|
|
プロフィール
1959年、長崎県生れ、日本大学理工学部卒。東京貿易株式会社、日本ランディック株式会社、株式会社ランドビルマネジメントを経て、ラサール
インベストメント
マネージメント代表取締役社長、会長を歴任。2009年7月よりCLSAキャピタルパートナーズフドー株式会社 日本における代表者・マネージング
ディレクターに就任。
|
|
|
|
|
片岡:
|
今月の右脳インタビューは内山 裕敬さんです。内山さんは世界有数の不動産投資会社、LaSalle
Investment Management(注1)(米)の日本代表としてご活躍の後、この度、アジア特化型の投資会社、CLSA
Capital Partners(注2)(仏)に移籍しました。まずはご足跡等お伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
|
内山:
|
1991年、日本ランディックという長銀系の不動産会社にいた時にニューヨーク駐在となりました。同社が米国で行った投資の多くはバブルの崩壊とともに大変な状況に陥っていて、そうした案件の処理のためにアドバイザーとして雇ったのがLaSalleです。1994年、今度はLaSalleから投資案件の紹介がありました。日本企業の多くが引き揚げ、新規投資はとんでもないという時期です。しかも日本企業にとっての不動投資はニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ダラスぐらいだったのですが、彼らが紹介してきたのはテネシー州のメンフィスにあるオフィスビルでした。しかし、彼らの理詰めの投資戦略を聞いているうちにだんだんその気になり、幸いこうした話を聞いてくれる役員もいて、LaSalleとの共同投資事業を行うことが出来ました。彼らは5%程の出資でしたが…。
|
片岡:
|
それまでの投資の仕方とは、どういう違いがあったのでしょうか。
|
内山:
|
日本人は「銀座は良いね」というように、経済原則とは少し違う観点からも不動産を買っていることがありました。LaSalleの提案は誰も注目していない地方にある物件で、それをマーケットのボトムで購入し、マーケットがどのように回復するか、更に物件そのもののマーケットにおける位置付けを理解し、その中でどのようにお金をかけてバリューを創出して売却していくのか…と論理的に説明されていました。この時、初めて不動産投資というものを学んだように思います。
|
片岡:
|
そうした解析には多くのコストがかかるのでしょうか。
|
内山:
|
分析用のソフトウェアが整っていて、ブローカーは物件についてのデータベースを持っており、それをパッケージとしてもらいますので、それで初期的なデューデリジェンスは十分行うことが出来ます。そうした後に第2段階、第3段階のデューデリジェンスを系統だって行い、コスト増と感じることはなかったと思います。その後もLaSalleと組んで投資したり、学んだことを独自にシリコンバレーなどへの再投資に活かしたりしました。1991年にはニューヨークの現地法人は5億ドルの資産に対して1億2000万ドルを超える累損を抱えていましたが、そうした再投資で累損を全て一掃できました。しかし1998年に長銀が破綻、日本ランディックも本体が日本国内で多くの負債を抱えていたために特別清算となりました。そうした中で将来の社長とも目されていた人物がスピンオフしてランドビルマネジメント社を設立、一緒にやろうと誘いがあり、私は参加する条件としてLaSalleと組むことを提案しました。ランドビルマネジメント社のような独立系の会社が生き残るためには旗印が必要です。一方、LaSalleはグローバルカンパニーと言いながら、世界で2番目に大きい日本市場にプラットフォームがありませんでした。そこでLynn
Thurber(CEO, LaSalle Investment Management:
現在はChairman)に直接提案し、2000年、Jones Lang LaSalle(この間にLaSalle
Partnersは英Jones Lang
Woottonとの合併により名称を変更)に株式を売却し、その子会社となりました。2001年、グループの不動産投資会社であるLaSalle
Investment
Managementがはじめてアジアでリージョナル・ファンドを立ち上げるというので、私に声がかかり、ニューヨークから来日した森内千代という日系3世のアメリカ人と二人で立ち上げたのがラサール
インベストメント
マネージメント株式会社です。その後、LaSalleの日本での事業は成長を続け、サービス・プロバイダーであるジョーンズ
