知財問屋 片岡秀太郎商店  会員登録(無料)
  chizai-tank.com お問い合わせ
HOME 右脳インタビュー 法考古学と税考古学の広場 孫崎享のPower Briefing 原田靖博の内外金融雑感 特設コーナー about us  

 


第22回  『 片岡 秀太郎の右脳インタビュー 』        
2007年9月1日

小山 登美夫さん ギャラリスト 
 
 

小山 登美夫氏 プロフィール
 
1963年東京生れ。小山登美夫ギャラリー オーナー。1987年東京芸術大学芸術学科卒業。西村画廊、白石コンテンポラリーアートを経て、1996年、小山登美夫ギャラリーを開廊。


 

片岡:

第22回のインタビューは、ギャラリストの小山登美夫さんです。本日はご多忙の中、有難うございます。それでは現代美術(コンテンポラリー・アート)の世界へ入った切欠などお伺いしながらインタビューをはじめさせて戴きたいと思います。
 

小山

中学や高校の頃は落語研究会に入って落語をやっていたのですが、美術にも興味があり、美術館や画廊にもよく出入りしていました。最初はゴッホが好きだったのですが、ある時、先輩がジャスパー・ジョーンズ(注1)の展示会カタログを見せてくれて…。初めは何が何だかわからなかったのですが、いろいろ調べたりしているうちに徐々に現代美術に惹かれていきました。また画廊へ通っていましたので、美術品を商売の対象として見る感覚は自然と身についていたようです。
 

片岡:

創作活動については如何ですか。ご自身でも、絵をお描きになるのですか。
 

小山

描く方はあんまり得意ではありません。それに、もともと描くことより、見る方が好きで、大学も美術学科へ進みました。学生時代は映画(注2)など、どちらかというと好きなことばかりやっていました。就職も決まらないでいる時に、先輩が声を掛けてくれて、西村画廊(注3)へ入りました。画廊にいると、好きなアーティストの生の資料があり、『好きな作品にお金を払う』という学問にはないリアルな取引・情報に触れることができます。また、もともと人が好きでしたし、2ヵ月ごとにガラッと展示を入れ替えるギャラリーは飽きっぽい私の性格に向いていたようで、その後、白石コンテンポラリーアート(注4)を経て独立、小山登美夫ギャラリー(注5)を開廊しました。
 

片岡:

ギャラリーの仕組みについてお聞かせ下さい。
 

小山

私が取り扱うのは、主にプライマリーで、セカンダリーはやりません(注6)。プライマリーは、新作を展示させて戴き、作品が売れた時点で画家に代金を支払います。海外に持ち込み販売する場合は別ですが、大抵の場合は50%程度を手数料として受取り、マーケティングや輸送費などの諸費用は私どもで負担します。
 

片岡:

宣伝については如何ですか。
 

小山

昔は雑誌に作品広告を掲載するという方法をとることが多かったようですが、私の場合、広告は出さずに、広報を中心にして、できる限り作品を取材して戴くようにしています。
 

片岡:

展示の費用も相当かかるのではないでしょうか。ここ(小山登美夫ギャラリー)は、ゆったりとした展示スペースがとってありますね。
 

小山

しっかりした展示するためにこうした場所(江東区清澄にある倉庫ビルの7F)で、出来るだけ安く済ませています。そうしないと、とても成り立ちません。
 

片岡:

貨物用のエレベーターでゆっくりと昇ってくるのも面白い嗜好ですね。ところで、こうしたコストを先行して負担するのですから、契約は独占的なものなのでしょうか。
 

小山

契約は曖昧で、しっかりした専属契約を結んでいるわけではないのですが、基本的に展示しているギャラリーを通して購入して下さることが多いようです。
 

片岡: 名が売れ、作品が高騰したアーティストの中には、ギャラリーをステップアップしていく方もいるのではないでしょうか。一般のギャラリーでは、顧客の層がある程度決まっていて、それによって取り扱うことができる作品の価格帯も制限されるものと思います。
 

小山

その通りです。ですからギャラリー側も、きちんと価値づけをして、販売する力を持つことが必要です。そして作品を販売する時は、売り出す場所が重要で、どの国のマーケットに作品を置くか、バランスや広がりなど考え、点と点が線となり、面となるように戦略的に配置を考えながら、一つ一つアタックします。
 

片岡:

