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第25回  『 右脳インタビュー 』        
2007年12月1日

分林 保弘さん 株式会社日本M&Aセンター 代表取締役社長 
 
 

プロフィール
 
1943年、京都府生まれ
1966年、日本オリベッティ 入社
1986年、日本事業承継コンサルタント協会を設立
1991年、日本M&Aセンター代表取締役社長に就任

 

片岡:

第25回の右脳インタビューは株式会社日本M&Aセンター(注1)の分林保弘さんです。本日は、ご多忙の中、有難うございます。早速ですがご足跡などお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。宜しくお願い致します。
 

分林

高校の頃は山岳部で山スキーばかりしていましたが、実家が能楽の家系ということもあり、大学は能楽の盛んな立命館大学に進学しました。ちょうどその頃、堀江謙一さん(注2)の冒険に大変な刺激を受け、自分の目で世界を見たいと考えついたのが能楽でした。全米の50大学の学長に、能楽の公演をさせて欲しいという手紙を書き、大学総長の推薦状を添えて送りました。35校が受け入れ(滞在費用なども含めて)を表明してくれましたので、友人と二人、貨物船で渡米し、4ヶ月間で35州を公演しながら回りました。
 

片岡:

50校中、35校とは、米国の大学も懐が深いですね。米国社会の印象は如何でしたか?
 

分林

豊かで、快適、そして合理的な国という印象でした。また当時から格差社会としての一面があり、日本もいずれそうなるだろうと思いました。実際、米国でおこったことは殆ど、日本でもおこっています。帰国後は外資系のオリベッティに就職しました。同社は世界中に7万人の従業員を抱えるグローバル企業でしたが、フラットな会社で、稟議書一枚書いたことがありません。外資系は、ある意味で辞めることが前提ですから給与も良く、起業したい私にとってはぴったりでした。また会社にも報告して、在職中に飲食店や投資顧問会社を経営したり…。居心地が良かったこともあり、すぐ独立するつもりが、十数年も長居をしてしまいました。この間、会計士や税理士と仕事を一緒にする機会が多く、日本事業承継コンサルタント協会(現 日本中小企業経営支援専門家協会)(注3)の設立を働き掛けるなどして、中小企業の後継者問題に直面しました。そこで中小企業の友好的なM&Aの仲介事業を専門に行うために、会計人を中心とする150人の出資者を募って日本M&Aセンターを設立、各地に地域M&Aセンター50社を株式を持ち合う形で立ち上げました。
 

片岡:

中小企業の後継者問題についてご教授下さい。
 

分林

最近は子供が親の仕事を継ぐという風潮もなくなり、子供は自分の好きな道を選び、親も子供に大変な思いをさせたくないと、無理を強いることもありません。一方、従業員ではどうかというと、中小企業では社長個人が会社の連帯保証人となっていることが多く、継承に大きなハードルがあります。さらに少子化による消費人口の減少や業界再編の世界的な風潮など、経営者は先行きに強い不安感を持っています。こういったことを解決する手段としてはM&Aが有効です。弊社は各地の有力な会計事務所からなる全国220か所(香港も含め)の地域M&Aセンター、銀行や信用金庫などの200行庫の金融機関、商工会議所などの提携機関から売り手の紹介を受け、仲介を行っています。昨年マザーズに上場しましたが、その後は直接依頼が来ることも多くなりました。弊社は、弊社が取り扱う案件は年商1〜30億円程度の中小企業が80%、そのうち95%が黒字企業です。金額で言えば、2〜3億円程度で、大きい場合ですと100億円を超えるケースもあります。現在国内には270万の会社があり、10人以上の会社が30%(81万社)、そのうち黒字企業は30%(24万社)です。また統計的に中小企業の5割は後継者がいないと言われていますので、12万社がマーケットになります。一方、弊社の取扱高は60社、買い手を入れても120社程度ですから、マーケットは無限です。そうしたこともあり、16年間、黒字、無借金を続け、ここ3,4年は年平均40%の成長です。
 

片岡:

買い手については如何でしょうか?
 

分林

買い手の4割が上場企業です。提携機関からの紹介を待つだけでなく、それぞれITや流通といった専門分野を持つ40名の営業部隊が常時買い手の候補企業を回っています。そうしてプールした1,000社程度の質の高い情報をもとに案件に応じてシナジーを考えながら提案を行っています。勿論、最初は匿名で、本当に興味を持つ会社に対してのみ情報を開示します。秘密保持契約を結んだ上とは言っても、やはりあまり多くというわけにはいかないので、通常開示を行うのは3社程度です。またこうすることで、売り手にも『自ら選択した』という満足感が得られます。
 

片岡:

売り手と買い手は別のスタッフが担当しているのでしょうか、また株価の評価はどのように行っているのでしょうか?
 

分林

売り手と買い手の担当は、結果的に別のスタッフになることが多いのですが、特に社内規定として定めているわけではありません。また評価額の算定は、第3者機関とまではいきませんが、社外の提携機関も含めて2重3重にチェックしています。勿論、この評価額も目安に過ぎず、最終的には複数社の競争によって買収額が決まります。
 

片岡: 報酬体系についてお聞かせ下さい。
 

分林

売り手から成功報酬で依頼を受けています。話が進み、株価の評価を行う段階で初めて算定費用として200万〜300万円、M&Aが8割がた成約に向かった段階で若干の中間金を、大部分の仲介手数料は成約時に譲渡額に応じて戴きます。また買い手からも秘密保持契約を結ぶ3社に入った段階で情報料として100万円程度を戴きます。買い手に戴くのはこれだけですし、買収に至らなかった2社にはお返しすることもあります。弊社の場合、5割程度の成約率がありますが、こうした成功報酬の体系は一定数以上の案件をこなすようにならないと難しいものと思います。
 

片岡:

売り手側のアドバイザーは誰が務めるのでしょうか?
 

