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プロフィール
1943年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業後、石川島播磨重工業、東洋経済新報社を経て、東京放送入社。報道局報道センター経済担当部長、経営企画局長兼BS推進局長、取締役・経営企画局長、上席執行役員 経営企画局長兼IR推進室長を経て、ビーエス・アイ代表取締役社長、TBSサービス取締役会長等を歴任。現在、株式会社東京放送ホールディングス顧問、BS-TBS顧問、TBSメディア総合研究所顧問、ビックカメラ取締役を務める。
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片岡: |
今月の右脳インタビューはTBSの生井俊重さんです。まずは中東問題などお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
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生井:
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チュニジアで革命が起き、エジプト、リビアでも政権が崩壊しました。中東問題を考えるうえで抑えたいのは、今の世界を動かしている価値観がマネーと情報だということです。まずマネー、つまり金融がグリード、強欲に支配されてしまいました。勿論、人間、欲がなければ進歩、発展はありませんが、ウォール街を中心に、一部の強欲な人たちの影響力が物凄く高まったということでしょう。一時期、ファンドの資産残高は2京円、3京円といわれ、うまく回せば巨万の富を個人が手にします。なぜ金融の世界がこうなったかというと、幸いなことでもあったのですが、世界的な大戦争が起きなかったからです。大きな戦争がないと、ゼロに戻ることがなく、金融資産が自動的にどんどん積み上がります。その結果、膨れ上がった資産の運用が先進国にとって最大の課題となってきますが、明確な答えが出ていません。その典型が年金です。成長力が高い途上国に回しても、それだけでは吸収できません。そして異常ともいえるようなレバレッジをかける…、またサブプライムのような商品を生み出し、世界にばら撒きました。そうして積みあがったお金がさらに膨らんで破裂しました。日本同様、バブルが弾けても損は残ります。そのツケが今のEU問題も引き起こしています。その金融でレバレッジを利かせて世界を動かす、強欲に駆られて莫大な資金をつぎこむ時代も終焉を迎えていて、コントロールを失っています。情報についても同じです。ICT(Information
and Communication
Technology)の発達もあって自由に個人が情報を発信し、大きな影響力を持つものもでていますが、その意見はある意味で無責任な一面があり、みんなバラバラ、どうやって治めるかが出てきません。お金は強欲になりすぎ、情報は無責任となる…。結果、政治家はポピュリズムに走り、どこの国もガバナンスが保てなくなってきています。
そうした中で、ダブついた資金は株式、債券、為替などの他、原油や穀物など生活必需品にも向かいました。後者の市場規模は金融と比べれば海と水たまり程の違いがあり、ちょっとお金を入れれば実需と関係なく暴騰してしまいます。石油や穀物の高騰は途上国の発展による需要逼迫が原因だと説明する人もいます。しかし掘削技術はどんどん進歩していて、昔はコスト的に産出できなかったものも十分に可能となってきています。例えば近い将来石油が枯渇するといわれていたロシアも米国の掘削技術が入って世界一の産出国となり、石油が取れないといわれていたブラジルが今では産油国となるなど、次々と新しい油田も発掘されています。このため本来は実需が逼迫することはなく、更に米国ではシェールガスを戦力化してきており、これが本格化すればLNGも供給過剰になってしまうでしょう。1970年代にも同じようなことがあって、石油は25年、遅くとも40年後には枯渇するといわれましたが、結局、それはメジャーが握っていた流通がOPECに移ったという流通経路の変化でした。OPECは1970年代には価格決定権を持ちましたが、1982年、シカゴ・マーカンタイル取引所が石油の市場取引を始め、今では金融がそれを握るようになっています。食料も同じで実需より金融が主導して価格が高騰しています。中東のグリーン革命、民主化といわれていますが、独裁者に対する反抗と同時に、最貧層のやむにやまれぬ蜂起という一面もあります。彼らは食料価格の高騰で生きていけないのですから。そこに情報、例えばFacebook等で騒ぐ、呼びかけるといった動きが加わりましたが、革命の後にどういう国家を作っていく、どういう政治を展開する、どういう経済政策を展開するといったことがありませんでした。このため崩壊後、安定した政権ができず、軍事国家に向かうともいわれています。