ラング ラサ−ル株式会社は500名、投資顧問業であるラサール インベストメント
マネージメント株式会社は100名という体制になりました。私は2008年の末までラサール インベストメント
マネージメント株式会社の代表を務め、昨年会長職となりましたが、やはりもう少しハンズオンの仕事をしたいと昨年7月にCLSAグループに移りました。
|
片岡:
|
LaSalleとCLSAではどのような違いがありますか。
|
内山:
|
LaSalleは純粋な不動産会社ですが、CLSAの母体のCredit
Agricole(仏)は証券会社ですが、言ってみればフランスの農林中金のような会社で、根ざしているものが大きく違います。しかし、そのオルタナティブ投資部門であるCLSA
Capital PartnersのFudo Capitalは不動産投資だけを中心に行うところで、ある意味でLaSalle
Investment
Managementと同じ機能を持っていて、また投資家のキャラクターも同じように世界の年金基金や機関投資家を相手にしています。「アメリカ、ヨーロッパ、アジアと多様化するのが良い」というのも一つの考え方ですが、CLSAの考え方は「アメリカ、ヨーロッパは既に成熟しきっており、競争も激しい。そして今後の成長性を考えるとアジアなので、ならば選択と集中で、アジアに特化する」というものです。つまり元となる資金ソースは全世界で、グローバルに顧客を持って運用はアジアに特化するというものです。
|
片岡: |
先ごろ2号ファンドを組成、日本での投資も本格化したそうですね。
|
内山:
|
Fudo Capital
2号ファンドは昨年11月に8.15億米ドル規模で立ち上げ、オーストラリアの金融街の中心に位置する大型オフィスタワーや東京都台東区の中規模オフィスビルを既に取得しました。東京の物件は都心の大規模物件ではありませんが、都心へのアクセスも良く、安定した収益を見込める優良テナントがあるなど魅力的な要素を持っています。日本法人であるCLSAキャピタルパートナーズフドー株式会社は、日本の案件に対して、裁量権、ライセンスの問題、タックス等の事情があり、基本的にデシジョンメイクはせず、投資委員会に対してリコメンドし、そこで決定して貰ったことに対して委託を受けて実行します。
|
片岡:
|
日本の不動産市場について、どのようにお考えでしょうか。
|
内山:
|
東京の不動産ストックは世界一、その厚みは大変魅力的です。不動産投資とはある意味で国を買う、つまりその国の経済力、成長性、安定性…といったものを買います。今後数十年間の世界経済の成長をけん引するのはアジアですが、それだけを取り上げて中国やインドだけに投資を集中させるのは法的整備や、透明性やカントリーリスク、政治リスクを考えると難しい面もあります。その際にカウンターバランスとして、東京、シンガポール、香港、シドニー…と幾つかの都市が候補に上がりますが、東京以外は非常に小さい都市です。従って東京は中国やインドへ投資するためのカウンターバランスとしての位置付けが重要になってきます。ただ長期的に見ると、私は危機感を持っています。今までは世界2位の経済大国でしたし、中国よりもカントリーリスク等は安定していました。しかし10年後、経済規模で中国に追い越され、インドにも抜かれるかもしれません。国力には基本的に三つの要素が大きく寄与します。一つは人口。今、その人口が減りつつあり、であれば生産性を向上させることが必要ですが、生産性は落ちています。ならば外からキャピタルを呼び込むしかありません。しかし現政権による今回の税制改正を見ると、短期的な税収の増加を狙って外資を排除するような傾向が見られ、3つの要素とも難しくなっています。中国は人口が日本の10倍ですので、極端に言えば生産性は10分の1でもいい。今の中国は所有権が明確でない、登記のシステムが確立されていないとも言われますが、10年後にはかなり改善されてきているはずで、そうなると、このままでは日本の相対評価はかなり低下します。だからこそ日本は、キャピタルを呼び込むための魅力を創り、維持する取り組みをしなくてはいけません。
|
片岡:
|
具体的にはどういったことが必要でしょうか。
|
内山:
|
まず普通借家権の廃止に向けた取り組みが必要です。これは戦時の出征兵士の住宅問題や未亡人保護等のために定められた借地法・借家法(注3)(昭和16年改正)を起源に持ち、それだけに取り組みがなかなか進んでいません。世界中で不動産が金融商品化していくなか、普通借家権ではスペースを元本、店子が払っている家賃を金利と見れば、金利さえ払っていれば元本は何時まで経っても返還しなくてよく、逆に6カ月前の告知で借主は何時でも解約でき、金融商品とは馴染み難いシステムとなっています。不動産は金融商品化したと言われ、またオフィスビルというくくりでアメリカやヨーロッパと同じように扱われていますが、実は全く違う商品に同じ形態で払っているということになっています。上海でも米国型の定期借家を採用しています。
