大塚正民の考古学と考古学の広場

第46回 国際法務その12: 会社法(続)

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

 

前回(第45回)では、アメリカのLLCを日本の税法上どのように取り扱うかについて検討しました。日本の居住者太郎がアメリカの居住者ジャックと共同でアメリカ・ニューヨーク州法上のLLCを設立し、そのLLCがアメリカの税務上の「構成員課税」すなわち「パス・スルー課税」を選択した場合に、このようなアメリカのLLCを日本の税法上どのように取り扱うかについては、「国税庁の質疑事例」が、「・・・LLCが米国の税務上、法人課税またはパス・スルー課税のいずれの選択を行ったかにかかわらず、原則的には我が国の税務上、外国法人・・・として取り扱うのが相当です。・・・」との立場をとっていることを指摘しました。つまり、日本の居住者である太郎にとっては、アメリカのLLCは常に法人とされるのです。それではアメリカの居住者であるジャックにとっても、アメリカのLLCは常に法人とされるのでしょうか?違います。何故でしょうか?日米所得税条約があるからです。日米所得税条約第4条第6項第(a)号は、このアメリカのLLCが構成員課税(パス・スルー課税)の選択を行っているかぎり、このアメリカのLLCの構成員としてのアメリカの居住者であるジャックはパス・スルー課税を受ける、と規定しています注1)。そこで、このアメリカのLLCが日本において不動産賃貸業を行った場合を考えて見ましょう。前回(第45回)で述べましたように、「国税庁の質疑事例」などの現行の税務実務による限り、「日本の居住者である太郎は、このLLCの不動産賃貸業について生じた損益を太郎個人の所得とすることが出来ない。なぜなら、このLLCは常に法人であるから、法人課税となる。太郎は、この法人であるLLCから利益の分配金として送金された金額を配当所得とすべきである。」というものです。ところが、同じ日本の税務上の取り扱いであっても「アメリカの居住者であるジャックは、このLLCの不動産賃貸業について生じた損益をジャック個人の所得とすることができる。なぜなら、日米所得税条約によって、このLLCの構成員としてのアメリカの居住者であるジャックは構成員課税(パス・スルー課税)を受けることが出来る。」というものです。このように、同じアメリカLLCの活動から生じた損益でも、その構成員が日本の居住者であれば、その日本居住者構成員に帰属する部分は、法人課税となり、その構成員がアメリカの居住者であれば、そのアメリカ居住者構成員に帰属する部分は、構成員課税(パス・スルー課税)となるのです。

  

脚注
 
注1 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(平成16年3月30日条約第2号)第4条第6項(a)号は、読み難い規定ですが、要は、そういう意味です。原文は、次の通りです。「6 この条約の適用上、(a)一方の締約国 [注:日本] において取得される所得であって、(i)他方の締約国[注:アメリカ]において組織された団体 [注:アメリカのLLC] を通じた取得され、かつ、(ii) 当該他方の締約国 [注;アメリカ] の租税に関する法令に基づき当該団体 [注:アメリカのLLC] の受益者、構成員又は参加者 [注:ジャック] の所得として取り扱われるものに対しては、当該一方の締約国 [注:日本] の租税に関する法令に基づき当該受益者、構成員、又は参加者の所得として取り扱われるか否かにかかわらず、当該他方の締約国 [注:アメリカ] の居住者である当該受益者、構成員又は参加者 [ジャック] ・・・の所得として取り扱われる部分についてのみ、この条約の特典・・・が与えられる。
 
   
   

 

 


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