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第64回  『 右脳インタビュー 』  (2011/3/1)

谷岡 一郎さん    学校法人谷岡学園 理事長 大阪商業大学 学長 
 

  
 
プロフィール

1956年 大阪府生れ
1980年 慶應義塾大学法学部法律学科 卒業
1983年 南カリフォルニア大学行政管理学部大学院修士課程 修了
1989年 南カリフォルニア大学社会学部大学院博士課程 修了
1997年 大阪商業大学 学長就任
2005年 学校法人谷岡学園 理事長就任
主な著書
『ギャンブルフィーヴァー 依存症と合法化論争』 中央公論社 1996年
『ツキの法則 「賭け方」と「勝敗」の科学』 PHP研究所 1997年
『カジノが日本にできるとき 「大人社会」の経済学』 PHP研究所 2002年
 
 

片岡:

今月の右脳インタビューは谷岡一郎さんです。本日は日本のカジノ合法化問題についてお伺いしたいと思います。それでは宜しくお願い致します。
 

谷岡

そもそも先進国でカジノが合法化されていない国は日本ぐらいです。カジノというものは隣が開くと自分はただ全てを吸い取られていくだけなので、防衛上、自分でもやるしかなくなってきますので、拡散を止めようがありません。例えば韓国には外国人専用のカジノがあります。ハイローラー(高額ギャンブラー)が幾ら負けているのか統計の取りようがありませんので詳しくは分かりませんが、客の3割、4割は日本人で、それだけのお金が日本から韓国に流れています。カジノの経済効果というものはとても大きく、昨年、2か所のカジノをオープンさせたシンガポールでは、それによって国全体のGDPが14.7%アップしたとも言われています。
 

片岡:

巨大な利権となりますね。
 

谷岡

利権は、無くすつもりで真剣にやればなくなります。しかし、それが日本で可能なのかどうか…。海外ではゲーミング・コントロール・ボードはオペレーターとは何の関係もなく、ライセンスを付与するのも、また別の機関で、それらがうまくバランスを取っています。つまり権限を分配し、お互いにチェックさせています。日本のパチンコのように監督も取締りも同じところという仕組みでは難しいと思いますが、それでも日本でカジノを合法化するとしたら、やはり警察の所轄となるでしょう。
 

片岡:

カジノ合法化を、どういうグループが推進し、どういうグループが反対しているのでしょうか。
 

谷岡

推進派の中心は地方自治体です。勿論、私も推進派です。反対派は日教組やPTA、政党では共産党や社民党、或いは宗教団体等にも多く、彼らはカジノ依存症患者の増加や青少年への悪影響、犯罪の増加等を危惧しています。一般的にカジノをオープンするとプレーヤーの1〜2%程度が依存症に陥ると言われています。日本の場合はパチンコでスロットマシーンがあり、カジノ依存症になるような人は、既にそれらに嵌っている可能性も高く、新たな依存症患者の増加という意味では、それ程多くないのではないかと思います。依存症患者への治療プログラムも、カジノが合法化された場合、遥かに充実したものを作っていくことが出来ます。またカジノではパチンコとは比較にならないくらい厳格に年齢のコントロールが行われていて、青少年への影響は限定的です。例えばラスベガスでは若く見える者(21歳未満の可能性がある者)に対してはIDを求める義務があり、「老けて見えました」等という抗弁は許されず、違反したカジノは罰せられます。更にカジノフロアーは監視カメラだらけで安全ですし、カジノの周辺地域も飲食店などが自然と発達しますので町全体が豊かになり犯罪も起こり難くなるでしょう。実際、米国のNGISC(National Gaming Impact Study Commission)の報告書によるとカジノによる犯罪率の上昇は証明されず、統計データを見る限り、寧ろ減少していると信じられる要素が多いくらいです。ところで以前、新宿のシャンティーというカジノバーがバカラ賭博で摘発されましたが、この店の売上は1兆円を超えていたそうです。仮に全国の違法賭博での売上がその100倍、3%を胴元が抜いているとすると、3兆円がアンダーグラウンドに流れている事になります。カジノ合法化には、こうした勢力の反対も強固です。米国の禁酒法時代、前面に立っていたのは教会の倫理グループでしたが、中にはマフィアが資金提供している団体もありました。
 

片岡: パチンコ業界はカジノ合法化に対してどのようなスタンスでしょうか。
 

谷岡

カジノに参加できそうなところ、そうでないところがありますので、推進派、反対派の両方がいます。カジノに参加するにはクリーンでないといけませんが、ふつう三代も遡れば、どこかで裏と繋がっているもので、パーラーがカジノのオペレーターの一翼を担うのは難しく、参加できるのはせいぜい2,3社でしょう。またゲーム機メーカーも機会の分野で参加してくると思いますが、認証は現在の日本遊技機工業組合等とは別になるべきです。
 

片岡:

セキュリティーについても大規模な投資が必要となりますね。
 

谷岡

巨額なだけでなく、米国では原子力よりも規制が厳しい産業はカジノしかないと言われています。米国はマフィアが跋扈していたところから始まり、性悪説に立っているからでしょう。一方、英国は、町の賭け屋を合法化していくという観点からスタートし、また危ないものは自分で始末しなさいという感覚が人々にもあったので、比較的規制が緩い傾向があります。
 

片岡:

