国際法務で取り扱う「日本法」の「すべての事柄(everything)」を14種類(分野)に分類し、今回は13番目の分野である業法(規制法)(Regulated
business law)を取り上げます(try to know something about
everything)。ただし、今回取り上げる業法(規正法)は、消費者保護の分野に限ります。その点では、次回で取り上げる消費者法(Consumer
protection
law)と密接に関係しています。故田中英夫教授および故竹内昭夫教授の共著である「法の実現における私人の役割(注1)」に、つぎのような指摘があります。「アメリカで弁護士報酬のあり方をはじめとして私人が法を利用しやすくするための制度的工夫がこらされ、法律について常にそのenforceability,実効性が問われ、さらに二倍、三倍賠償や最低賠償額の法定等の形で法の利用を促進するためのインセンティヴを加えようという努力がなされているのは、私人が政府と並んで法の目的の実現の一翼を担うものとして位置づけられているからであろう。これに対してわが国では、今日でも、法を動かすのは治者としての行政庁であるという感覚が強く、それを反映して、私人による法の積極的な運用を促進するための制度的工夫は極めて乏しい。(注2)」
両教授がこのように述べたのは、今から25年以上も前のことです。その頃は、消費者保護の分野でのプレーヤーは、もっぱら業法(規制法)を管轄する治者としての行政庁でした。
たとえば、業法(規制法)には、主なものとして、つぎのようなものがあります。まず、その名のとおり「なになに業法」という法律で、たとえば、「建設業法(注3)
」、「貸金業法(注4)」、「保険業法(注5)」、「警備業法(注6」、「宅地建物取引業法(注7)」、「旅館業法(注8)」、「旅行業法(注9)」、「信託業法(注10)」、「クリーニング業法(注11)」、「質屋営業法(注12)」、「探偵業の業務の適正化に関する法律(注13)」など。つぎに、「業法」という名はありませんが、いろいろな業種を規制している法律で、たとえば、「銀行法(注14)」は、銀行業に関する法律ですし、「金融商品取引法(注15)」は、金融商品取引業に関する法律です。これらの業法は、管轄する治者としての行政庁が業者を指導・監督・検査するという形で「顧客保護」を図っています(注16)。たとえば、「中国ギョーザ事件」の場合には、厚生労働省が輸入業者に対し販売中止を要請しています(注17)。さらに2009年9月には「消費者庁(注18)」が発足しています。
しかし、わが国も変わりました。今日、私人(消費者・消費者団体)が行政庁(消費者庁・その他の行政庁)と並んで法の目的(消費者保護)の実現の一翼を担うプレーヤーとして位置づけられているようになりつつあります。今日、あらゆる分野に「官から民へ」の動きが見られますが、消費者保護の分野でも「官から民へ」の動きがあることは、次回で取り上げる予定のいわゆる消費者団体訴訟制度の展開に見られる通りです。