第37回において強調した点ですが、今度の「国際法務シリーズ」で取り上げる法律は「国際法」ではなく、すべて「国内法としての日本法」です。この「日本法」を14種類(分野)に分類して、これまでに「独占禁止法」、「外国為替法」、「税法」、「会社法」の4つを扱いました。5つ目は「労働法」です。
今から約17年前の1993年3月に当時ニューヨークに住んでいた私は、「現在も日本は終身雇用の国で米国は解雇自由の国か?」と題で「判例に見る日米文化比較」というエッセイを発表したことがあります。そこでの結論は、「現在でも日本は終身雇用の国で米国は解雇自由の国であるとする常識があるが、この常識が現実の社会において揺さぶられている。これまでの常識が覆るのも時間の問題と言えよう。」というものでした(注1)。
それから約17年を経た今日、「現在でも日本は終身雇用の国である」という常識はすでに覆っているといって良いでしょう。つまり、日本における終身雇用制は「正規従業員」ないし「正社員」を基礎とする制度でしたから、「非正規従業員」ないし「派遣従業員」が著しく増加した今日では、日本を終身雇用制の国であると感じる人々は少ないのではないでしょうか。もっとも、「正規従業員」ないし「正社員」に関する限り、いわゆる解雇権の濫用の理論(注2)の適用によって終身雇用制が現在も維持されているようです。例えば、労働契約法(注3)第16条は、次のように規定しています。「解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」この規定は、解雇に関する日本の従来の判例の立場を成文化したものです。従来の判例の立場は、これまでのところ終身雇用制を前提としています。したがって、終身雇用制がこれだけ影が薄くなった今日では、「社会通念上相当であると認められない場合」が少なくなって行くだろうと考えられます。
これに対し、例えば、ニューヨーク州などでは、「雇用期間が予め定められている場合を例外として、雇用契約は雇主からでも被用者からでもいつでも何らの理由なしに解約できる、というのがニューヨーク州における確立した法理である。」とされています(注4)。「この法理は、一方において被用者が雇主に拘束されることなく自由に自己の職業を選択できるようにするとともに、他方において雇主が自由に自己が最善と信ずる措置を採ることができるようにすることを目的とする。」ということです。
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