前々回(第61回)から3回にわたって取り上げている「国防法」には、主な問題として、つぎの3つがあります。第1は、かってのココム、現在のワッセナー・アレンジメントに基づく立法である「日本の安全保障貿易管理法」、第2は、米国のエクソン・フロリオ条項を真似た「和製エクソン・フロリオ条項」、第3は、米国企業との契約でよく見られる輸出禁止条項に基づく「日本企業の契約違反責任」です。今回は、第3の「日本企業の契約違反責任」を取り上げます。
たとえば、ソフトバンクのソフトウエア使用許諾契約書(注1)には、「禁止事項」の欄に「お客様は、以下の規制を遵守して頂くよう御願い申し上げます。」とした上で、@日本の安全保障貿易管理法を遵守することの外に、A「本ソフトウエア製品を米国政府による輸出管理規制の対象国への輸出および再輸出は許可されません。また、本ソフトウエアを米国政府が頒布を禁止している人物に頒布することは許可されておりません。」とあり、「本契約の終了」の欄に「お客様が上記に記載された本契約の定めの一条項にでも違反した場合、本契約は自動的に終了し、本使用権は消滅します。」とあります。上記@の禁止は、日本の企業として当然の措置ですが、上記Aの禁止は、米国企業との契約でよく見られる輸出禁止条項に基づく「日本企業の契約違反責任」を回避するためのものと思われます。つまり、ソフトバンクが「本ソフトウエア」の一部または全部を米国企業から提供を受けるに際して締結した契約において、(1)提供元である米国企業が米国法上の輸出禁止を遵守するために、(2)提供先であるソフトバンクにも米国法上の輸出禁止を遵守させなければならず、(3) 提供元と提供先とでその旨を約束し(輸出禁止条項)、(4) 提供先であるソフトバンクは、この輸出禁止条項に基づく契約違反責任を回避するために、(5) 「お客様」にも「米国法上の輸出禁止の遵守」を求めているという訳です。このように、米国企業と取引関係にある日本企業は、@日本の安全保障貿易管理法を遵守することの外に、A米国の安全保障貿易管理法を遵守することを要請されていることに留意しなければなりません(注2)。
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