分林

案件を持ち込んだ会計事務所がそのまま売り手側のアドバイザーを務めることが多くあります。
 

片岡:

紹介料だけでなく、そうしたインセンティブもあるわけですね。ところで、M&Aの専門チームが買い手のアドバイザーを務めるケースもあるものと思います。経験の少ない地方の会計事務所では不利になるのこともあるのではないでしょうか?
 

分林

複数社の買い手がつかない、つまり一対一となる案件は引き受けません。そのようにして競争を行うことで、いわば市場価格となり、売り手に不利とならないようにしています。弊社は基本的に売り手側で、売り手が買い手を選ぶという考え方です。買い手が主導する欧米と異なり、日本で中小企業のM&Aを成功させるには売り手から依頼を受ける方が現実的で、良い売り手を如何に見つけるかが大切なポイントです。
 

片岡:

中小企業の国際化が急速に進んでおります。御社の海外展開についてお聞かせ下さい。
 

分林

香港には既に進出し、タイでは地元の有力銀行と進出の話を詰めています。同行の頭取は日本語が話せてコミュニケーションも円滑です。また韓国やシンガポールなどからも引き合いがあります。こうした海外展開は、海外での実績のある日本アジア投資(注4)と提携して行っています。
 

片岡:

主に買い手と売り手のどちら側を意識して展開しているのでしょうか?
 

分林

今のところ海外の企業は買い手として考えています。海外での企業買収には、まだいろいろな面で不確定なリスクが多くあり、企業買収のマーケットとしては考えていません。一方、海外からの日本企業の買収には旺盛な需要があり、また買い手として見れば心配もあまりありません。更に弊社が買い手の対象とする外国企業は既に日本進出しているか、日本企業との豊富なビジネス経験を持つ企業に限定していますので、被買収企業の従業員にも説明を十分行うことで安心して戴いているものと思います。
 

片岡:

海外にはよく行くのでしょうか?
 

分林

毎年グループ各社を集め、視察を兼ねた国際会議をトルコやニュージーランド、ロシア、東欧など各地で開いています。経営者や経営者と接する機会の多い会計人は刻々と変わる世界を実際に目で見ることが必要だと思っています。またプライベートでも、先日、ニューオリンズに行ってきました。やはりジャズは素晴らしかったですね。ジャズは土着で、能楽も同じですが、芸能とは本来そういうものだと思います。私は好奇心が強く、旅が好きで、年に4回ほど行っています。結局のところ、私の人生のベースは40年前の渡米経験にあったようです。
 

片岡:

貴重なお話を有難うございました。
 

(敬称略)

−完−

 

インタビュー後記

中小企業のM&Aは、サイズの割に手間とコストがかかる一方、それに見合う報酬を得難い面もあります。そのような中で、分林さんは客を選別しながら、巧みに独自のビジネスの仕組みを作り上げ、マーケットを切り開いています。そして何よりも設立時から周囲に実に多くの人を惹きつけています。150人の出資者、50の地域M&Aセンター…。また同社を辞めた人は、ほぼゼロだそうです。

  

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

会社名 株式会社日本M&Aセンター(Nihon M&A Center Inc.)
http://www.nihon-ma.co.jp/
設立 1991年4月25日
資本金 10億円(東証一部上場 証券コード:2127)
代表者 代表取締役社長 分林 保弘
代表取締役副社長 三宅 卓
役職員数 60名
所在地 東京本社
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-8-1 丸の内トラストタワーN館12階
TEL:03-5220-5454(代) FAX:03-5220-5455
事業内容
・M&A仲介
・企業評価の実施
・MBO支援
・企業再生支援
・コーポレートアドバイザリー
・資本政策・経営計画
・コンサルティング
・企業再編支援
 

注2 

堀江 謙一(1938年大阪府生まれ ) 海洋冒険家
1962年、マーメイド号による太平洋単独航海に成功。
詳しくは下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/堀江謙一
http://www1.suntory-mermaid2.com/
 

注3 

有限責任中間法人 日本中小企業経営支援専門家協会(JPBM)
http://www.jpbm.or.jp/
設立日 平成16年10月29日
基金 10,150万円 (平成18年7月6日現在)
理事長 中澤 忠義 協会本部
所在地 〒101-0041  東京都千代田区神田須田町1-2-1 カルフール神田ビル9階
03-3253-4711
 

注4 


日本アジア投資株式会社(略称)JAIC
http://www.jaic-vc.co.jp
本社所在地
〒100-8972 東京都千代田区永田町二丁目13番5号 赤坂エイトワンビル
TEL:03(3504)8518 FAX:03(3504)8511
設立 1981年7月10日
資本金 24,293百万 (ジャスダック証券取引所)
従業員数 連結241名/単独149名

日本M&Aセンターとは、日本プライベートエクイティ株式会社を共同出資で設立。
日本プライベートエクイティ株式会社 (略称 : JPE)
http://www.private-equity.co.jp 
設立  2000年10月24日
資本金 6,000万円
本社所在地 東京都千代田区九段北一丁目14番21号 九段アイレックスビル6F
TEL : 03(3238)1726 FAX : 03(3238)1639
事業内容 : MBOファンドの管理運営、コンサルティング業務
代表取締役会長兼CEO 一志 眞人
代表取締役社長兼COO 法田 真一

株主構成 : 日本アジア投資株式会社   65%
株式会社日本M&Aセンター  35%



 

   
   


(敬称略)


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更新日:2012/10/30