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大塚正民の考古学と考古学の広場

94回 信託その15:信託と税務(日米比較その10)

2014/6/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

熱心な読者の1人であるMKさんから、つぎのようなご質問がありました。〔以下は、原文のまま〕− 質問があるのですが、日本における「受益者等の存しない信託」に該当する信託のアメリカバージョンについてです。将来生まれる孫を受益者、委託者を祖父、受託者を信託会社とする信託で、@アメリカでは財産を贈与した者が課税されますが、基礎控除等のお話を第85回からされております。この場合の計算として、受益者が存在していない又は確定していないのであれば、単純に受贈者を0人とする、という理解で宜しいのでしょうか。A将来、受益者が存在又は確定することとなった場合、日本では信託に対する権利を新たな受益者が取得することとなったと考えて課税される場合(されない場合もある)と思います。日本では贈与された側が重要であるため、信託会社については特に課税されるという話はここでは出てきません。しかし、アメリカでは、贈与した側が重要であるため、信託会社が関わってくると思います。将来の受益者が実現することとなった場合の課税関係はどのようになるのでしょうか。−
このご質問に対する私の回答は、つぎの通りです。
@につきましては、第85回で検討しました内国歳入法典第2503(b)条が問題となります。つまり、受贈者が何人かが問題になる訳です。「将来生まれる孫」は、そもそも生まれるまでは、受益者ではありませんから、基礎控除上の受贈者にはなりません。したがって「受贈者は0人」です。この「将来生まれる孫」は、すでに受益者に指定されているのだから、何人生まれるかは不確定だとしても、少なくとも1人は受贈者ではないか、との議論に対しては、第88回で検討しましたCrummey trustが問題となります。つまり、「将来生まれる孫」の受益権は、現在権ではなく将来権ですから、いずれにせよ「将来生まれる孫」は基礎控除上の受贈者にはなりません。
Aにつきましては、これも第85回で検討した点ですが、アメリカの場合、信託は独立の法的主体(一種の会社)であることを銘記すべきです。つまり、日本の場合、信託は、原則として、導管(一種の透明体)ですが、アメリカの場合、独立の法的主体ですから、将来の受益者が実現することになった場合でも、独立の法的主体にはとくに変更がないことになります。
かくして、結論は、こうなります。@委託者である祖父が設定した信託は、祖父が贈与税の納税義務者となりますが、基礎控除上の受贈者は0人です。A委託者である祖父が設定した信託は、孫が生まれても、相変わらず、委託者が祖父、受託者が信託会社、受益者が孫という形の独立の法的主体が存続することになりますから、とくに新しい課税関係は生じません。

 



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更新日:2014/05/30