第7回の内部告発者法(その7)「アメリカの内部告発義務法」において「1934年証券取引所法Section
10A」を取り上げました。その際に、次のように述べました。
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1995年12月22日に当時の大統領クリントンの拒否権を覆して「私的証券訴訟改革法(Private
Securities Litigation Reform Act of
1995)」が成立しました。この法律は、その名が示すように、詐欺的な証券取引によって損害を蒙ったとして投資家たち(実際はいわゆる訴訟専門家弁護士たち)が証券発行会社の監査人である公認会計士(および取締役などの関係者たち)を訴える団体訴訟(class
action)の手続を「改革」すること(実際は「制限」すること−クリントンが拒否権を発動したのも「制限」することに反対したからです。)を目的としたものですが、そのSection
301(a)で1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of
1934)に新たにSection 10A(15 U.S.C. Section
78j-1)を追加する改正を行い、「被監査会社の違法行為を監査人が内部告発する義務」を新設しました。つまり、この法律は、一方において、監査人である公認会計士を訴える団体訴訟の手続を制限することによって監査人である公認会計士の責任を軽減したのですが、他方において、この内部告発義務を課すことによって監査人である公認会計士の責任を強化したのです。
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注意すべきことは、この「1934年証券取引所法Section
10A」は「いわゆる継続企業としての存続能力」に関する「休戦協定」でもあったことです。ある企業が倒産すると、その企業の株主たち(投資家たち)は、ディープ・ポケット(deep
pocket:
支払能力のある標的)としてその企業の監査人(多く場合、大手会計事務所)を被告とする証券民事訴訟を提起し、とくにその監査人意見が無限定意見であった場合には、監査人の損害賠償責任が認められることが多かったのです。そこで上記Section
10Aは、「監査人に対し、被監査会社の継続企業としての存続能力について重大な疑いがあるかどうかを積極的に評価することを要求した」のです(注1)。もし存続能力について重大な疑いがあると結論するならば、監査報告書で、例えば、以下のように指摘(監査報告書におけるこのような指摘を「ゴーイング・コンサーン・注記」と呼んでいます。)するものとされています(注2)。「ABC会社の財務諸表は、同社が継続企業として存続することを前提に作成されている。財務諸表の注記Xで明らかなように、同社は数年間連続して営業損失に陥り、かつ、純資本は赤字なので、継続企業としての存続能力に重大な疑いがある。」そして、このような指摘のない無限定適正監査意見の場合は、少なくとも次期事業年度中は(during
the ensuing fiscal
year)継続企業としての存続能力を事実上保証した、と解され、逆に、たとえ無限定適正監査意見であっても、次期事業年度よりも後の年度については「継続企業としての存続能力」を保証した、とは解してはならない、ということになっています(注3)。
脚注
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注1 |
Section 10A of the
Securities Exchange Act of 1934, 15 U.S.C. Section
78j-1: Audit Requirements.
(a) In general
Each audit required pursuant to this chapter of the
financial statements of an issuer by a registered public
accounting firm shall include, in accordance with
generally accepted auditing standards, …
(3) an evaluation of whether there is substantial doubt about the ability
of the issuer to continue as a going concern during the
ensuing fiscal year.
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注2 |
千代田邦夫、アメリカ監査論、第16章 企業の存続能力についての監査、中央経済社、平成6年12月15日、542頁以下。
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注3 |
わが国の「ゴーイング・コンサーン・注記」については、「財務諸表等規則」第8条の27を参照。
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