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大塚正民の考古学と考古学の広場

第45回 国際法務その11: 会社法

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

 

日本の会社法上の「会社」には、株式会社と持分会社の2つがあり、どちらも「法人」です注1)。日本の法人税法上の「法人」には、内国法人と外国法人の2つがあり、どちらも「法人税の納税義務者」です注2)。つまり、日本においては、法人の所得は「団体」としての法人の所得であって、その団体の「構成員注3)」の所得とは別個の所得とされ、「団体課税」としての「法人税」が課税されます。
これに対して、アメリカの各州法上の事業組織体(business entity)として「Limited Liability Company: LLC」という組織体があります。LLCはアメリカの会社法上の「会社
注4)」です。しかし、アメリカの連邦所得税法上は、LLCは必ずしも「団体課税」に服する訳ではありません。LLCの所得は「団体」としてのLLC自体の所得とするか(「団体課税」に服するのか)、それとも、そのLLCの「構成員」の所得とするか(「構成員課税」すなわち「パス・スルー課税(pass-through taxation)」に服するのか)、いずれかをそのLLCが選択できるのです注5)。
ところが、アメリカのLLCを日本の税法上どのように扱うかについては、「国税庁の質疑事例」が、「・・・LLCが米国の税務上、法人課税またはパス・スルー課税のいずれの選択を行ったかにかかわらず、原則的には我が国の税務上、外国法人・・・として取り扱うのが相当です。・・・」との立場をとっています。
ここで問題です。日本の居住者太郎がアメリカの居住者ジャックと共同でアメリカ・ニューヨーク州法上のLLCを設立し、そのLLCはアメリカの税務上の「構成員課税」すなわち「パス・スルー課税」を選択したとします。このLLCの不動産賃貸業について生じた損益を太郎は日本の所得税の計算上の不動産所得として申告することができるでしょうか(たとえば、日本の不動産所得と損益合算ができるでしょうか、あるいは、日本の総所得金額の計算上の損益通算
注6)ができるでしょうか)?現在のところ、答えは「太郎は、このLLCの不動産賃貸業について生じた損益を日本の所得税の計算上の不動産所得として申告することが出来ない。単に、このLLCから利益の分配金として送金された金額を配当所得として申告すべきである。」というものです。なぜなら、そのLLCがアメリカの税務上、団体課税または構成員課税のいずれの選択を行ったかにかかわらず、日本の税務上、外国法人として取り扱われることになっているからです。つまり、上記の国税庁の質疑事例によれば、このLLCの不動産賃貸業について生じた損益は、日本の税務上は、構成員である太郎に帰属するのではなく、外国法人としてのLLC自体に帰属するのであって、単に、このLLCから構成員である太郎に対する利益の分配金として送金された分だけが、外国法人からの配当として太郎の配当所得になる、とされているからです。このような国税庁の立場は、現在のところ、裁判所によって是認されています注7)。

脚注
 
注1 会社法第3条:会社は、法人とする。
 
注2 ただし、「公共法人」だけは例外です。法人税法第4条第2項:[法人税法第2条第5号に定義されている]公共法人は、・・・法人税を納める義務がない。
 
注3 団体の「構成員」とは、その団体が「株式会社」であれば「株主」、その団体が「持分会社」であれば「社員」を指します。
 
注4 したがって、原則として、「構成員」は「有限責任」であって、「会社の債務」について、出資額を超える責任を負いません。
 
注5 財務省規則(Treasury Regulations)によって、このような選択が認められています。いわゆるチェック・ザ・ボックス・レギュレーションズ(the check-the-box regulations)と称されている財務省規則です。Reg. Secs.301.7701-1~4.
 
注6 所得税法第69条第1項:総所得金額・・・を計算する場合において、不動産所得に金額・・・の計算上生じた損失の金額があるときは、・・・これを他の各種所得の金額から控除する。
 
注7 たとえば、平成19年10月10日東京高等裁判所判決(裁判所ホームページ行政事件裁判例集:東京高等裁判所平成19年(行コ)第212号所得税更正処分等取消請求控訴事件)
 
   
   

 


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更新日:2012/10/30