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プロフィール
1949年生まれ。東京工業大学評議員、同大学理財工学研究センター長、同大学大学院社会理工学研究科長、同大学大学院イノベーションマネジメント研究科長を歴任。「デミング賞本賞」受賞(2010年)
主な著書
【我が国文化と品質】日本規格協会 (2009)
【オペレーションズ・マネジメントの基礎】朝倉書店(2009)
【サプライチェーン理論と戦略―部分最適から「全体最適」の追求へ】(共著)ダイヤモンド
(1998)
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片岡:
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今月の右脳インタビューは圓川隆夫さんです。まずは日本のものづくりの強さ、弱さなどお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
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圓川:
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日本のものづくりの強さは1980年代後半〜1990年頃がピークで、日本は1970年頃からの需要の連続的変化への対応をうまく組み込みました。それが多能工の育成であり、カイゼンの仕組み、そしてTQC(Total
Quality
Control)を導入した全社的な品質改善等です。また生産から販社までの情報を垂直統合して顧客のニーズや実際の販売数等をトリガーとして生産や在庫を決めていく…、これもうまく働きました。1990年頃になると米国は貿易摩擦、ケイレツといって圧力をかけながら、その一方で日本の自動車産業を徹底的に調査、ベンチマークとしました。その時に注目したのが系列の中での車両メーカーと部品メーカーとの連携、長期的な関係・開発での情報共有です。そうしてLean
production(贅肉を削ぎ落す生産方式)やサプライチェーンという言葉が使われるようになりました。不良ゼロ、故障ゼロ、遅れゼロといった概念は、そもそも実際には不可能なものですが、日本人はそれを成し遂げました。それには日本人の持つ高い不確実性回避の国民性が大きく寄与しています。もっとも不確実回避性の強さは曖昧さやリスクを考えなくてはならないようなことには向かず、戦略性が弱い傾向があります。
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片岡:
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ヘンリー・キッシンジャー博士も日本人の戦略的思考の弱さを指摘しています。変動の時代には経営者の戦略性が大きな影響を与えますね。
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圓川:
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優れた経営者もおりますが平均的に見れば日本は戦略、マネジメントが弱い。これまでは現場が強く何とかなってきましたが…。日本のLean
productionは今でも世界中の目標ですが、JIT(Just In
Time)は経営手法というよりは文化等を含む総体であり、米国等では出来ませんでした。ならば科学で対抗すればいいと彼らは生産量、在庫、lean
time等、全てを数式化しfactory
physicsを発展させました。そしてケイレツでなく、製・販・物がWIN-WIN-WINという関係の中で、ICT(Information
Communication
Technology)という武器を駆使して情報共有していくという戦略的意思決定をしました。更に今の半導体産業等は如何にして投資コストを抑えるのかが求められています。そうなると直ぐにスループットを確保する事が必要で、カイゼンを待っている余裕はなくなってきています。日本も学ばなければいけません。
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片岡:
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内と外でやるのは質的に全く異なりますね。日本でもSCM(Supply Chain
Management)システムを沢山の会社が導入しましたが、成果を上げられない企業も多かったようですね。
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圓川:
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日本は元々ICTの作り方がまずく、標準化できずに現場にあわせてしまっていました。ですからSAP(注1)を入れても、シンプルな基幹業務システムも自分流にカスタマイズし過ぎてしまいます。simple
is
bestです。自分流にあわせてしまうと今までの仕事のやり方が引き継がれ、革新が入ってこず、お金もかかり過ぎます。こうした問題は何処の国にもありますが、その時にトップダウンの決断が出来るかどうかが大切です。現場を大事にするのはいいのですが、トップダウンが出来ないと強みも弱みとなってしまいます。海外ではサプライチェーンが重要というと、社長直下にサプライチェーン担当役員を置き、その下に販売、物流などを組みいれ、当然、人事にも口を出します。ところが日本ではスタッフ部門として作り、権限はスタッフレベルですから、横からしかものを言えず、販売はそっぽを向いてしまいます。
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片岡: |
今回の大震災は日本のサプライチェーンが抱える問題点を浮き上がらせました。
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圓川:
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あれ程、生産がストップしたわけですから…、この大震災は一つの契機となるかもしれません。1次、2次の部品メーカーまでは分かっていても、その先はブラックボックスになってしまっていて、実は各社が同じメーカーの部品に依存していたり、或いは何処に何の在庫があるのか分らなかったり…とサプライチェーン全体が見えていませんでした。また被災した工場と同じような設備を他の地域に折角持っていても、コードやCADが違ったり、同じ製品でも工場が違えば名前も違って分からなかったり…等と個々では効率が良かったものが全体からみると問題で復旧を妨げました。また日本は早くから電子化を進めていましたが、反面、情報通信に電話回線を用いたものも残っていました。インターネットに変えていれば良かったのですが、電話回線だったために復旧が遅れたという事もあったようです。以前、アイシン精機で火災が起きた時(1997年)には、トヨタは急遽デンソーでその部品を代わりに生産させ、3日でサプライチェーンを復旧させました。日本企業はそうした物凄い回復力も持っていますが、それでも今回は時間がかかりました。それは点ではなく面で、広域で重層的に被害を受けたので、点では各社が一生懸命になって復旧させるのですが、全体が見えていないためにどこかで止まってしまいます。ロジスティックの基本は情報を如何に獲るかです。そこが機能しませんでした。この辺が日本の弱さでもあります。ところで日本人の文化的特質に同質的な集団主義があります。日本人は集団の中で均一性を求め、同時にも集団間でも同質的な競争をします。このためパナソニックも日立も同じような商品構成…というような事が見られます。その一方で集団の外に関しては無関心、或いはそのまま受け入れてしまいます。日本人はその集団の範囲が非常に狭く、社会性が弱いという特徴があります。システムというものは境界が広いほど効率的なのですが、その分、管理は難しくなります。しかし日本は危機となれば国全体が一つの集団となれます。敗戦後の復興期がまさにそうです。そうした視点で今回の震災への対応を見ていると、各社非常にフェアな事やっていますし、一致団結している様子も見られます。
