これから何回かにわたって「信託」を取り上げることにします。父親甲野太郎が娘甲野花子に対して太郎が所有している土地・建物を贈与すれば、この土地・建物の価格を基準として、花子には日本の贈与税が課せられます注1
。それでは、太郎が信託会社X株式会社との間で「信託契約」を結び、この「信託契約」によれば、「委託者」太郎は「受託者」X株式会社に対して太郎が所有している土地・建物の所有者名義を移転し、X株式会社は、この土地・建物を第三者に賃貸し、賃貸料収入から必要経費(X株式会社の報酬を含む。)を差し引いた利益の全額を「受益者」花子に分配することにすれば、どうでしょうか? やはり、この土地・建物の価格を基準として、花子には日本の贈与税が課せられます注2。つまり、日本の贈与税の観点からすれば、この「信託」の効果は、あたかも「委託者」太郎から「受益者」花子に対して、直接に、この土地・建物の贈与があった場合を同じと見なされる訳です。太郎が花子に対して、直接に、この土地・建物の贈与をしなかったのは、花子が自分自身でこの土地・建物を第三者に賃貸し、賃貸料収入から必要経費(この場合は、X株式会社の報酬は不要となる。)を差し引いた利益の全額を自分自身のものにするだけの才覚がないし、それよりは「信託報酬」を支払ってもX株式会社の才覚に頼った方が結局は花子の利益になる、と太郎が考えたからでしょう。このように、たしかに日本の贈与税の観点からすれば、「信託」は「直接の贈与」と効果が同じですが、実際には、その他の点ではさまざまな違いがあります。とくに、国際的な観点からすれは、大きな違いがあります。このような違いをこれから順次取り上げていくことにします注3。
脚注
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注1 |
日本には「贈与税法」という法律はなく、「贈与税」は「相続税法」に規定されています。相続税法第1条の4は、「贈与税の納税義務者」は「財産の取得者(受贈者)」である、と規定しています。ところが、たとえばアメリカでは、連邦税を規定する「内国歳入法典(Internal
Revenue Code)」のSubtitle B – Estate and Gift Taxes
Chapter 12 – Gift Tax
の§2501は、「贈与税の納税義務者」は「財産の移転者(贈与者)」である、と規定しています。
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注2 |
相続税法第9条の2は、「信託の受益者」は「信託の設定者」から信託財産を「贈与」によって取得したものとみなす、と規定しています。
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注3 |
樋口範雄、入門信託と信託法、弘文堂、平成19年(2007年)12月
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