片岡:
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第12回の右脳インタビューはエデルマン・ジャパン株式会社(注1)の熊澤 啓三さんです。本日はご多忙の中、有難うございます。それでは、ご足跡などお聞かせ戴きながらインタビューを始めたいと思います。宜しくお願い致します。
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熊澤:
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はじめからPR(Public Relations)業界を考えていたわけではなく、大学では理学部で地理学を専攻しました。地理学というのは地底から宇宙までの研究領域、つまり地球物理学、地形学、気候学、気象学、天文学といった学問を串刺しにして見るもので、また人の営みの集積でもありますので、理学部の中でも特に文系的な学問でした。そういうこともあり就職活動では理系の中で唯一人、事務職希望として日産に入社し、そこで広報の仕事と出会いました。そしてフライシュマン ヒラード
ジャパン株式会社(注2)を経て、エデルマン・ジャパン株式会社の設立に加わりました。
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片岡:
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最古の学問のひとつといわれる地理学ほどではありませんが、広報も古くから発展し活用されておりますが、それでも広報はイメージし難い面がございます。
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熊澤:
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広報を説明するには、先日の冥王星の問題(注3)を例にすると判りやすいものと思います。勿論、仕掛けた人がいると仮定しての話です。仮に宇宙への興味やロマンを掻き立てたい人がいて、PR会社に依頼したとします。PR会社は『惑星が投票で決まる』という点に着目し、広報戦略を立てます。計画的に情報や研究者のコメント等をリリースして、『ああそうか、惑星を決めるのに選挙があるのだと・・・』とメディアの注目を集めていき、そこで選挙を公開します。メディアは挙って報道するわけです。これを広告に換算すると一体、何億円に相当する効果になるか・・・・
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片岡:
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各社トップニュースで扱い特集なども組まれておりました。そういったことが世界規模で起きたわけですから凄まじい効果ですね。ところで分かりやすく言うと広告と広報の違いとは何でしょうか?
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熊澤:
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広告は全てをコントロールできます。その分コストは高く、日にちが限定されています。また最近は広告に慣れきった視聴者にimpressionを与えることが難くなって来ているという傾向もあり、限界感があります。逆に広報は思ったとおりコントロールできないという脆弱性が特徴です(注4)。反面、記者をinspireすることで報道として伝わり、結果的に視聴者の高い信頼性を獲得することも可能です。また広報では殆ど全てが活動費(人件費)ですので、広告に比べると予算は小さくなります。日本の広告は6兆円程度の市場規模がありますが、PR市場は300〜500億円程度です。尤も、米国のPR市場は数千億円規模と言われていますので、日本の経済規模を考えれば、今後日本のPR市場は5倍〜10倍の成長が期待できます。
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片岡:
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その成長市場に外資系PR会社が参入しているわけですね。日本のPR会社と比べるとどういった特徴があるのでしょうか?
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熊澤:
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日本では、PRは広告の一部で、巨額の広告費を出してくれるクライアントに対するサービスとして行なわれてきた歴史的背景があります。また日本のPR会社の場合は何処のメディアの誰を知っているといった人的なネットワークを重視する傾向があります。一方、外資系はビジョンやコンセプト、ストラテジーといった戦略重視します。私どもはそのバランスをとる意味でも米国人と日本人の二人のトップ体制をとっています。また長期のリティナーをベースとしたコンサルティング・サービスを行なうことで出来るだけ顧客と共通の利害関係を持てるようにしています。更に広報活動の効果測定も行っています。勿論、その分は割高になりますが価値のあることだと思っています。
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片岡:
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まだまだ日本は広報に対する理解が確立していません。数字的な裏づけを行ないながら市場を啓蒙することは素晴しいですね。さて、外資系の場合は進出当初は日本での人脈も弱く戦略面を強調する傾向もあるものと思いますが、実際にはCIAやFBIのOBを積極的に雇い、強力な人脈を戦略的に活用するサービスを提供するPR会社もありますね。
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熊澤:
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Public
Affairs (PA)や企業の渉外活動等のサービスが該当し、弊社もグローバル・グループとしてそのようなセクションを持っています。日本法人にもPAの経験を有するスタッフがおりますが、まだ会社を立上げたばかりですので、本格的なサービスに向け拡充が必要な段階です。勿論、クライアントには出来る範囲を明確に伝え、必要であれば外部とも連携しながら対処しています。
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片岡:
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PR会社は強大な力を持ちます。特に湾岸戦争での原油にまみれた海鵜(注5)や15歳の少女『ナイラ』の証言(注6)は象徴的でしたが、これらは情報操作として後に批判を浴びました。
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熊澤:
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我々は世論を操作する事はありません。あくまでも正しい世論の形成を促す事が役割です。
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片岡:
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しかしながら実際のところ、その判断は非常に難しいのではないでしょうか?
