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第32回 犯罪の被害者と加害者その3: 「サムの息子法」

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

「サムの息子法」を巡るアメリカの裁判闘争の歴史において比較的有名な裁判例としてHenry Hill 事件とJean Harris 事件があります。前回(第31回)では、これら2つの裁判例のうち、まずHenry Hill 事件を取り上げました。今回は、Jean Harris 事件を取り上げることにします。
Jean Harris 事件
1980年3月10日、Jean Harrisは、かねてから(約14年間)愛人関係にあったDr. Herman Tarnowerを、彼がより若い女性と懇ろとなったことに嫉妬のあまり、射殺しました。Jean Harrisは、名門女学校の校長であり、Dr. Herman Tarnowerは、著名な医師であったことから、この殺人事件は世間の注目の的となりました
(注1)。彼女はこの罪で懲役15年ないし終身の刑を受けました。(ただし、約12年の服役後、1993年1月22日に仮釈放されました(注2)。)
彼女は受刑中にStranger in Two Worldsという本を書き、それから挙がる印税を自分の税金と弁護士費用に充当し、その残りの全部を非営利法人Children of Bedford, Inc.に譲渡したのです。この非営利法人Children of Bedford, Inc.は、受刑中の女性たちの子供たちの福祉を目的とする団体で、彼女自身が設立したものでした。
出版社であるMcMillan社から出版契約の契約書のコピーの提出を受けた犯罪被害者救済委員会は、この著作がサムの息子法にいう犯罪実話に該当する、と決定したので、Children of Bedford, Inc.は、犯罪被害者救済委員会を被告とし、この決定の無効確認を求めて出訴しました
(注3)。第1審であるニューヨーク州のSupreme Court、第2審であるニューヨーク州のSupreme Court Appellate Division(注4)、第3審であるニューヨーク州のCourt of Appeals(注5)、と州段階の裁判所のすべてで敗訴したので、Children of Bedford, Inc.は、最終審である連邦最高裁判所に更に上訴したのです。
Jean Harris 事件について第3審であるニューヨーク州のCourt of Appealsの判決があったのが1991年5月7日、Henry Hill 事件について連邦最高裁判所の判決があったのが1991年12月10日です。Jean Harris 事件について、1992年1月13日、連邦最高裁判所は、「Henry Hill 事件について連邦最高裁判所の判決の趣旨に鑑み、事件をニューヨーク州のCourt of Appealsに破棄差し戻す」旨の判決を下し(注6)、ニューヨーク州のCourt of Appealsは、1992年4月3日、犯罪被害者救済委員会の上記決定を取消す旨の判決を下しました(注7)
  

脚注
 
注1 People v. Harris, 456 N.Y.S. 2d 694 (Ct. App. 1982).
 
注2 The New York Times, http://www.nytimes.com/1993/02/10/style/chronicle-311593.html
 
注3 Children of Bedford, Inc. v. Petromelis, 541 N.Y.S. 2d 894 (Sup. 1989). ただし、形式上の被告は、犯罪被害者救済委員会の委員達となっています。
 
注4 Children of Bedford, Inc. v. Petromelis, 556 N.Y.S. 2d 483 (A.D. 1990).。
 
注5 Children of Bedford, Inc. v. Petromelis, 570 N.Y.S. 2d 453 (Ct. App. 1991).
 
注6 Children of Bedford, Inc. v. Petromelis, 112 S. Ct. 859 (1992).
 
注7 Children of Bedford, Inc. v. Petromelis, 583 N.Y.S. 2d 188 (Ct. App. 1992).
 
   

 



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