大塚正民の考古学と考古学の広場

 
内部告発者法(その8):
日本の内部告発義務法−いわゆるゲートキーパー制度

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

前回(その7)では、内部告発義務法としてのPrivate Securities Litigation Reform Act of 1995よって創設されたSecurities Exchange Act of 1934 のSection 10A  (注1)を 見ました。このように公認会計士に内部告発義務を課す法律は、現在のところ、日本では存在しません。ところが最近になっていわゆるゲートキーパー制度の立法化が日本でも検討されるようになりました。ゲートキーパー制度とは、「マネー・ロンダリング対策やテロ資金対策のために弁護士・公認会計士などの専門職を金融取引の門番(ゲートキーパー)にしようとする制度であって、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の勧告がその内容を定めている。この制度は、マネー・ロンダリングやテロ資金の移動に利用され得る金融取引について、代理人や助言者として関与する弁護士・公認会計士などの専門職を取引の門番役(ゲートキーパー)として、その疑いのある取引を報告させる等の義務を課すことによって、これらの資金移動を抑止しようとする制度である。(注2) 」と説明されています。この制度の日本での立法化に日本弁護士連合会(日弁連)は反対しています。その理由は、次の通りです。「日弁連はアメリカやカナダ、ヨーロッパの弁護士会と共同して、この制度の導入に対して強く反対してきた。疑わしい取引の届出は、金融機関による資金凍結(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第22条「没収保全命令」)に直結しているのであり、誤った捜査は対象者の経済的破綻をもたらしかねないものである。この制度の恐ろしさは単に金融機関担当者レベルの「疑わしい」という判断のレベルで、金融取引に関する情報が法執行機関に通報され、これに基づく強力な対応措置が可能とされていることである。通報者は依頼者との関係では民事免責を受けているので、自らの処罰や懲戒を避け、リスクを減らそうとする心理からは、確たる疑惑がなくても通報しようとする傾向がある。弁護士は国家権力との対抗の中で市民の人権を擁護することを職責のひとつとしており、職業的秘密の原則は、このような職業の本質に根ざすものである。時の政府または政治権力から独立していることが(弁護士自治)、人権の擁護と社会正義の実現の基盤なのである。この基盤を支える義務として、守秘義務は国民の弁護士制度・司法制度への信頼の基礎となっている。ゲートキーパー制度は、この基盤を文字通り掘り崩してしまう危険性がある。(注3)

 

脚注
 
注1 アメリカの連邦法律集であるU.S.C.(United States Code)での表示は15 U.S.C. Section 78j-1となります。
 
注2 日本弁護士連合会パンフレット、ゲートキーパー制度 Q&A (2006年)1頁。
なおFATF(金融活動作業部会)については、以下のサイトを参照。
外務省のサイトwww.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/m_laundering/fatf.html
警察庁のサイトwww.npa.go.jp/kokusai2/fatf.htm
 
注3 日本弁護士連合会パンフレット、ゲートキーパー制度 Q&A (2006年)2頁。
 

(敬称略)



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