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片岡:
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阪神大震災で大きな損害を被った神戸港では機能自体は急速に復旧させることができましたが、その後、物流は戻ってきませんでした。
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圓川:
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コストの問題も大きいと思いますが、そもそも日本は部分を見て、全体を見ていません。国内に国際港が100を超え、国家としての戦略がありません。またスーパー中枢港湾に集約しろといいながら地方分権といい、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものです。今、港湾は東京でも20位くらいで、どんどん順位が下がっています。考えてみれば、香港やシンガポールはTaxもフリーにして、それで生きていますが、日本はそれで生きているわけではありません。ですから如何にコンテナを集めるかというよりも、中国や韓国の港を使ってもいいので、グローバルサプライチェーンの中で、日本の製造業にとってボトルネックにならないようにするというような視点で考える必要があります。
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片岡:
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世界規模で構造が変化し、それに伴い生産、マーケットも枠組みを変えていますが、日本のものづくりは、どのような対応を迫られているのでしょうか。
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圓川:
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先程お話したSCMの問題の他に、ガラパゴス化への対処も必要です。日本だけで高機能、高品質を競っても、ボリュームゾーンは別にあります。この時、多くの日本企業の発想は日本の消費者にあったものから一部を外して海外に持っていく…。これでは海外のニーズに本当にはフィットはしません。また日本では20万円もする高機能なカーナビが売られていますが、海外のスーパーでは数千円のものも売られています。feature
fatigueといい、沢山機能があるのに使いこなせないと顧客は大変不満に思うようになりますが、厄介なことに購入するときは高機能なものが売れてしまう…。消費者側にも問題があります。例えば日本では段ボールをクリーンルームの様な所で作っています。段ボールに虫がつくと嫌だと言われるからです。死に待ち在庫という言葉もあります。賞味期限が2年あるとしても小売りは製造後2カ月しか受け入れず、製造後2カ月過ぎると出荷できなくなり、また賞味期限が切れるまでは廃棄も出来ません。つまりその間、死ぬのを待っている…。消費者に届く以前にそうした事が行われています。強みに活かすのであればいいのですが、この延長で海外に出ていくと勝負になりません。また1990年代までは品質の良いものを作っていれば売れたのですが、これからはそういかず、そして製品そのものがモジュール化で作りやすくなってきています。水平分業の中で台湾企業に全て発注するというような発想で設計思想を変えていくことが求められています。また少し気なっていることがあります。少し前の自動車工場では、最終ラインは混流生産で、一台一台違った車が流れて来て、そこで車の部品を取り付けるために作業する人は色々な知識やスキルが要求されました。ところが最近見た工場は、普通車のラインでEVまで生産するような素晴らしい生産技術なのですが、車と一緒に配膳といって必要な部品も一緒に流れてくるようになっていて、オペレーターは何も考える必要がありません。これは工場を海外に持っていくことを前提にしていて、もはや日本はマザー工場というよりは海外生産のためのトライアル工場となっていて、海外生産がメインとなりつつあるようです。さらに日本の生産技術は物凄く強く、人に頼ったカイゼンよりも生産技術主導で対応することが重視されるようになってきています。さて、経営者はよく三現主義等といいますが、それも過ぎると全体を見落としてしまう事があります。日本の経営者は戦略や理論をあまり信用しておらず、時々おろそかにします。使う能力は持っていても使わないだけです。何故彼らが理論を使わないかというと結局最後は現場で尻拭いしているから…。もともと日本の経営者の多くはコンピュータを否定していて、設計等では活用しても、最適化やシステムに関しては無頓着でした。昔はマーケットがあって、そこに進出するパターンでした。今は多産多消で、何処に工場を作って、何処にマーケットがあって、何処に在庫すればいい…と、まさに最適化問題です。某自動車会社からそうしたアドバイスを求められた事がありますが、「パッケージソフトがありますから使えば…」というと、「それは何ですか…」と。つまり、我々が持っているようなパッケージソフトすら使っておらず把握もしていません。これからはトップマネジメントに科学的なシステムを取り入れないと世界で戦えません。それと現場の強みを矛盾なくどう合わせていくのか…。この辺りに今の日本の新しいマネジメントの可能性があるのではないかと思っています。
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片岡:
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貴重なお話を有難うございました。
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~完~ |
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インタビュー後記
海外ではM&Aにおいても、規模だけでなく、サプライチェーン全体を見た戦略的なM&Aがよく行われているそうです。今回、東日本大震災によって巨大企業サプライチェーンの脆弱さが浮かび上がり、日本でもそうしたM&Aが増えるでしょう。さて、圓川さんのお薦めの本は、【多文化世界】 G.
ホフステード著 有斐閣 です。この本は企業経営に関する理論や手法のグローバル展開における有効性を各国の文化特性の関係を論じた名著です。 |
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。 |
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脚注 |
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注1 |
http://ja.wikipedia.org/wiki/SAP_(企業)
http://www.sap.com/japan/index.epx
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