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プロフィール
1965年生れ。筑波大学医学群卒業。米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了(MPH[公衆衛生学修士号])。ジョンズ・ホプキンス大学デルタオメガスカラーシップを受賞。内科医として勤務後公衆衛生の道へ。米国CDC(疾病予防管理センター)、財団法人結核予防会に勤務後、厚生労働省入省。大臣官房統計情報部訓令室長を経て、現在は厚労省検疫官。専門は感染症疫学。
主な著書
『辞めたいと思っているあなたへ』 PHP研究所 2011年
『厚労省と新型インフルエンザ 』 講談社現代新書 2009年
『厚生労働省崩壊 「天然痘テロに日本が襲われる日」』 講談社 2009年
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片岡:
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今月の右脳インタビューは木村盛世さんです。木村さんのご著書「厚生労働省崩壊」はバイオテロという危機管理の面から、厚労省の機能不全を浮き彫りにし、大変な反響を呼んでいます。まずはバイオテロについてお伺いしたいと思います。
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木村:
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世界にバイオテロの衝撃を齎したのはオウム真理教事件(注1)です。この事件では大量輸送機関である地下鉄にサリンが撒かれたということよりも、教団が炭そ菌によるテロを既に実行しており、ボツリヌス菌の培養にも成功していた。つまり専門家がいない素人集団が一般家庭の台所のような施設で生物兵器を作ったことが世界中の専門家を恐怖に陥れました。各国は直ぐに動き、例えば米国CDC(疾病予防管理センター)(注2)は専門スタッフを30人近く揃えました。一方、震源地の日本では、そのまま放置して十分な対応もとらず、未だに政府は勿論、自衛隊にも専門家が殆どいない状態です。また米国は生物兵器対策研究費に2000億円以上を投資しているのに対して日本は100億円以下です。今、世界では未知のウィルス、病原体がきたら、バイオテロをまず疑うようになっています。WHOのThe world health report 2007(注3)は、弱点のない国はないと指摘し、実際に天然痘がバイオテロに使われる可能性を強調しています。
天然痘は私の恩師でもあるD. A. ヘンダーソン(注4)と蟻田功(注5)らが中心となって1980年に根絶し、そのウィルスは最終的に米国のCDCとソ連の製薬研究所の2か所だけで保管されるようになっていましたが、そのロシアのウィルスが外部に流失したと言われています。2001年、米国はアルカイダがオクラホマ市に天然痘ウィルスをばら撒いたという設定でDARK
WINTER(注6)と呼ばれる天然痘バイオテロの机上訓練を行いました。そこではテロ発生後23日、患者数30万人、死者10万人、ワクチンの備蓄が十分でなかったために最終的には患者数300万人、死者100万人になるとのシナリオが採られました。そのシナリオは大げさだという評価もありますが、ブッシュ大統領は全国民にワクチンを用意するように指示を出しました。一方日本では、旧陸軍の施設を引き継いだ千葉県血清研究所で250万人分のワクチンが作られました。しかし同研究所は老朽化が激しく、2002年に閉鎖され、ワクチンを製造する機能を持つのは国内には一つの研究所だけです。蟻田功は天然痘ウィルスによる生物テロに備えて5600万人分のワクチンを備蓄することが必要だとの研究結果を発表しました。一人分のワクチンが300円として168億円かかることになります。しかし国は、血清研が作った250万人分のワクチンの備蓄は決定しましたが、危機管理上問題があるとして備蓄計画は明らかにしませんでした。
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片岡:
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生物兵器は貧者の核兵器といわれ、極めて強力な殺傷能力を持ちます。特に人口が密集、移動も複雑で激しい日本で、250万人分+αという数字はどういう意味があるのでしょうか。或いはバイオテロから誰を守ろうとしているのか、その線引きの根拠は何処にあるのでしょうか。
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木村:
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そもそも意思決定の根拠すらないのが現状でしょう。日本の現状は結果的にテロ容認国家といわれても仕方がなく、またテロ輸出国にもなりかねません。今回の原発問題でも、日本はこれだけの放射能汚染を引き起こしながら、しっかりとした疫学調査をしていません。原発の放射線自体は弱くなってきていますが、今のままでは健康被害に対する評価も補償もキチンとは行われないでしょう。疫学調査を行って世界に公表し、いろいろな角度から検証し、裏づけをしていく…、これは新たな被爆地を作ってしまった日本の責務です。そして今後、癌患者は確実に増加してくるでしょう。その方たちのためにもやらなくてはならないことです。
結局、日本の危機管理は宗教のようで、いつも特攻隊と水際対策です。そしてそこで失敗するともう打つ手がなく、後は神頼み、じっと耐えていれば神風が吹くと信じる…。またどんな国でも軍事上で20%以上の犠牲が出れば撤退するものですが、第2次世界大戦の時、日本は最後の最後まで戦おうとしました。今もその体質は変わっていません。水際対策は、そもそも全てを守ろうとすれば長い海岸線にそって兵士を張り付けなければならず、内部は手薄、一旦入られると対策が後手に回り、問題が多いことは明らかです。しかし新型インフルエンザ対策でも水際対策が展開され、空港検疫で物々しい防護服に身を包んだ検疫官の姿が連日メディアにも取り上げられ、政府の姿勢もアピールされました。2450人の検疫官と一台約300万円のサーモグラフィー300台を導入、10万人のスクリーニングを行い、それで見つかった患者は5人だけです。そしてその検疫偏重の政策によって国内の医療現場はパニック状態となりました。
また原発問題でも対応は明らかに後手、後手です。例えば本来、食の安全を考えるならば、まず周辺地域の農産物や海産物の流通を直ちに全てを止め、彼らには補償をする。そうすればリスクになりません。時間が経てば生産活動も出来るようになるでしょう。そして莫大なコストと労力をかければ、たぶん短縮する事も可能でしょう。しかし、そうすべきか否かとは別です。気の毒でも、戻りたいという人がいても、補償をするということで対応していく…。それが政策です。今、日本の復旧・復興というミッションが与えられているわけですから、時間の問題とリスクの中で決断をしていくことが政治家の仕事です。それなのに副大臣は「私は一生懸命頑張っているのですが話し合いが進まなくて…」と平然とTVで発言する…残念な限りです。それがどれだけご自身の無力さを曝け出しているのか気がつかないのでしょうか。今の政治家の多くは本当に見識が足りません。
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片岡:
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メディアにも責任がありますね。
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木村:
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例えばワクチン政策は、極端に言えば多くの子供が死ぬかもしれない問題です。それなのに費用対効果やリスクの評価など、著しくバランスを欠いています。例えば子供が副作用で亡くなるとメディアを気にして、接種させることをやめてしまいます。一人一人の子供の命を守る上で、また公衆衛生政策としてのワクチンの大切さを説明することが役人の仕事のはずなのに、それを放棄してしまいます。ワクチンを打たなかったために子供たちが死んだらどうするのでしょうか。こうしたことは官僚や政治家が勇気を持ってメディアに対して話していけばすむことです。
先日、テレビ番組に出演し、なかなか進まないポリオワクチンの問題を強く指摘しましたが、この問題は、その後、急速に進展しました。厚労省を動かすには中からではなくメディアを使う方が早い…。このようにメディアはどんどん利用すべきだし、また、ある意味でメディアを教育していく事も必要だと思っています。戦争でも敵地に乗り込んだ時に最初に抑えるべきところはメディアです。日本は今、国家の一大事に直面しているのですから、目的を成し遂げるにありとあらゆるものを利用しないといけないと思います。
ですから、もし私の主張が間違っていると思えば、官僚側もメディアを使って議論して欲しいし、私も彼らをメディアの前にだして意見を言わせ、それが国民の意見とどれだけ乖離しているかを明確にしたいと思っています。今はアリの一穴でも組織の壁を崩せると思っているのは、厚労省は張子の虎、官僚はガラスの上を歩いているようなもので、だからこそ彼らはボロを出さないように何も言わないからです。突くべきところを突けば必ず動いていきます。例えば今、私は医系技官問題に焦点を合わせています。医系技官が多くの問題の原因となっている事もありますが、医系技官は仮に切られる事になっても民間でも生きていけます。そうした逃げ道を残して、また他の官僚からしてみればポジションが空くわけですから…。最終的には厚労省のような巨大組織は、外部からではなく中から変えていかないと変わりません。ですから内部に居続けることが必要で、役人を辞めるつもりはありません。私に出来るのはこのテリトリーだけですし、私もやはり日本人なんですね。日本はまだ何とかなると信じていて、また諦めてはいけないし、諦めたくないとも思っています。そして子供のためにも日本にいたいというのが本音です。
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片岡:
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外部の力学を積極的に巻き込んでいくことについて、どのようにお考えでしょうか。変革には最終的にそうした力学も必要となるのではないでしょうか。
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木村:
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将来的にはあってもよく、色々なところが一段落してから入ってくるのであれば入ってくればいいと思っています。その部分は大きなビジネスチャンスであっても国の安全とは関係ない部分となるはずです。
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片岡:
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貴重なお話を有難うございました。
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~完~
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(敬称略)
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インタビュー後記
公衆衛生学は本来、国家安全保障の一翼を担う学問で、木村さんが留学したジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院には、米国はもとより、日本を含む世界各国から政府、軍関係者が数多く学びに来ていたそうです。まだ日本には感染病対策、医療対策の基となるような教育機関がなく、そうした機関を設立し、日本の公衆衛生学を発展させることが木村さんの目標だそうです。
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。
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脚注
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注1
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下記wikipediaの項目をご参考下さい。(最終検索2011年10月27日)
http://ja.wikipedia.org/wiki/オウム真理教の兵器
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注2
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下記wikipediaの項目をご参考下さい。(最終検索2011年11月1日)
http://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカ疾病予防管理センター
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注3
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下記WHOのサイトより全文を入手できます。(最終検索2011年11月1日)
http://www.who.int/whr/2007/en/index.html
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注4
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下記wikipediaの項目をご参考下さい。(最終検索2011年10月27日)
http://en.wikipedia.org/wiki/Donald_Henderson
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注5
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注5 下記wikipediaの項目をご参考下さい。(最終検索2011年11月1日)
http://ja.wikipedia.org/wiki/蟻田功
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注6
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下記米国土安全保障省のサイトより全文を入手できます。(最終検索2011年11月1日)
http://www.homelandsecurity.org/darkwinter/docs/DARK_WINTER.pdf
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右脳インタビューへ
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