美術品の売買では投機的なバイヤーもマーケットの一翼を担っていますね。
 

小山

投機的なバイヤー、特にファンドは一定期間後の売却が前提ですから、作品が一気にマーケットへ放出され、価格が混乱する可能性があります。そうなると大変ですので半分は作品が好きでコレクションとして収蔵してくれる人達に持ってもらうというようなバランスを考えることが必要です。ですから場合によっては売らないこともあります。一方、世界には大変な影響力のあるコレクターがいて、彼らが購入したこと自体が作品の評価へ結び付くこともあります。こうした人たちに積極的に売込むことが大切です。日本にも、質の高いコレクターはいますが、やはりマーケットの中心は欧米で、圧倒的に市場規模が大きく、層も厚く、システムも出来上がっています。また国内で見ても、現代美術の市場は洋画や日本画に比べれば赤子のようなものです。洋画は特殊な世界で、国内でヒエラルキーが完成しています。しかし世界マーケットという視点で見れば日本以外で日本人の書いた西洋画が売れるでしょうか。大変難しいものと思います。一方、日本画は院展(注7)などのマーケット戦略が確立していて、非常に高価なために、海外では信じられない価格になっています。また洋画や日本画に比べると、確立されていない分、好きな人の層がかわってくるのも特徴です。
 

片岡:

現代美術はユニバーサルな可能性を秘めているわけですね。さて、その現代美術は、最近特に人気ですね。
 

小山

新人の作品は価格が安いため、この価格ならば…と購入できる層も多く、慢性的に品薄状態です。一方、他の分野のアーティストにも、流れに合わせて現代美術の制作に取組む人も多く、むしろ近代の作品が品薄になっています。
 

片岡:

価格はどうやって決めるのでしょうか。
 

小山

過去の事例や相場なども参考にしていますが、結局は売れる値段をつけます。売れれば値段も自然と上がっていきますから。例えば、奈良美智(注8)の場合、1996年当初、A4サイズの作品で4万円程度でしたが、今は180万円位します。もともと30万円位まではいくかな…と漠然と考えてはいたのですが、予測は難しいですね。
 

片岡:

村上隆注9の『Miss Ko2』はニューヨークのオークションで当時の日本の現代美術作品としては最高の50万ドル超える値が付き話題となりました。
 

小山

この取引はセカンダリーで、私が関与したものではないのですが、ニュースを聞いて『すぐ日本に向かって広報しなくては…』と頑張りました。
 

片岡:

オークションで高値が付くと、どのような影響があるのでしょうか。
 

小山

セカンダリーは一気に値が上がりますが、プライマリーは変化が緩やかです。もともと同じ画家の作品であって1996年と2006年の作品では違うはずですし、絵の値段には、どこに、誰に収蔵されたか、どういった評価を得たかということも大切な要因です。このため本来は、新作の値段に直接的に反映するわけではありません。ニューヨークやロサンゼルスのマーケットは、こうした経験を多く持っていますが、日本では僅かに版画で似たようなことがあったのみです。このためプライマリーとセカンダリーの価格の乖離が大きくなり、利鞘を目的とした投機的なバイヤーが増えすぎますので、マーケットの状況を見ながらプライマリーも少しずつ価格を上げていきます。オークションは、客にとってはとてもクリアなシステムですが、ある意味で必要悪と言えるかもしれません。
 

片岡:

最後に、ギャラリストとしての醍醐味をお聞かせ下さい。
 

小山

これだと思った無名作家の作品を、海外へ持ち込んで美術館のコレクションに売込みます。例えば、ロサンゼルス現代美術館(注10)のキュレーター(注11)は、当時無名だった工藤麻紀子(注12)の作品を美術館のファンドを使って200万円で買取りました。彼らが、このリスクを取った時が快感です。公的な機関がそうしたことをするのは格好いいですよ。日本の美術館は、価値が出来上がったものしか買いませんし、全体を見ることなく好き、嫌いといった判断に頼り、マーケットや情報への意識が乏しく、ダイナミズムに欠けます。しかし、海外、特に米国の美術館には自分たちで新しい価値を創る意気込みがあります。そして画廊との関係も厭わず、美術館が企画展を開催し、画廊で販売するといった連携を通して、新しいマーケットが生み出されています。日本の美術館にも、そうした意気込みや柔軟性を持って欲しいものです。
 

片岡:

有難うございました。
 

(敬称略)

−完−

 

インタビュー後記

価格が安く、手間もかかるプライマリー・マーケットは、一般的にセカンダリーと比べて儲けが少ないと言われています。小山さんは、そのようなプライマリーにこだわり、日本のアートの力を信じ、惚れん込んだ無名の作家たちの作品を世界に次々と売り込んでいます。まさに小山さん挑戦は新しい価値と市場の創造で、そうした活動のもとで、村上隆、奈良美智といった世界的なアーティストが育ち、アート界を活性化させています。さて、小山さんの背景の写真も、そうした気鋭のアーティストの一人、蜷川実花
(注13)の作品で南国の墓地に咲く造花がモチーフです。南国の墓地では、生花はすぐに腐敗しますので、死者のために独特の造花文化が育まれました。蜷川さんは、そうした造花に魅せられ、写真を撮り続けているそうです。
 

