今日の社会では、紛争を解決するための制度として、大きく分けて2つの制度があります。訴訟制度とADR制度です。訴訟制度とは「裁判」による紛争解決制度ですが、ADR制度とは、「裁判以外の方法」による紛争解決制度です。「裁判以外の方法」を英語でAlternative
Dispute
Resolution(代替的紛争解決方法)と称していることから、この英語の頭文字をとってADRと略称され、さまざまなADR(注1)を総称してADR制度と呼ぶのです。訴訟制度においては、厳格な手続を法律が定めており、当事者(訴える側と訴えられる側)の意向は、原則として、問題になりませんが、ADR制度においては、当事者の意向が、大幅に認められます。たとえば、訴訟制度であれば、訴えられる側の意向とは関係なく、訴える側は「裁判」を起こすことが出来ますが、ADRの1つである仲裁においては、当事者間に「仲裁合意」つまり、訴えられる側が「仲裁によって紛争を解決することに同意していること」が必要となっています(注2)。このような訴訟制度とADR制度との違いは、最近において、国際的な紛争の解決方法として、訴訟制度よりもADR制度が好まれる理由となっています。つまり、訴える側と訴えられる側とが国を異にする場合、訴訟であれば、どちらかの国の訴訟制度によらなければなりませんし、その訴訟制度においては、厳格な手続を法律が定めていますが、ADRであれば、いろいろなADR(注3)があり、しかもADRが行われる国も第三国とすることも出来ます。日本の株式会社である甲株式会社とアメリカの会社であるABC社が商取引契約を結んだ場合、この商取引契約から生じる紛争について、第三国であるイギリスのLondon
Court of International
Arbitration(LCIA)での仲裁によって解決する旨の合意をすることが出来ます。ただし、たとえば、日本の会社である乙株式会社が製造・輸出した機械でアメリカの住民であるXが怪我をした、ということでXが損害賠償を求めて乙株式会社をアメリカの裁判所に訴える場合のように、そもそもADRが問題にならない場合もあります。そこで、次回からは、まず、国際的な紛争解決制度としてこれまで伝統的に用いられて来た、国際訴訟制度を取り上げ、その後に、国際的な紛争解決制度として最近盛んに利用されるようになってきた、国際ADR制度を取り上げることにしましょう。
脚注
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注1 |
ADRの例としては、「仲裁」、「調停」、「あっせん(斡旋)」などがあります。平成16年12月1日法律第151号として制定された「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」は、「いわゆるADR法」と呼ばれています。同法の第1条は、裁判外紛争解決手続(いわゆるADR)とは、「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」である、と定義しています。
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注2 |
平成15年8月1日法律第138号として制定された「仲裁法」の第2条は、「仲裁合意」とは、「既に生じた民事上の紛争または将来において生ずる一定の法律関係に関する民事上の紛争の全部または一部の解決を一人または二人以上の仲裁人にゆだね、かつ、その判断(仲裁判断)に服する旨の合意」である、と定義しています。
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注3 |
国際的なADRの例としては、国内的なADRの例と同じように、「仲裁(arbitration)」、「調停(mediation)」、「あっせん(conciliation)」があります。
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