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大塚正民の考古学と考古学の広場

第67回 国際法務その33: 業法(規正法):消費者保護の分野:官から民へ 

2012/3/1

大塚 正民
大塚正民 法律会計事務所
 

国際法務で取り扱う「日本法」の「すべての事柄(everything)」を14種類(分野)に分類し、今回は13番目の分野である業法(規制法)(Regulated business law)を取り上げます(try to know something about everything)。ただし、今回取り上げる業法(規正法)は、消費者保護の分野に限ります。その点では、次回で取り上げる消費者法(Consumer protection law)と密接に関係しています。故田中英夫教授および故竹内昭夫教授の共著である「法の実現における私人の役割(注1)」に、つぎのような指摘があります。「アメリカで弁護士報酬のあり方をはじめとして私人が法を利用しやすくするための制度的工夫がこらされ、法律について常にそのenforceability,実効性が問われ、さらに二倍、三倍賠償や最低賠償額の法定等の形で法の利用を促進するためのインセンティヴを加えようという努力がなされているのは、私人が政府と並んで法の目的の実現の一翼を担うものとして位置づけられているからであろう。これに対してわが国では、今日でも、法を動かすのは治者としての行政庁であるという感覚が強く、それを反映して、私人による法の積極的な運用を促進するための制度的工夫は極めて乏しい。(注2)
両教授がこのように述べたのは、今から25年以上も前のことです。その頃は、消費者保護の分野でのプレーヤーは、もっぱら業法(規制法)を管轄する治者としての行政庁でした。
たとえば、業法(規制法)には、主なものとして、つぎのようなものがあります。まず、その名のとおり「なになに業法」という法律で、たとえば、「建設業法(注3) 」、「貸金業法(注4)」、「保険業法(注5)」、「警備業法(注6」、「宅地建物取引業法(注7)」、「旅館業法(注8)」、「旅行業法(注9)」、「信託業法(注10)」、「クリーニング業法(注11)」、「質屋営業法(注12)」、「探偵業の業務の適正化に関する法律(注13)」など。つぎに、「業法」という名はありませんが、いろいろな業種を規制している法律で、たとえば、「銀行法(注14)」は、銀行業に関する法律ですし、「金融商品取引法(注15)」は、金融商品取引業に関する法律です。これらの業法は、管轄する治者としての行政庁が業者を指導・監督・検査するという形で「顧客保護」を図っています(注16)。たとえば、「中国ギョーザ事件」の場合には、厚生労働省が輸入業者に対し販売中止を要請しています(注17)。さらに2009年9月には「消費者庁(注18)」が発足しています。
しかし、わが国も変わりました。今日、私人(消費者・消費者団体)が行政庁(消費者庁・その他の行政庁)と並んで法の目的(消費者保護)の実現の一翼を担うプレーヤーとして位置づけられているようになりつつあります。今日、あらゆる分野に「官から民へ」の動きが見られますが、消費者保護の分野でも「官から民へ」の動きがあることは、次回で取り上げる予定のいわゆる消費者団体訴訟制度の展開に見られる通りです。


脚注
 
注1

田中英夫・竹内昭夫、法の実現における私人の役割、東京大学出版会、1987年4月25日。
 

注2

同書、はしがき(ii)
 

注3

昭和24年5月24日法律第100号。
 

注4

昭和58年5月13日法律第32号。
 

注5

平成7年6月7日法律第105号。
 

注6

昭和47年7月5日法律第117号。
 

注7

昭和27年6月10日法律第176号。
 

注8

昭和23年7月12日法律第138号。
 

注9

昭和27年7月18日法律第239号。
 

注10

平成16年12月3日法律第154号。
 

注11

昭和25年5月27日法律第207号。
 

注12

昭和25年5月8日法律第158号。
 

注13

平成18年6月8日法律第60号。
 

注14

昭和56年6月1日法律第59号。
 

注15

昭和23年4月13日法律第25号。かっては「証券取引法」という名称でした。
 

注16

業法から迫る顧客保護、法令・監督指針・検査マニュアルの読み方・使い方(1)、(2)、(3)、金融財政事情2009年12月14日号10頁以下、2009年12月21日号41頁以下、2010年1月4日号51頁以下。
 

注17

厚生労働省ホームページ:http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/01/h0130-1.html :最終検索2012年3月1日。なお、中国ギョーザ事件に見る企業・行政の姿勢に対する憂慮―増岡直二郎:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20080212/293559/ :最終検索2012年3月1日。
 

注18

ウィキペディア:消費者庁:最終検索2012年3月1日。
 

 
   
   


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更新日:2012/10/30