大塚正民の法考古学と税考古学の広場
贈与と税金その6:
離婚の際の財産分与(アメリカ)
大塚 正民
大塚正民
法律会計事務所
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夫ジャックが妻ベテイとの離婚に際し、以前に金5萬ドルで購入し、今では時価が金10萬ドルに値上りしているジャック名義のX社株式をベテイに財産分与し、その直後にベテイはこのX社株式を第三者に金10萬ドルで売却しました。1962年のアメリカ連邦最高裁(Davis判決)(注1) は、この財産分与は夫ジャックから妻ベテイに対するこのX社株式の有償譲渡である、と判示しました。つまり、前回の[贈与と税金:その5]で述べた日本の最高裁の判例と同じように、財産分与を普通の売買と同じ有償譲渡であると判示したのです。有償譲渡とされた以上、贈与税は問題とならず、このX社株式に生じている値上がり益(増加益)5萬ドルに対する所得税が問題となりました。結論として、Davis判決では、夫ジャックが値上がり分(増加益)5萬ドルについて所得税を支払い、妻ベテイは譲渡所得ゼロとなったのです。ところが日本の場合とは異なって、アメリカではこのDavis判決を覆す立法が行われました(注2) 。1984年の税制改正によって創設された内国歳入法典1041条は、次のように規定しています。(a) 離婚に伴って夫婦の一方から他方へ移転した財産については、移転者側には「利得もなければ損失もないものとする」。(b) 移転を受けた者は、「移転者の取得価額をそのまま引き継ぐものとする」。したがって現在の税法の下では、妻ベテイが値上がり分(増加益)5萬ドルについて所得税を支払い、夫ジャックは譲渡所得ゼロとなります。前回の[贈与と税金:その5]で述べましたように、現在の日本では、財産分与を有償譲渡とし、分与者側に譲渡所得税を課税し、そのような税務上の取り扱いを知らなかった場合に、「要素の錯誤」で財産分与を無効としているのです。アメリカの制度と日本の制度のどちらが望ましいでしょうか?私はアメリカの制度の方が望ましいと思います。これからは日本でもいわゆる熟年離婚が増加するだろうといわれていますが、熟年離婚で問題になるのは財産分与です。例えば、長年住み慣れた夫名義のマイホームを妻に財産分与すれば、そのマイホームが値上がりしている限り、夫に譲渡所得税が課税されるのが今の日本の制度です。アメリカの制度では、夫に譲渡所得税は課税されず、妻もそのマイホームに住み続ける限り(つまり、第三者に売却しない限り)、譲渡所得税も課税されないのです。(もちろん、第三者に売却すれば、夫の所有時代の増加益も含めて、譲渡所得税が課税されます。)
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脚注
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注1 |
U.S. v. Davis, 370 U.S. 156 (1962).
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注2 |
Section 1041 TRANSFERS OF PROPERTY BETWEEN SPOUSES OR INCIDENT TO DIVORCE
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(敬称略)
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