知財問屋 片岡秀太郎商店  会員登録(無料)
  chizai-tank.com お問い合わせ
HOME 右脳インタビュー 法考古学と税考古学の広場 孫崎享のPower Briefing 原田靖博の内外金融雑感 特設コーナー about us  
 

大塚正民の考古学と考古学の広場

90回 信託その11:信託と税務(日米比較その6)

2014/2/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

アメリカでは「適格国内信託(Qualified Domestic Trust: QDOT (キューダット)と略称されます。)」という信託があります。たとえば、アメリカ人(夫)と結婚した日本人(妻)が夫の遺産を相続したときにその妻の相続分がアメリカの遺産税の課税対象とならないためなどに利用されます。日本では遺産を取得した「相続人」に「相続税」が課されますが、アメリカでは「被相続人=死者」が残した遺産に「遺産税」が課されます。「夫婦間の財産の相続」に関する「遺産税」は、つぎのような仕組みになっています。
 

原則:

「相続人」が「被相続人=死者」の「配偶者」であれば、配偶者が相続した財産は「配偶者控除」として全額が遺産から控除されます注1。つまり、「夫婦間の財産の相続による移転」は「全額非課税」となるのです。この場合の「夫婦」には「同性婚の夫婦」も含まれます注2

例外:

ただし、その「配偶者」がアメリカ国籍を有しない場合には、このような「配偶者控除」は認められません注3

例外の例外:

アメリカの国籍を有しない「配偶者」が、相続した財産を「適格国内信託」に預けいれると、この預け入れられた財産には「配偶者控除」が認められます注4

ちなみに、日本では財産の贈与を受けた「受贈者」に「贈与税」が課されますが、アメリカでは財産の贈与を行った「贈与者」に「贈与税」が課されます。「夫婦間の財産の贈与」に関する「贈与税」は、つぎのような仕組みになっています。
 

原則:

「受贈者」が「贈与者」の「配偶者」であれば、配偶者が受贈した財産は「配偶者控除」として全額が贈与財産から控除されます注5。つまり、「夫婦間の財産の移転」は、「相続による移転」の場合のみならず「贈与による移転」の場合にも、「全額非課税」となるのです。この場合の「夫婦」には「同性婚の夫婦」も含まれます注6

例外:

ただし、その「配偶者」がアメリカ国籍を有しない場合には、このような「全額非課税」となる「配偶者控除」は認められません注7

例外の例外:

アメリカの国籍を有しない「配偶者」の場合の「配偶者控除」は認められませんが、「年間贈与」に一般的に認められる「贈与税基礎控除」を増額した「贈与税特別基礎控除」が適用されます。この増額された「贈与税特別基礎控除は、現在のところ、13万6,000ドルです注8


脚注
 
注1

内国歳入法典§2056(a) Allowance of marital deduction
For purposes of the tax imposed by section 2001, the value of the taxable estate shall, … be determined by deducting from the value of the gross estate an amount equal to the value of any interest in property which passes or has passed from the decedent to his surviving spouse, … (配偶者控除 §2001に定める連邦遺産税の課税にあたっては、課税対象遺産の価値は、総遺産の価値から次の金額を控除した金額とする。すなわち、被相続人=死者からその者の配偶者に移転すべき、または、すでに移転した財産的権益の価値に等しい金額。)

注2

U.S. v. Windsor, 133 S.Ct. 2675 (2013).

注3

内国歳入法典§2056(d)(1)(A) Disallowance of marital deduction where surviving spouse not United States citizen
Except as provided (2), if the surviving spouse of the decedent is not a citizen of the United States – (A) no deduction shall be allowed under subsection (a)… (生存配偶者がアメリカの国籍を有しない場合には配偶者控除は認められない。下記の(2)の適用がある場合を除いては、生存配偶者がアメリカの国籍を有しない場合には上記の(1)に規定する配偶者控除は認められないものとする。)

注4

内国歳入法典§2056(d)(2) Marital deduction allowed for certain transfers in trust
Paragraph (1) shall not apply to any property passing to the surviving spouse in a qualified domestic trust… (一定の信託に預けられた財産には配偶者控除がみとめられる。上記の(1)の規定は、その生存配偶者が適格国内信託に預け入れた財産については適用しない。) 。

注5

内国歳入法典§2523(a) Gift to Spouse Allowance of deduction
Where a donor transfers during the calendar year by gift an interest in property to a donee who at that time of the gift is the donor’s spouse, there shall be allowed as a deduction in computing taxable gifts for the calendar year an amount with respect to such interest equal to its value … (配偶者に対する贈与 配偶者控除 贈与者がその贈与時にその配偶者である者に財産的権益を贈与した場合には、その贈与した財産的権益の価値に等しい金額を配偶者控除の金額とする。)

注6

U.S. v. Windsor, 133 S.Ct. 2675 (2013).

注7

内国歳入法典§2523(i)(1) Disallowance of marital deduction where spouse not citizen
If the spouse of the donor is not a citizen of the United States – (1) no deduction shall be allowed under this section … (配偶者がアメリカの国籍を有しない場合には配偶者控除は認められない。配偶者がアメリカの国籍を有しない場合には, (1) 本条に規定する配偶者控除は認められないものとする。)

注8

内国歳入法典§2523(i)(1) Disallowance of marital deduction where spouse not citizen
If the spouse of the donor is not a citizen of the United States –(2) section 2503(b) shall be applied…(配偶者がアメリカの国籍を有しない場合には配偶者控除は認められない。配偶者がアメリカの国籍を有しない場合には, … (2)[配偶者控除の代わりに]§2503(b)…〔年間贈与について一般的に認められる贈与税控除の金額1万ドルを10万ドルに増額して、かつ、インフレーションを加味して特別増額した贈与税特別基礎控除を適用する。〕

   
   





大塚正民弁護士へのご質問は、こちらからお願い致します。  <質問する

  質問コーナー(FAQ)
  

ご質問は、編集部の判断によって、プライバシー等十分配慮した上で、一部修正・加筆後、サイトへ掲載させて戴く場合がございますので、予めご了承ください。

本メールの交換はすべて編集部を介して行われます。

すべてのメールには、お返事できない場合もございます。ご了承下さい。

 

 

 

chizai-tank.com

  © 2006 知財問屋 片岡秀太郎商店

更新日:2014/01/31