりません。長い目で見れば大変な問題です。
 

片岡: 政治も人材難ですね。さて、勢いに乗っていた野党も小沢代表の秘書逮捕で大きく揺れています。
 

浜田

いくら政治収支報告書をきちんと整備しても、その裏に作られてきた構造的なものがあります。あれだけの集金マシーンができて、建設業界や役所にもそれだけの影響を及ぼして、本来競争入札であるところを随意契約にしたり、競争入札の時も仕切りを秘書が行ったり…。形の上できちんと報告書に報告してあるとしても、それは本質ではありません。やはり田中角栄先生から連なる経世会流の古い政治手法が問題です。また小沢氏は政党助成金すら私物化しているという説もあります(注5)。政治資金が税金を払わなくていいのは政治に使うからで、不動産を買うためではありません。今、田中眞紀子氏は角栄先生から相続した信濃川の河川敷を宅地として分譲しています。買い占めた河川敷にスーパー堤防が出来て宅地になったからです。物凄く深い利権構造で、立証されるかどうかは別にして、そういう想像力が小沢氏の場合にも働くはずです。そこが見えると致命的だと思います。もっとも民主党にとっては、小沢排除を如何に行うかが元々課題でもありましたので、民主党にはチャンスとも言えます。
 

片岡:

本日は貴重なお話を有難うございました。
 

〜完〜

 

 

インタビュー後記

鹿児島生まれの浜田さんは大柄で、人懐っこい笑顔、そして、朗々たる声が特に印象的です。故郷の英雄、西郷隆盛を彷彿させる風貌です。三権を熟知し、各界に跨る幅広い人脈を持つ浜田さんにとって弁護士という枠組みは、既に狭すぎるようです。世界的経済危機に瀕し、いま日本で求められる指導者こそ、西郷隆盛の胆力と大久保利通の大航海魂を備えた知的武人の出現でしょう。

  
 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

健康食品については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/健康食品
 

注2 日本政策投資銀行については下記をご参照下さい。
http://www.dbj.jp
http://ja.wikipedia.org/wiki/日本政策投資銀行
 
注3 注3 ケインズについて下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・メイナード・ケインズ
http://ja.wikipedia.org/wiki/ケインズ経済学
 
注4 太政官布告については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/太政官布告・太政官達
 
注5 小沢一郎氏については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/小沢一郎
 

 


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