大塚正民の法考古学と税考古学の広場
贈与と税金その4:
値下がりしている資産を贈与した場合(アメリカ)
大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
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父ボブが以前に金20萬ドルで購入し、今では時価が1萬ドルに値下がりしている土地を息子ジョンに贈与し、その直後に、息子ジョンはこの土地を第三者に1萬ドルで売却しました。このような場合、日本と同じようにアメリカでも、贈与税と所得税が問題になります。無償で移転された土地の時価相当分1萬ドルについての贈与税と、購入してから売却するまでの期間中に生じた土地の値下がり分19萬ドルについての所得税上の損失です。まず無償で移転された土地の時価相当分1萬ドルは贈与税の対象になります。ただし、贈与税の納税義務者は、日本の場合は受贈者(贈与を受けた者)ですが、アメリカでは贈与者(贈与を行った者)です。贈与税の基礎控除額は、日本の場合は110萬円で、アメリカの場合は1萬ドルです(注1) 。父ボブが贈与した土地の時価相当分1萬ドルはこの基礎控除額以下ですから、結局は父ボブには贈与税がかかりません。次に土地の値下がり分19萬ドルですが、前回の[贈与と税金その3]で述べました日本の場合とは異なって、この19萬ドルの損失は息子ジョンの他の所得から控除できません。息子ジョンの取得価額が、父ボブの取得価額20萬ドルではなく、贈与当時の時価1萬ドルとなるからです。前々回の[贈与と税金その2]で述べましたように、贈与の場合、アメリカでも日本と同じように受贈者が贈与者の当初の取得価額を引き継ぐという「取得価額の引継ぎ」の制度があります。ところがアメリカの場合、受贈者が第三者に対して売却して損失が出るような場合には、例外として、取得価額の引継ぎはないのです。つまり父ボブが所有していた期間の「値下がり分(含み損)」を利用して息子ジョンの所得を減少させるという方法は認められないのです。この例外規定は1929年の大恐慌の後に「含み損の贈与」を防止するために1934年に設けられました(注2)。大恐慌によって値下がりした資産を親類・縁者に贈与して、それらの親類・縁者の所得税を減少させる方法が流行したからです。前回の[贈与と税金その3]で述べました最高裁の判例のような事例が増えて来れば、日本でもアメリカと同じような対策が採られるかも知れません。
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脚注
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注1 |
米国の1986年内国歳入法典(The Internal Revenue Code of 1986)Sec. 2503(b)(1): In the case of gifts … made to any person by the donor during the calendar year, the first $10,000 of such gifts to such person shall not … be included in the total amount of gifts made during such year … (各暦年を算定単位として、贈与者が行った贈与について、各受贈者ごとに最初の1萬ドルはかかる贈与の価額には含まれないものとする)
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注2 |
前々回の[贈与と税金その2]で引用した米国の1986年内国歳入法典§1015(a): .If the property was acquired by gift … the basis shall be the same as it would be in the hands of the donor …(受贈者が贈与によって取得した資産の取得価額は、あたかも贈与者が所有していたとした場合の取得価額と同額をする) …には、1934年に追加された次のような例外規定があります。… except that if such basis is greater than the fair market value of the property at the time of the gift, then for the purpose of determining loss the basis shall be such fair market value … (ただし、その取得価額がその資産の贈与当時の時価を越えている場合には、受贈者の爾後の譲渡における譲渡損失を算定する目的上は、贈与当時の時価をもって取得価額とする)
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(敬称略)
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