第6の主要な問題としての立法管轄権
日本は、47の都道府県からなる単一国家です。これに対し、アメリカ合衆国は、50の州からなる連邦国家です。「日本法」という場合、日本という単一国家が制定した「国家法」だけが問題となりますが、「アメリカ法」という場合、連邦国家が制定した「連邦法」の外に、各州が制定した「州法」が別にあります。つまり、アメリカの「州」は、日本の「都道府県」とは異なって、いわば一種の「国家」なのです。そこで、そのような一種の「国家」としての「州」が立法できる範囲が問題になります。たとえば、ロング・アーム法(long
arm statute)と呼ばれる州法があります。「ある州の非居住者が、その州と最小限度の接触(minimum
contact)を有すれば、そのような非居住者に対して、その州の裁判所の司法管轄権が及ぶ」とする州法です。あたかも州が長い腕(long
arm)を伸ばして州外の被告を自州の司法管轄内に取り込むように見えることから、このように呼ばれる訳です。この長い腕をどこまで伸ばせるかが「立法管轄権」の問題なのです。
第7の主要な問題としての国家行為
国際訴訟の場合、国家行為に関連して実務上とくに問題になるのが、「国有化」と「主権免除」です。
-
「国有化」が問題になった裁判として「日章丸事件」があります。1953年(昭和28年)3月、出光興産は、石油を国有化したイランから石油を買い入れ、これを「日章丸二世」という船で日本に輸送しました。これに対し、英国アングロ・イラニアンは、この石油の所有権を主張し、出光興産を提訴しました。東京地方裁判所は、「申請人[英国アングロ・イラニアン]は石油国有化法により、イラン国における石油採取権その他前記利権協約による一切の利権を喪失し、本件石油につき所有権を取得することはできなかったものと認めなければならない。」と判示して、「被申請人[出光興産]の[積荷である石油]に対する占有を解き、申請人の委任する執行吏に保管を命ずる。被申請人は[積荷である石油]につき譲渡その他一切の処分行為をしてはならない。」との判決を求めた英国アングロ・イラニアンの仮処分申請を却下しました(注1)。
-
「主権免除」に関しては、いわゆる「主権免除法(注2)」があります。この法律は、ある国家の裁判所が他の国家に対して民事裁判権を行使し得るかという、これまで「主権免除(国家免除)」として議論されてきた問題を規律するもので、その内容は、いわゆる「国連国家免除条約(注3)」を踏まえたものです。