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熊澤:
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その通りです。結局、最終的にはクライアントを信じるしかありません。
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片岡: |
それでは次に危機管理についてお伺いしたいと思います。
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熊澤:
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今の時代は不祥事などのクライシスにどのように対応するかという点に企業の良識や企業文化を如実に見ることが出来、メディアも注目しています。こういった事態に適切に対応するには起こる前からどのような対応をとるのか決めて準備しておく必要があります。そのための社内のコミュニケーション体制を整えるお手伝いをするのもPR会社の重要な業務です。
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片岡: |
M&Aは如何でしょうか?
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熊澤:
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M&Aにおいては、コミュニケーション・プロセスやモニタリングが大切です。メディア対策は勿論、意思決定とコミュニケーションを一元化するwar roomのようなものが必要です。またトランザクションだけでなく買収後の体制作りも重要です。例えばカルロス・ゴーンが日産で最初に実行したことの一つが広報部の改革です。彼は社外に向けた広報体制を立て直すとともに社内のコミュニケーションを確立しました。つまり意思決定を迅速に社員に伝え、心を動かし、実現させる体制を整備したわけです。
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片岡: |
2006年9月19日に発生したタイのクーデター(coup d'etat)でもそうでしたが新しい体制へ移行させるには、指揮や情報伝達の系統を最初に抑え確立することが肝要で、本部の意思が届き難い外資系企業の場合は特に重要です。貴重なお話を有難うございました。
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(敬称略) |
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−完− |
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インタビュー後記
日本企業のトップや政治家のスキャンダルへの弱さは、トップ自身のPRへの理解不足を示しています。熊澤さんによると、日本企業の経営トップは伝えるプロではなく、そういったトレーニングを受けた経験もなく、そもそも言語体系そのものが向いていないそうです。こういった企業トップには、先ず日本語で話す時も英語のような文章の構造で話す訓練を普段から行うことを勧めており、これだけでも大きな効果があるそうです。
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。 |
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脚注
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注1 |
Daniel J. Edelmanが1952年に創立したPRコンサルティング会社で、世界第3位、独立系では最大のPR会社。世界23カ国46拠点、2,200名以上の社員を擁し、年間売上収益約2億9千2百万ドルを誇る。
エデルマン
President & CEO Richard Edelman。
http://www.edelman.com/
エデルマン・ジャパン株式会社
2005年5月設立
代表取締役社長:ロバート・ピカード
デピュティ マネージング ディレクター 熊澤 啓三
http://www.edelman.jp
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注2 |
米Fleishman-Hillard Inc.は、1946年設立、世界35ヶ国・83拠点のネットワークを持つ世界最大のPRファームで、1997年、世界最大のメガエージェンシー(広告会社)であるオムニコムグループ(2005年度の売上105億、従業員6万人超)の一員となる。
http://www.fleishman.com/
http://www.omnicomgroup.com/
フライシュマン ヒラード ジャパン株式会社
1997年設立 代表取締役社長 田中 慎一。
http://www.fleishman.co.jp/
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注3 |
冥王星を巡る問題については以下のサイトをご参照下さい。
AstroArts
http://www.astroarts.co.jp/special/2006planets/index-j.shtml
ewoman 池上彰の『解決!ニュースのギモン』
http://www.ewoman.co.jp/2005_news/gimon/37/index.html
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注4 |
熊澤氏によると、インターネットはメディア的な側面と、一般人を対象とする側面の両面を併せ持つが、エデルマン社の調査では一般のブロガーもプロフェッショナルのように自分の意見に責任を持つ傾向がある。またネット上の言論は、長期的に見れば適切な状態に収束する傾向があるため、広報的なアプローチが有効に働く分野であるとのこと。同社らによる調査結果は下記に公表されている。
http://www.edelman.jp/news/index.html
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注5 |
湾岸戦争の際にサダム・フセイン大統領が油田を破壊した結果、原油が流出し重大な環境汚染が発生したとして油まみれの海鵜の写真が世界中のメディアにセンセーショナルに取り上げられた。しかしながら、実は流出した油は、アメリカ軍の爆撃によるものだった可能性が指摘されている。
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注6 |
湾岸戦争の直前、1990年10月10日に開かれた連邦議会の下院人権委員会でクウェート人の15歳の少女が泣きながら証言する映像が全米に放映され、アメリカの世論に決定的な影響を与えた。クウェート在住の家族がイラクからの報復を受ける恐れがあるとの理由から『ナイラ』という名前のみが明らかにされた少女は、クウェートから命からがら逃げてきて、ボランティアとして働いていた病院に武装したイラク兵が押し入り、保育器の中の赤ん坊を床の上に放り出して殺害したと涙ながらに証言した。ジョージ・ブッシュ大統領をはじめ、政権の高官たちはこのエピソードを繰り返し引用した。しかし戦後、ナイラはクウェートの王家の一員で駐米大使のサウド・ナシール・アル・サバの娘で、アルアダン病院とは無関係で、クウェート政府と契約を結んでいた米国のPR会社、ヒル・アンド・ノウルトンのローリー・フィッツペガド副社長の直接の指導による演技だったことが明らかになった。また殺戮の証拠も見つからず、そもそも保育器そのものがクエートには殆どなかったことも判明した。
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(敬称略)
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片岡秀太郎の右脳インタビューへ |