|
片岡:
|
どういう影響がでているのでしょうか。
|
内山:
|
アメリカであれば、一端100ドルと決めれば、マーケットがどう動いても100ドルを払い続け、そして期日が来れば新たに契約を締結するか、退去することを前提とします。しかし、日本はマーケットが下がったから90円にして欲しいという交渉が出来ます。というのは例え5年契約でも、6カ月前通知で退去可能ですので、6ヶ月後に出ると言われれば、オーナーは交渉を呑まざるを得ません。本来は不動産の持っているインフレ抵抗力やパフォーマンスの遅行性等を経済に取り込めるはずなのに、普通借家法があるためにそうした不動産特有のキャラクターを自ら捨ててしまっていて、金融商品としては片手落ちです。またCO2総排出量に対する住宅以外の不動産が排出するCO2の占める割合は米国では4割、日本では5割と言われています。しかし、日本の不動産ストックは戦後に建てられたものがほとんどで、普通借家権のために再開発が進んでいません。ここをなんとかしないとCO2の排出削減もなかなか進みません。普通借家との併存を廃止し定期借家を法制化させ、古いビルの賃貸契約期間を統一させて、一定期間たった時点で再開発を行い、そこにCO2の排出を抑える技術を取り込んでいくことが必要です。例えば八重洲地区を再開発するとしても、このままでは50年はかかってしまいます。50年後は中国のとの相対評価も完全に逆転していて、そういう投資資金はより集まり難くなっているはずです。また、こうした再開発に取り組むことで、数兆円規模の経済効果も期待できると言われていますし、本当の意味での内需にも繋がります。更に、これまではテナントの退出を促す行為がアングラ的に行われていた場合もありましたが、それがキチンとした法整備のもとに行われるようになり、そうした資金需要を新たに担おうというキャピタルも生れて来るものと思います。
|
片岡:
|
貴重なお話を有難うございました。
|
|
〜完〜 (敬称略) |
|
|
インタビュー後記
バブル期の日本人による米国への不動産投資について「お金を握りしめた手のように米国という壺(口の狭い)から抜きとれない」というような評がありました。当時の米国メディアのヒステリックな反応の裏には、冷徹な戦略と力を持つ米国ならではの強かさもあったようです。内山さんは、そうした米国でしんがりを成し遂げ、今度は最新の手法とキャピタルを日本へ導入し、多忙な日々を送っております。そんな内山さんの休息は、趣味の自転車で、その非常にシンプルで成熟した機能美に一目惚れしたそうです。
|
|
聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。 |
|
|
|
|
脚注
|
|
注1 |
下記をご参照下さい。
http://www.lasalle.com (LaSalle Investment Management)
LaSalle Investment ManagementはJones Lang LaSalleグループの投資部門。
http://www.joneslanglasalle.com (Jones Lang LaSalle)
|
注2 |
クレディ・アグリコール銀行グループに属するアジアを拠点とする独立系投資銀行CLSAグループのオルタナティブ投資部門であるCLSA
Capital Partners (http://www.clsacapital.com)は、テーマ別に下記のファンドを運営している。
・アジア地域を対象とする不動産ファンド
・中堅企業のバイアウトに注力した日本特化型のPE ファンド
・アジアの安定企業に成長資金を提供するPE ファンド
・アジアの安定企業向けメザニン・ファンド
・アジアの海運・輸送セクターに特化したファンド(CLSA グループの関連会社ではない)
・IPO 直前企業やクリーンエネルギー・環境に特化したファンド
・リサーチ重視型のアジア(日本除外)株式ロング・ショートファンド
|
注3 |
下記をご参照下さい。
http://tochi.mlit.go.jp/chiiki/lease/doc2-1.html
http://www.fksk.or.jp/column/0902.html (全国定借連合会「借地借家制度の改正要望書」、「借地借家法の転機」)
|
|
|
|
|
|
片岡秀太郎の右脳インタビューへ |