債権の回収については如何でしょうか。
 

谷岡

その部分はやはり問題です。例えば、その場では払えないので中国やキューバに帰国してから払うというような人がいた時に、一旦それらの国に帰してしまうと回収するには余程力がないと難しいのが現実で、そこに闇組織が関与している可能性もあります。もっとも、海外のオペレーターではマネージャークラス以上は全て、マフィア等との付き合いをチェック、三親等までの過去10年間の銀行口座のトランザクションが調べられ、しかもその費用は調べられる本人が出すという事になっています。日本でもそのような方式が採られるものと思います。日本の銀行は顧客情報をなかなか出しませんが、本人が出して下さいと言えば直ぐに出してもらう事も可能でしょう。
 

片岡:

出資者については如何でしょうか。
 

谷岡

嘗て米国で7%以上の株主を全てチェックさせた時期もありましたが、それだと調査も大変ですし、相手の邪魔をするために株を買った事例もあり、そういう制約はなくなりました。
 

片岡:

マフィアの抵抗を逸らすためにバランスを取ったという面もあるのでしょうか。
 

谷岡

たしかに株主としてマフィアを残したケースもありますが、あくまでも単なる投資に限定、直接の関与を徹底的に無くさせ、「ここまで規制を守るのであれば合法の商売をした方がまし…」というところまで規制を作り続けました。ロバート・ケネディとFBIは、マフィアを潰すためならば少々人権を無視しても良い…というくらいの覚悟をもっていました。またマカオでカジノを合法化しようとした時には、それまで利権を一手に握っていたスタンレー・ホー(注1)の抵抗があって、かなりの混乱が起こり、中国政府は利権の一つをライセンスとして与えるという形で手を打ったようです。さすがにスタンレー・ホーに対して直接ではないのですが、娘のパンジー・ホーと息子のローレンス・ホーが共同経営者として入り、それぞれ米国の巨大資本とも繋がりました。マカオは去年の売上が1.9兆円、ラスベガス・ストリップの3倍の規模となり、彼らはカジノ経営で、結果的に莫大な利益を上げています。それでもローレンス・ホーに比べてパンジー・ホーはまだ昔を引きずっているようですが…。
 

片岡:

日本のカジノ合法化への動きはどのように進んでいくのでしょうか。
 

谷岡

今年の5月に法案を出そうとしていましたが、政局が安定していないので…。もし法案が採択されれば3年ほどでカジノが誕生します。最初の半年くらいで基準を決め、募集を開始、それから3カ月後に提出。つまり9カ月くらいで地方自治体が手を挙げます。その後、1カ月程の審査期間を経て、建築がはじまります。建築が始まれば2年くらいで部分的にはオープンできます。また法案では船上カジノや外国人専用のものから…という限定的なものではなく、通常のカジノの合法化を考えています。そもそも日本人に悪いと思うのであれば外国人に対して行うのも辞めるべきです。そして当初から最低でもシンガポールくらいのサイズのものが出来るだろうとみています。またスポーツブッキングはサッカーくじなどとの兼ね合いもありますので最初の3年くらいは様子を見ながら進め、オンラインカジノについては解禁しないという方向で考えています。スポーツブッキングは大変面白く、解禁すれば1兆円を超えるお金が流れ込み、スポーツ自体の発展にも大いに役に立つでしょう。大相撲の八百長問題が取りざたされていますが、ギャンブルではなく興業だから八百長等が起きやすい面もあります。もしギャンブルであれば、警察も詐欺行為として捜査に入りますので、クリーンにならざるをえません。ところでギャンブルは巨額の経済効果をもたらすものですが、英国は経済的な理由ではなく、「ギャンブルは禁止ではなくコントロールすべきもので、社会的に問題がない限り、一般国民の楽しみを阻害してはならない」という、より国家哲学的で積極的な理由によってカジノを合法化しました。
 

片岡:

民が勝ち取った権利としての法律の側面が見えますね。
 

谷岡

欧米の人たちは幾度かの革命を経て、政治家を選ぶのも全てを決めるのも自分たちだという感覚が宿っています。しかし日本は、突然、民主主義が降ってきたので未だに誰かがやってくれるという甘えがあり、大人の社会としての議論が出来ていません。嘗て英国はギャンブル合法化の際、@犯罪の追放(犯罪組織の関与をなくす)、A多すぎる利益の駆逐(儲けすぎないようにする)、B客にとってフェアなゲームを保証する(イカサマをなくす)という三つの目標が立てられ、その後、それらは実際に達成されています。一方、日本の現状を見ると、例えば競馬などの公営レースは25%というとても高い控除率で横並び、宝くじは年間5000億円という儲けを出しています。
 

片岡:

貴重なお話を有難うございました。
 

~完~(敬称略)

 

 

インタビュー後記

カジノが合法化されれば兆の単位のビジネスが短期間に生み出されるとも言われ、多くの地方自治体が町おこしの切り札としてカジノの解禁を切望しています。また海外でカジノを楽しむ日本人はかなりの数にのぼり、国内でもカジノ議連も結成されて具体的な法案作りも進んでいますが、例えば国はカジノ関連の研究に対しては殆ど助成すら行っていないそうで、アンバランスで本質的な議論を避けている感は否めません。ここにもまた推進派がつき破らなくてはならない抵抗勢力があります。

 

  
 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注  
注1 http://ja.wikipedia.org/wiki/スタンレー・ホー
   

 


右脳インタビュー

 

 

 

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更新日:2012/10/30