  

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

ジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns) 1930年米国ジョージア州生れ 米国の画家。ネオ・ダダやポップ・アートの先駆者。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジャスパー・ジョーンズ
 

注2 

西村画廊
http://www.nishimura-gallery.com/
〒103-0027東京都中央区日本橋2-10-8 
Tel. 03-5203-2800 Fax. 03-3231-2010
Open Hour 10:30 a.m.- 6:30 p.m.
日曜/月曜/祝日 休廊
 

注3 

白石コンテンポラリーアート
http://www.scaithebathhouse.com/ja/
SCAI THE BATHHOUSE /(株)白石コンテンポラリーアート【谷中】
住所: 〒110-0001 東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
Tel: 03-3821-1144
Fax: 03-3821-3553
開廊時間: 12:00〜19:00
日・月・祝日 休廊
 

注4

小山登美夫ギャラリー
http://www.tomiokoyamagallery.com/

小山登美夫ギャラリー
〒135-0024 東京都江東区清澄1-3-2-7F
電話:03-3642-4090
FAX:03-3642-4091
開廊時間:火〜土曜日 12:00〜19:00
休廊日:日・月曜日 及び 祝日

TKG Editions
〒104-0061 東京都中央区銀座1-22-13 銀座カーサ1F
Tel/Fax 03-5250-1561
営業時間:火〜土曜日 11:30〜19:00
定休日:日・月曜日 及び 祝日
 
TKG Daikanyama (2007年9月14日 オープン)
東京都渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドギャラリーA棟 1
TEL:03-3642-4090 (9月14日まで)
営業日:火〜土曜日 11:00〜19:00
定休日:日・月曜日 及び 祝日
 

注5

小山氏は、学生時代、樋口尚文(現在、映画評論家・電通クリエイティブ・ディレクター)の映画作りにも参加、出演している。
『ゲリラになろうとした男』
1979年 50分 製作・監督・脚本・撮影 樋口尚文 出演 樋口尚文 西英一 小山登美夫 太田裕己 前原利行
『ファントム(DES FANTOMES)』
(1982年 150分)製作 早大政経クリエイティブ、監督・脚本・撮影 樋口尚文 出演 太田裕己 小山登美夫 山本奈津子 利重剛 山田まり
『ファントム(DES FANTOMES)』
(1983年 150分)製作 早大政経クリエイティブ、監督・脚本・撮影 樋口尚文 出演 太田裕己 小山登美夫 山本奈津子
 

注6

プライマリー、セカンダリー
プライマリー(プライマリー・マーケット)は、アーティストの新作を展示、販売するという、第一次的な取引を示し、セカンダリー(セカンダリー・マーケット)は、その後の既に市場に出た作品の取引を示す。
 

注7

院展
院展については以下をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/日本美術院
 

注8

奈良美智
1959年、青森県出身。現代美術を代表するアーティスト。武蔵野美術大学中退、愛知県立芸術大学美術学部卒、同大大学院修了。渡独、デュッセルドルフ芸術アカデミーに在籍。
http://www.tomiokoyamagallery.com/
http://harappa-h.org/AtoZ/modules/news/
http://ja.wikipedia.org/wiki/奈良美智
 

注9

村上隆
1962年、東京生まれ。アーティスト。カイカイキキ代表。
東京芸術大学美術学部日本画科卒業、同大学大学院美術研究科修士課程修了
同大学院美術研究科博士後期課程修了。日本を代表する現代芸術家で、ルイ・ヴィトンとコラボレートした商品の発表など世界的に活躍。
http://www.kaikaikiki.co.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/村上隆
 

注10

ロサンゼルス現代美術館 (Museum of Contemporary Art, Los Angeles、通称MOCA) は、米国・ロサンゼルス市にある近現代美術専門の西海岸有数の美術館。磯崎新のデザインによる建築物としても著名。
http://www.moca-la.org/
 

注11

工藤麻紀子 1978年青森県生まれ。2002年に女子美術大学油画科卒業。
http://www.tomiokoyamagallery.com/
 

注12

キュレーターについては以下をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/キュレーター
 

注13

蜷川実花 写真家。1972年東京都生れ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。
演出家の蜷川幸雄の長女。その他、映画『さくらん』の監督を務める。
http://ninamika.com/
http://www.tomiokoyamagallery.com/artists/+TABLE/jpn/frame.html
http://www.sakuran-themovie.com/ (さくらん 公式サイト)
 

   
   


(敬称略)


片岡秀太郎の右脳インタビュー

 

 

 

chizai-tank.com

  © 2006 知財問屋 片岡秀太郎商店

更新日:2012/10/30