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片岡: |
中東の変革の波は、どこまで進むのでしょうか。
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生井: |
サウジアラビアまでは崩壊しないと思っています。この王族国家はカダフィー大佐に比べると遥かに民族を厚く保護をしています。サウジアラビアには50位の部族があり、そのうちの有力3部族がインターマレッジしてできたのがサウド家で、所謂独裁者ではなく、部族の合意のもとで出来上がった国家の側面があります。もう一つ重要なことはイスラム教に対して非常に真摯であるということです。イスラムの戒律はあの厳しい気候、風土から生まれたものであって、あの世界での生き方を指し示すものです。その宗教と政治を自然と一体化したのがサウジアラビアやアラブ首長国連邦です。それに対して政治がイスラム教を武器にしたのがイラクやリビアであり、この微妙な差は大変重要です。
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片岡: |
アラブの国家には力をつけてくると基軸通貨問題に関与しようとするところもありますが、その度に辛酸を舐めていますね。
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生井: |
アラブ人は頭の中は反米、体は親米です。日本も同じです。第二次大戦後60年を経て、ある意味で世界中、政治が統治能力を失いつつあります。皮肉にも、しっかりしているのは中国とロシアかもしれませんがその中国も、もうすぐ急速な高齢化がやってきます。EUだって、ひょっとすると幻のユーロとなりかねません。
さて、中東に関しては、米国は、陰に陽に関与しています。どれほど今回の動きに関与したのか、そしてはその結果がアラブの民衆にとってハッピーだったのか、或は逆なのかわかりません。ただ米国の関与といっても米国自身も完全に割れているうえ、政治的な握力がありませんし、そもそも中東に民主主義が根付くには大変な道のりが必要です。中東は部族宗教国家で、部族間の小競り合いが日常茶飯事なうえに武器がどんどん高度化しています。アラビアのロレンスに「アラブは砂だ」というようなセリフがあります。ぐっと掴んでいるときは纏まりますが、離した途端ばらばらに…、これが部族国家の特質です。だからサダム・フセイン大統領やカダフィー大佐の独裁もある意味で必然性がありました。当然、倒れた後はガタガタです。イラクの現状を見れば明らかでしょう。そしてエジプトも後に続いています。
さて、イラクのクウェート侵攻前、米国の国家安全保障会議は「米国が軍事展開するのはイラクがクウェートを突破し、サウジアラビア侵攻を伺うとき」と明示、新聞報道もされていました。更に駐イラクのApril
Catherine Glaspie米大使もイラクがクウェートに侵攻しても容認するかのような言質をフセインに与え、誰もが米国はクウェートを見捨てると見ていました。フセインもそう見誤りました。以前フセインを直接取材したことがありますが、物凄くシャープで、世界観や情勢分析は本当に優秀でした。もっとも優秀な人間ほどドグマに陥りやすく、そして独裁者になると耳おいしいことしか入ってきませんので、判断も狂うのでしょう。調子に乗って侵攻を企て自滅しました。
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片岡: |
当時、クウェートの少女ナイラの証言(クウェートから逃げてきた少女ナイラはボランティア活動をしていた病院で赤ちゃんが保育器から取り出されて虐殺されるのを目撃したと米下院人権議員集会で涙ながらに証言したが、実際にはこの少女はクウェートの駐米大使Saud
bin Nasir
Al-Sabahの娘でその病院でのボランティア経験もなかった)がメディアを通じて繰り返し放映され、またブッシュ大統領をはじめ多くの政治家の発言にも度々引用され、米国の世論を大きく動かしました。この証言は実際にはクウェートから雇われた米国のPR会社Hill
and
Knowlton社が1080万ドルを掛けて展開した広報戦略の一環として創り上げたものでしたが、米国に見捨てられていたとされるクウェートにとっては当然の策で、米国内の参戦派にとっても大義名分となる格好の政治的材料でした。そもそも最初に実際の武力を行使するものは、ある意味での弱者の場合も多い…。
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生井: |
米国にはそうした怖さがあります。ところで今回のオリンパス問題でも米国が騒いでいますが、米国でもMFグローバルが3兆1千億円の負債を抱え破綻しています。同社のCEO Jon
Stevens
Corzineはゴールドマン・サックスの会長兼CEOや上院議員、ニュージャージー州知事を歴任した人ですが、同社は破綻しただけでなく顧客資金まで流用した嫌疑がかけられています。オリンパス問題を日本特有のものかのように叩いていますが、冗談ではありません。カネがらみのスキャンダルはアメリカの方が上です。
