第43回  『 右脳インタビュー 』        2009年6月1日

吉井 栄さん
ジャパン・ウェルス・マネジメント証券株式会社 代表取締役

 

 
プロフィール
1948年生まれ。
1971 年 早稲田大学社会科学部 卒業
1974 年 米国マイアミ大学 財務学部 卒業
1975 年 米国スミスバーニー証券会社入社
1992 年 常務取締役就任。
1993 年 スミスバーニー東京支店長就任
1998 年 ソロモンスミスバーニージャパン副会長就任
1999 年 シティコープ証券会社 東京支店 取締役東京支店長就任
2002 年 取締役会長
2005 年 同 アドバイザー
2006 年 ジャパン・ウェルス・マネジメント証券株式会社設立。
代表取締役就任(現任)
 

 

片岡:

今月の右脳インタビューは、吉井栄さんです。まずはご足跡などお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
 

井:

立教高校に在学中、テニスで18歳以下の全国大会に優勝し、1965年から1966年にかけて海外を転戦する機会を得て、日本の大学を出たらやっぱり米国だと思うようになりました。早稲田大学を卒業後、テニスで当時、米国大学ランキング上位を争っていたマイアミ大学に入学し財務を専攻、卒業と共にニューヨークのSmith Barney社に就職しました。Smith Barney社には30年以上在職していましたが、その間、数回の合併と共に組織が拡大し、会社、部門間での意見が合わなくなってきました。売り上げを伸ばすためには売りたくない商品もお客様に売ることになり本来のプライベートバンク業務の理念からはずれていきます。これでは、お客様を向いての仕事か、会社を向いての仕事かわかりません。だからこそ、本当にお客様のためになるプライベートバンクを立ち上げたいと有志でジャパン・ウェルス・マネジメント証券株式会社(注1)を設立いたしました。個人の方々は様々な悩みを抱えて、お仕着せのサービスではだめなのです。例えばレストランや絵画を売却して欲しいとか、大学や子供の結婚相手を紹介して欲しいとか…。この世界ではそうしたお客様の悩み(ニーズ)にも対応することが必要です。ところでヨーロッパではプライベートバンクは何百年という歴史がありますので、自分の弁護士は誰々でファイナンシャル・アドバイザーは誰々だといった自慢話をプライベート・クラブ等で聞くことがあります。日本では自慢できる外科医先生や弁護士先生はいますがファイナンシャル・アドバイザーの名前は聞きません。ただ大手金融機関名が出てくるだけというのが現状だと思います。だから私は社員には「会社でなく自分を売り込んで欲しい」と言っています。
 

片岡:

御社の株主はシンガポールの政府系ファンドですね。
 

井:

会社を作り4、5年は少なくとも存続させるためには25億円が必要だったのですが、なかなか集まらず、3年程たってようやく話が来ました。シンガポールのTemasek(注2)を選んだのは長期で我々と付き合ってくれるということで決めました。また彼らは純粋な投資家として位置付けておりますので役員も非常勤となりました。
 

片岡:

日本の政策投資銀行(政投銀)についてはどのようにお考えですか。
 

井:

政投銀は何をやるのか、一般軸がわかりません。航空会社や半導体会社の問題が出て来る等、政策の必要性によるものでしょう。現に米国では航空会社が潰れていて、そういう意味では自由化というものが本当に良いのかは大きな疑問も残りますし、政府の関与が良いか悪いかはその国の文化によるのかもしれません。ただ投資家としては、今までの過去の例を見る限りそうした支配下にあった組織は上手に行かず、悪い方向に向いてしまう傾向もあるかと思います。
 

片岡:

米国では連邦政府主導のもとChryslerがChapter 11を選択しましたね。
 

井:

これは、まさに国家戦略できているやり方です。Chryslerに限らず、米国の自動車業界全体が巨大なドメスティック・マーケットに安住してきました。その結果、例えばGMは「PontiacやChevroletといった各部門がすべて違うモデル(プロダクト)を独自で開発し、競争する」という初期の理念を失ってしまいました。90年代に同社が小型車を作り始めた時、本来は一つの部署(ディビジョン)で行えば良かった筈なのに全てのディビジョンで小型車を投入しました。当時の経営陣はコストカットには部品の共通化に良いといった決定をしたのでしょう。GMという組織の中でエリート中心の官僚的な作用が起きたといってもよく、それで各部門の特徴が出なくなったのではないでしょうか? ここに本質的な問題があって、労働組合との問題等は言い訳に過ぎません。半国有化された企業が、はたして独創的な組織を作ることができるか? それは誰もわかりません。マーケットも評価しないでしょう。
 

片岡:

金融危機の中、国内でも外国ファンドが取得した株式や資産をリリースする動きが顕著ですね。
 

井:

