鳩山政権は結局、普天間基地移転問題で崩壊した。直前、辺野古周辺への移転で日米合意を行い、民主党と自民党の相違はほとんどない。政局の争点でなくなった。しかし、五月末琉球新報が行った沖縄県民世論調査では辺野古周辺への移転に84%が反対である。政府の方針は11月の沖縄知事選までは動かず、多分現職の仲井知事の当選を待って、その後一気に辺野古移転の動きを強める筋書きであろう。ただし、沖縄県民の根強い反対を考えれば、円滑な移転は考えにくい。基地周辺の混乱が発生し、今一度普天間移転の問題が注目されよう。同時に在日米軍の意義、米軍が持つ抑止力が改めて問われよう。幸い今はこの問題での発言は政治色が薄い。静かに考えてみたい。
NHK日曜討論では「日本は領土問題を抱えている。これを守るのに米軍が必要」との発言があった。この発言は正確ではない。安保条約では「日本の管轄地」へ攻撃があった時に米国が行動とると決めている(注1)。北方領土は日本の管轄地ではない。竹島に関しては2008年ブッシュ米国大統領が韓国訪問した時に、ブッシュ大統領の指示で、米国地名委員会は「竹島は韓国領」と決めた。この委員会の決定は、米国政府の全ての省に対する拘束力がある。従って米国は竹島で日本側に立ち、戦うことはない。
我々の最大関心は尖閣列島である。米国は尖閣列島が日本の管轄の下にあり、安保条約の対象としている。しかし、米国は1996年以降「尖閣列島は日中で係争中である。米国は領土問題で中立である」としている。外交的に支持しないもので、米国兵を戦わせることが出来るか。更に2005年の「日米同盟:未来のための変革と再編」では島の防衛は日本の任務とされている(注2)。中国が攻め、尖閣列島を占拠すれば、中国が管轄し、安保条約の対象とはならない。日本の多くの人は,安保条約があるから米軍は日本の島々を守ってくれていると思っているがよく見ると違う。当然のことであるが、日本の島は日本自身が守る。米軍はすぐに介入しない。
では中国の核兵器に対してはどうであろうか。日本列島全体を射程距離内に収めているミサイル東海10の基数は150-350といわれている。中国が核兵器で日本を脅かせば、米国が逆に中国に報復するぞと言い返す。こうして日本には米国の「核の傘」があると思われてきた。
しかし、中国が核兵器で米国を大々的に攻撃する能力を持つとどうなるか。米中双方が先に攻撃すると相手は完全に破壊されてしまう。これを防ぐ必要がある。相手に攻撃されても、核兵器を温存しこれで報復する能力を認める。これを「相互確証破壊戦略」と呼ぶ。「いかなる事態があってもお互いに先に核兵器で攻撃しない」という約束が必ず米中の基本になる。米中はこの約束は何よりも優先する。その時、中国が日本に核兵器で脅しても、米国は中国に報復するとは言えない。中国の核兵器が強化されるにつれ、米国の「核の傘」は実効性を失う。
日本の多くの人は日米安保条約で日本は米国軍によって守られていると思っている。しかし個々を検証していくと、この守りはそう確たるものではない。中国が軍事力を増すにつれ、米国は日中の軍事衝突に巻き込まれるのを避ける。日本は自分の領土は自ら守ることと、如何に中国と軍事衝突にならないようにするかを真剣に考える必要がある。
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