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片岡: |
ニューヨークタイムズ紙はオリンパスの資金が闇社会に流れていると報じましたが、同様の問題を抱える日本企業も未だ多く、戦々恐々としているでしょう。米企業の中には、当然好機と狙いを定めているものも多く、米国の対応は国益を考えると当然で、寧ろ日本にもそうしたものが必要なのかもしれません。
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生井: |
米国は政治家、財界人、メディア…と、それぞれが戦っているように見えますが、それでいて机の下で手を握り、あの国ほど大掛かりな仕掛けをする国はありません。これは日本のように政官財が一体化していない国にはできないことです。今は世界中どこもある程度ばらばらになっていますが、日本は特にヒステリクッテです。確かに大蔵省などで汚職の問題がありましたが…。国家というものは、年がら年中、連絡を取り合ってぶつかり合いながらも政財官のベクトルを同じにしていないと繁栄しません。この点でも米国の方が遥かに上です。
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片岡: |
ベクトルの乱れは危機においても致命的です。今回の大震災や原発問題では政権交代と重なっていろいろな機能不全が起きてしまいました。
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生井: |
いま福島原発の事故究明を行っていますが、絶対に糾明する必要があるのは、人為的な責任です。非常用電源が作動しなかったことが全ての発端ですが、問題にしたいのは、水蒸気爆発とその後の原子炉冷却の遅れです。なぜ水蒸気爆発を起こしたのか。なえベントが遅れたのか。東電の対応と東電に乗り込んだ菅首相をはじめ官邸はどういう役割を果たしたのか。それとも単なる邪魔な存在だったのか。徹底的に糾明してもらいたい。また東京都のハイパーレスキュー隊の消防車でなければ冷却放水の対応ができないと端からいわれていましたが、なぜ自衛隊のヘリによる原発上空からの放水や水圧が弱い警察機動隊の放水など無益ともいえる行為が行われたのか。官邸の逡巡、石原知事の決断などを丹念に辿ると、責任の所在と今後の対応策が見えてくると思います。東電一社に責任を押し付けたり、技術的な側面のみを強調しても説得力がありません。あの時はまさに「国家の指揮権」が試された時なのですから。
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片岡: |
メディアの役割も試されますね。震災直後、大手メディアの報道は、それこそ大本営発表と言われかねないものも多かったようです。
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生井: |
メディアは卑怯なところがあって、不特定多数の怖いところがあると黙ってしまう…。その一方、政府、経産省、東京電力など、矛先が明確で叩きやすくなると徹底的に叩きます。
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片岡: |
貴重なお話を有難うございました。
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~完~
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(一部敬称略)
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インタビュー後記
少女ナイラを指導したHill and Knowlton社のLauri
Fitz-Pegado女史は米国のInformation
Agencyでの勤務経験を持ち、湾岸戦争終了後、クリントン政権下でU.S. Foreign and Commercial
ServiceのAssistant Secretary and Director General
としてホワイトハウスに戻りました。捏造とも言えるこの証言は、100万ドルを超える研究資金を掛けて生み出されたPR戦略の一環で、その効果は絶大でした。イスラムの諺に「言葉は雲、行動は雨」というものがあるそうです。言葉はいくらあっても、行動にならないと意味がない…。
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。クライシス・マネジメントとメディアに特化したアドバイザリー事業を展開
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右脳インタビューへ
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