これまでのリリースの動きは解約が出たための投げ売りが主でしょう。私も1987年の大暴落を経験しましたが、この時はまさにパニックで、リリースの基準も何もあったものではありませんでした。そうした第一期の投げ売りが終り、それをベスト・チャンスと買った投資家がいます。彼らは儲かったと思っていたのですが、実際の数字を見てみると、ちょっと待てよ…と。それでまた売りが出始めたというのが現状でしょう。更に通貨をどんどん発行しているので、これからはインフレや金利の上昇が心配です。ところでMicrosoftが60億ドルの債券発行(注3)を決めました。80年代前半にもIBMが初めて債券を発行したことがあり、大丈夫かな? 巨額のキャッシュを抱えているのになぜ債券を…と疑問が起こりましたが、結局その時が金利の大底で、将来のための資金調達をボトム(低金利)で終えていました。Microsoftも、今回の債券発行はGeneral purposesと言っていますが、当然M&A等も視野に入っているでしょう。推測するにはIBMやMicrosoftは政府と近く、連銀とも密接で、彼らの経済の読みは一般アナリストより鋭いはずです。そうなると今が底で、これから金利が上昇し債券市場は崩れるかもしれない? さて、MicrosoftやFord担当の投資銀行シンジケート団は米国最大手の金融機関(JPMorgan, Goldman Sachs, CITIGROUP)が担当しています。今度はこのマーケットに投資銀行が雪崩込み、当然M&Aも活性化するはずです。
 

片岡: 投資銀行の動向についてもう少しお聞かせ下さい。
 

井:

投資銀行といっても色々あります。M&A専門投資銀行で例えばGreenhill社やLazard社などの実力の見せ場が出てくるでしょう。私に日本転勤を指示したのはFrank G. Zarb氏(注4)です。彼はFord政権下の”Energy Czar”(エネルギー政策担当責任者)です。後にLazard社のパートナーとなっていたのですが、カリスマ経営者Sanford I. Weill氏(注5)がSmith Barney社を買収した時に会長として招聘しました。Zarb氏がNASD(National Association of Securities Dealers)会長に転出すると、後を継いだのがRobert F. Greenhill氏(注6)です。この金融の世界は本当に狭く、人脈が財産、とにかく人です。だから今後はそういうところが動いてくるはずです。ところで、私は「金融の世界はスパイラルだ」というのですが、上から見ると同じでも横から見るとテクノロジーなどが加わってちょっと違う。例えばM&Aの方法に違いがあったり、公的資金や政投銀等も活用しながら行われたりもするでしょう。今投資家は、建前は別としても、一般的には、とにかく短期で収入を得たいのが現状ですが、これから冬にかけて、来年の策も練ってきいています。またLBOも今は評価ができずに止まっていますが、金利も安く、当然出てくるはずです。ところで日本の投資家の問題点は、ギャランティー好みのギャンブラーです。ないものを追いかけるから、引っかかってしまいます。これは機関投資家でも同じです。
 

片岡:

本日は貴重なお話を有難うございました。
 

〜完〜

 

 

インタビュー後記

吉井さんは金融の世界で大変なご活躍ですが、その一方、スポーツの振興にも情熱を注いでいます
(注7 )。例えば、世界のトッププレイヤーを育成するために設立されたテニス・ファンドの理事や日本国際ローンテニスクラブ事務局長を歴任するなどテニス界は勿論、その他にも、様々なジャンルのスポーツにおいて国際的選手育成のために精力的な活動を続けています。

  
 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

ジャパン・ウェルス・マネジメント証券株式会社については下記をご参照下さい。
名称: ジャパン・ウェルス・マネジメント証券株式会社
http://www.jwm-inc.com
所在地 :   東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー36 階
設立日 :   2006年1 月23 日
払込資本金 : 25 億26 百万円(2008年4月末現在)
主要株主:   Normanton Investments Pte. Ltd.
【Temasek Holdings (Private) Limited の100%出資会社】
 

注2 Temasek Holdingsについては下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/テマセク・ホールディングス
注3 Microsoftの債券発行については下記をご参照下さい。
http://www.microsoft.com/Presspass/press/2009/may09/05-11statement.mspx
注4 Frank G. Zarb氏については下記をご参照下さい。
http://en.wikipedia.org/wiki/Frank_G._Zarb
注5 Sanford I. Weill氏については下記をご参照下さい。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sanford_I._Weill
注6 Robert F. Greenhill氏については下記をご参照下さい。
http://www.greenhill.com/index.php?option=com_peoplebook&Itemid=150&func=grShowProfile&profileid=10000096
http://www.greenhill.com/
注7 吉井氏のテニス歴
ジュニアオレンジボール大会出場*、フロリダ選手権ダブルス優勝、ミックスダブルス優勝、全日本ジュニアシングルス優勝、関東学生シングルス優勝、全日本学生シングルス準優勝があり、ニューヨーク ウエストサイドテニスクラブ理事、国際ローンテニスクラブ 日本事務局長等を歴任。日本初の大学主催プロテニストーナメントディレクターを務める。
*オレンジボール大会とは4大大会と同格のジュニア世界大会

 


片岡秀太郎の右脳インタビュー


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