第46回  『 右脳インタビュー 』        2009年9月1日

村木 徹太郎さん
TOKYO AIM取引所(東京証券取引所グループ)  代表取締役社長

 

 
プロフィール  
 
1965年 岐阜県生まれ
1989年 上智大学 外国語学部比較文化学科卒卒業
1991年 同 修士課程修了
スイス銀証券会社東京支店入社(現UBS証券)
1996年 世界銀行(ワシントンDC本部)入行
2001年 ハーバード大学行政大学院(ケネディースクール)にてMPA(行政修士)取得
デロイトトーマツコンサルティング株式会社入社
2002年 イデアキャピタル株式会社 代表取締役パートナー
2003年 株式会社産業再生機構入社
2004年 同 マネージングディレクター就任
株式会社カネボウ化粧品 取締役兼執行役 最高財務責任者(CFO)
2007年 株式会社東京証券取引所グループ 経営企画部 企画統括役(現任)
株式会社東京証券取引所 派生商品部新商品推進室長
2009年 株式会社 TOKYO AIM取引所 代表取締役社長 (現任)

 

片岡:

今月の右脳インタビューは村木徹太郎さんです。早速ですが、ご足跡等お伺いしながら、インタビューを進めたいと存じます。
 

木:

大学卒業後は投資銀行に就職、その後世界銀行(注1)に移りました。1997年にアジア通貨危機(注2)が起こり、世銀の韓国オフィスを立ち上げ、金融機関の不良債権処理、買い取り機関(KAMCO)の創設や財閥の再生等の枠組みを作り導入するプロジェクトを統括していました。財閥企業の再生案件や国有化された銀行の再民営化のプロセスについて韓国政府にアドバイスをしたりしているときに、もともと民間セクターで案件を回しているのが好きだったこともあって現場のダイナミズムに惹かれて企業再生に興味を持つようになりました。その後日本に戻り、プライベートエクイティーファンドの立ち上げなどを経て産業再生機構(注3)へ入りました。
 

片岡:

産業再生機構ではカネボウ(注4)を手掛ける等、大変なご活躍でした。
 

木:

カネボウにはプロジェクトマネージャーとして参加し、最終的に化粧品部門を切り出してカネボウ化粧品を設立した際には、その最高財務責任者兼海外担当役員に就任しました。カネボウは100年以上の伝統のある企業で良い面もたくさんありましたが、社内外に柵も多く、会社の文化や歴史をしっかり理解したうえで、企業にとって何が良いのか、戦略的に方向性を出しながら同時に舵取りしていくことが必要でした。産業再生機構の場合は5年間で店じまいするという法律的な期限があって、最初の2年間で案件に投資をして残りの3年間で再生した企業をエグジットするという時間軸がありました。カネボウ化粧品も例外ではなく投資をした直後から再生後のエグジットを見据えた戦略を前提に実行しました。民間による再生も国によるものも内容は基本的には同じですが、産業再生機構はそうした短い期間の中で完結させなければならなかったので民間ファンドとの時間軸の違いは大きかったと思います。再生機構設立当時は機構スキーム自身が新しい取り組みでしたので、金融機関や企業にもなかなか理解して貰えませんでした。しかし、カネボウを手掛けた辺りから債権者調整を民間主導で行うのと産業再生機構が主導する場合の違いもご理解戴けるようになるなど機構の枠組みを使う様々なメリットを理解して戴けたのではと思います。
 

片岡:

国税や検察等の政府機関からのバックアップがあるという印象を持っていた人も中にはいたようですね。さて、金融危機の中、米政府が主導して行っているGMの再生についてはどのようにお感じですか。
 

木:

GMは物凄い歴史があって組合も強く、ガチガチの体制の中で時代の変化に対応するべき変革ができなかった典型だと思います。それを今回、米政府の介入で、過去の柵を解きほぐして分解し、新しくしていく。新聞情報によると改革を相当大胆に行っていますし、方向性は正しいと思います。短期的には色々あるかもしれませんが、中長期的には米国が一丸となって自動車産業の中心の会社を守ろうというコミットメントには物凄いものがあります。米国は嘗てクライスラーを民間の力で再生した国ですから、本来は民間で再生させれば良いのですが、100年に一度という今回の危機は規模がとてつもなく大きく、且つ全産業的、世界的に起きています。そういう中で結果的に米国政府が直接株主となりGMの再生を行いました。あのタイミングにおいてはベストなソリューションだったものと思います。しかし、原則はラストリゾート的なもので、恒久的に続くことがないようにしなくてはいけないと思います。あるフェーズでどうしようもなくなったとき、国のセーフティーネットで支えながら企業のオペレーションを順回転にさせていく、そして一定の期間で民間に戻す。恒久的になるとその時点から様々な歪みが出てくるはずです。
 

片岡:

有難うございます。さて、村木さんは今度、TOKYO AIM取引所(注5)の代表に就任されましたが、TOKYOAIMはどのような企業を対象とした市場なのでしょうか。
 

木:

大企業の子会社や成長性の高い企業、或いは企業再生やMBOによって非上場化した会社が再度上場してくるケースもあるでしょう。バリエーションは広いと思います。結局、会社として何をしたいかです。最終目標が東証一部に上場したいという会社もあれば、できるだけ早く上場し、資金を集め、投資をして事業を伸ばしたいという会社もあるでしょう。会社が上場する理由は複合的です。香港での上場を選ぶ会社は中国マーケットを、シンガポールでの上場を選ぶのは東南アジアマーケットを狙っているのかもしれません。そういう企業にとって日本に来ることは、かえって遠回りです。一方、日本は1億2千万人の人口を擁し、GDPは世界2位、最先端の技術を持っている企業があり、千数百兆円の個人マネーをプロが運用している…。TOKYO AIMに上場することによりそれらのメリットを享受しようとする日本の会社やアジアの会社は潜在的に多いのではないでしょうか。たとえばアジアの企業であればハイテクやクリーンエネルギーで先端を走っている日本の会社と提携したいのかもしれません。しかし日本の既存市場では、その企業が英語での上場の準備は十分できていても、それをわざわざ日本語に変えて、日本の会計基準になおさなければならず、それだけでも1年、2年と時間がかかってしまいます。TOKYO AIM自身には株主数などの上場基準を設定していないので、J-Nomadと呼ばれるTOKYO AIMから承認されたアドバイザーが担当会社の上場適格性を審査した上で、上場会社は上場後もJ-Nomadとの契約関係を維持します。またTOKYO AIMでは情報開示は英語だけでも大丈夫ですし、国際会計基準や米国基準でも上場できます。このため、早期の上場も可能です。
 

片岡:

投資家については如何でしょう。
 

木:

TOKYO AIMはプロ向け市場で、金商法で定義されている特定投資家でないと売買ができません。具体的には適格機関投資家、上場企業、大会社や非居住者などですし、英語での開示が理解でき、日本と海外の会計基準を比較した場合に、どういう違いがあるのかが分かるようなプロの投資家や富裕層の個人投資家(純資産が3億円、投資経験が1年以上)などです。ところで、海外の普通の個人投資家は一般的に直接株式を売買するよりは投資信託とかETF(Exchange-Traded Fund:上場投資信託)を買う傾向があります。2年ほど前に政府内でプロ向け市場の議論が活発化して行く中で、金融庁が柔軟な制度を持つプロ向けの市場を作ろうということで法整備を行い、昨年6月に国会を通り12月に施行されました。その後、今年の5月末に金融庁からTOKYO AIM取引所の免許を頂き6月から開所しました。そして第一陣の指定アドバイザーを6月11日に6社指定しました。新会社は東証グループが51%、ロンドン証券取引所グループが49%出資している合弁会社(注6)です。資本市場が国際化していく中で、金融センターとしてのグローバリゼーションを推し進める一つの仕組みとなり少しでも貢献できればと思います。
 

片岡: ロンドン証券取引所のAIM(Alternative Investment Market)(注7)では、特に投資家をプロに限定しているわけではないそうですね。そのAIMについてお聞かせ下さい。
 

木:

日本とは出来てきた背景が異なり、開設して既に14年程経ちます。AIMは成長企業向けの市場で、現在1400社強が上場、今回の金融危機の影響を色濃く受けていますが、それでも全体の時価総額は8兆円。一社当たりの平均は数十億円ですが、内訳を見ると大きく2つの層に分かれています。一つは上場し資金調達を目的としている会社で、こうした会社の中には数千億、数百億円規模の時価総額を持つものが100社以上あります。その一方、ほとんど流動性がないような小さな会社も多数上場しています。こうした会社はM&Aするため、M&Aされるために上場していることも多いようです。上場していれば、会社の株価は取引されている株価が前提となり市場が評価した時価総額がM&Aの目安となります。また上場する際にJ-Nomadが引受けて審査、デューデリジェンスをし、会計士、弁護士も入っているわけですから会社に対する透明性も高くなっています。TOKYO AIMでも将来的にはM&Aされることを目的とする企業の上場もでてくるでしょう。先程述べたようにロンドンのAIMは一千億円単位の時価総額を持つ企業を数多く持ち、日本的な意味の「新興市場」とは異なります。だからこそTOKYO AIMも、国内外のプロの投資家が成長性の高い企業に対してリスクマネーを比較的長い期間をかけて入れてくれる従来にない新しいモデルの取引所になるものと思っています。
 

片岡: 貴重なお話を有難うございました。
 

〜完〜

 

 

インタビュー後記

現在、東京証券取引所に上場している企業2351社の内、外国会社は15社だけだそうです。20%近い外国の上場企業を抱えるニューヨーク証券取引所やロンドン証券取引所とは比較にもなりません。変革の期待を担い、上場基準に大幅な柔軟性を与えられたTOKYO AIMの歩みは、金融危機の中で始まりました。その陣頭指揮を執る村木さんは朝鮮戦争以来の危機と言われた通貨危機まっただ中の韓国、バブルの後遺症に身動きが取れない日本と、国家的なプレッシャーの中で確実に実績を重ねてこられました。温和な笑顔に包まれた強靭なチャレンジング・スピリットに期待したいと思います。

 

  
 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

世界銀行については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/世界銀行
世界銀行の公式サイトから

注2 アジア通貨危機については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/アジア通貨危機
注3 株式会社産業再生機構については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/産業再生機構
http://www8.cao.go.jp/sangyo/index.html
注4 カネボウについては下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/トリニティ・インベストメント
注5 TOKYO AIM取引所取引所については下記をご参照下さい。
http://tokyo-aim.com/main/jp/home/home.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/TOKYO_AIM取引所
注6 東京証券取引所グループとロンドン証券取引所グループの提携については下記をご参照下さい。
http://www.tse.or.jp/news/200901/090129_c.html

東京証券取引所グループについては下記をご参照下さい。
http://www.tse.or.jp/about/tse/index.html
http://www.tse.or.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/東京証券取引所

ロンドン証券取引所グループについては下記をご参照下さい。
http://www.londonstockexchangegroup.com/
http://www.londonstockexchange.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ロンドン証券取引所
 
注7 AIM(ロンドン)については下記をご参照下さい。
http://www.londonstockexchange.com/companies-and-advisors/aim/aim/aim.htm
   
   

 


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